トランプ政権下で再びG7の機能低下が進む
5月20日~22日に、カナダでG7(主要7か国)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる。G20財務大臣・中央銀行総裁会議が4月23・24日に開かれたが、G7財務相・中央銀行総裁会議は、今年1月に第2次トランプ政権が発足して以来初めてだ。「国際協調路線」から「米国第一主義」へと大きく転換したトランプ政権のもとで、G7の協調の枠組みが維持されるかどうかが注目される。
G20財務大臣・中央銀行総裁会議やG20サミット(首脳会議)の枠組みは、米中対立の激化やロシアによるウクライナ侵攻を受けて既に機能低下が著しくなっている。4月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議でも、共同声明のとりまとめは見送られており、各国間の協調は大きく揺らいでいる。
14日米紙ワシントン・ポスト電子版は、米国政府が各省庁に対して、G20に関連する業務の停止を指示したと報じた。トランプ大統領は今年のG20の議長国である南アフリカで、黒人主導の政府が少数派の白人を迫害していると強く批判しており、11月のG20サミットを欠席する考えを示唆している。
トランプ政権はG20の協調の枠組みから距離を置く考えであるが、G7の枠組みについても同様の姿勢をとる可能性がある。これは、第1次トランプ政権時と同じだ。6月15日~17日にはG7サミット(首脳会議)が開かれる。
G20財務大臣・中央銀行総裁会議やG20サミット(首脳会議)の枠組みは、米中対立の激化やロシアによるウクライナ侵攻を受けて既に機能低下が著しくなっている。4月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議でも、共同声明のとりまとめは見送られており、各国間の協調は大きく揺らいでいる。
14日米紙ワシントン・ポスト電子版は、米国政府が各省庁に対して、G20に関連する業務の停止を指示したと報じた。トランプ大統領は今年のG20の議長国である南アフリカで、黒人主導の政府が少数派の白人を迫害していると強く批判しており、11月のG20サミットを欠席する考えを示唆している。
トランプ政権はG20の協調の枠組みから距離を置く考えであるが、G7の枠組みについても同様の姿勢をとる可能性がある。これは、第1次トランプ政権時と同じだ。6月15日~17日にはG7サミット(首脳会議)が開かれる。
G7財務相・中央銀行総裁会議ではトランプ政権の関税政策への批判が強まる
5月20日~22日にカナダで開かれるG7財務相・中央銀行総裁会議では、トランプ政権の関税政策と貿易政策が最大のテーマとなるだろう。4月のG20財務相・中央銀行総裁会議では、トランプ政権の関税政策によって経済への悪影響が強まっているとの批判が各国から噴出した。G7財務相・中央銀行総裁会議でも同様だろう。
関税を巡る2か国協議を進める日本は、トランプ政権の関税政策に対する批判を控える可能性があるだろうが、米国に対して報復関税を打ち出したカナダや報復関税を検討している欧州各国は、トランプ政権への批判を一層強める可能性がある。EU(欧州連合)は8日に、トランプ米政権による一連の関税措置に対抗するため、950億ユーロ(約15兆5,000億円)相当の米国製品に報復関税を課す案を公表した。
ベッセント財務長官は関税策を巡るトランプ政権の姿勢を改めて説明するだろうが、他国からの批判が強い場合には、トランプ政権がG7の枠組みから距離を置くきっかけとなる可能性もあるだろう。
関税を巡る2か国協議を進める日本は、トランプ政権の関税政策に対する批判を控える可能性があるだろうが、米国に対して報復関税を打ち出したカナダや報復関税を検討している欧州各国は、トランプ政権への批判を一層強める可能性がある。EU(欧州連合)は8日に、トランプ米政権による一連の関税措置に対抗するため、950億ユーロ(約15兆5,000億円)相当の米国製品に報復関税を課す案を公表した。
ベッセント財務長官は関税策を巡るトランプ政権の姿勢を改めて説明するだろうが、他国からの批判が強い場合には、トランプ政権がG7の枠組みから距離を置くきっかけとなる可能性もあるだろう。
反関税と自由貿易推進で各国が連携するきっかけとなる可能性も
また米国以外の各国は、世界の自由貿易体制の堅持を主張し、声明文に、保護主義に反対する主旨の文言を盛り込んで、米国を強くけん制することを検討する可能性がある。米国がこの文言に強く反発することで、声明文が公表されない事態となることも考えられるところだ。
G7財務相・中央銀行総裁会議では、貿易政策を巡って、米国と他国とが激しく対立することが予想される。それをきっかけに、米国以外の国々が連携してトランプ政権の関税策の撤回を求める動きが形成される、あるいは米国抜きで世界の自由貿易体制を堅持し、さらなる推進を目指すことが確認される可能性もあるのではないか。そうなれば、G7財務相・中央銀行総裁会議の大きな成果と言えるのではないか。
G7財務相・中央銀行総裁会議では、貿易政策を巡って、米国と他国とが激しく対立することが予想される。それをきっかけに、米国以外の国々が連携してトランプ政権の関税策の撤回を求める動きが形成される、あるいは米国抜きで世界の自由貿易体制を堅持し、さらなる推進を目指すことが確認される可能性もあるのではないか。そうなれば、G7財務相・中央銀行総裁会議の大きな成果と言えるのではないか。
ベッセント財務長官はドル安政策を否定か
トランプ政権が関税策に加えて、ドル安政策を進めるのではないかとの観測が燻ぶる。G7財務相・中央銀行総裁会議でベッセント財務長官はそれを否定するだろうが、トランプ政権のドル安政策を牽制する狙いから、「我々は、2017年5月の(G7財務相・中央銀行総裁会議での)為替相場についてのコミットメントを再確認する」との文言を加えることが議論されるのではないか。
そのコミットメントとは、「為替レートは市場において決定されること」、「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを再確認する」などだ。2017年5月のG7財務相・中央銀行総裁会議での声明文の該当する箇所は以下の通りである。
そのコミットメントとは、「為替レートは市場において決定されること」、「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを再確認する」などだ。2017年5月のG7財務相・中央銀行総裁会議での声明文の該当する箇所は以下の通りである。
「我々は、為替レートは市場において決定されること、そして為替市場における行動に関して緊密に協議することという我々の既存の為替相場のコミットメントを再確認する。我々は、我々の財政・金融政策が、国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられてきていること、今後もそうしていくこと、そして我々は競争力のために為替レートを目標にはしないことを再確認する。我々は、全ての国が通貨の競争的な切下げを回避することの重要性を強調する。我々は、為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを再確認する。」(7か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明(財務省の仮訳)(2017年5月12-13日 於:イタリア・バーリ)
日米為替協議が行われることの意味
加藤財務相は、このG7財務相・中央銀行総裁会議に併せて、ベッセント米財務長官と2回目となる為替協議を実施する方向で調整している。4月に開かれた1回目の日米為替協議の終了後に加藤財務相は、「米国から為替水準の目標や管理の枠組みの話は全くなかった」と説明した。為替市場では、同協議で日本が為替介入などを通じた円安の是正を強く求められるとの観測もあったが、そうした懸念はひとまず緩和されたのである。しかし会談の具体的な中身は明らかにされていない(コラム「日米為替協議が終了:関税策の次の手となるトランプ政権のドル安構想に日本が巻き込まれる可能性:金融市場の混乱がドル安構想を阻むか」、2025年4月25日)。
この場では、ベッセント財務長官は日本に対して上記のG7での合意を遵守することを求め、加藤財務相も同じく米国に対してG7での合意を遵守することを求めるという、異例の形になったとされる。ベッセント財務長官は日本が円安政策を取っており、それは「通貨の競争的な切下げ」を否定するG7の合意に照らして問題である、円安政策は「経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得る」と指摘しているのだろう。
他方で加藤財務相は、「為替レートは市場において決定される」とのG7の合意に焦点を当て、米国が、日本に対してドル売り円買い介入を通じて円安を修正するように求めることがないようにくぎを刺しているように見える。いずれにせよ、両者の睨み合いの構図は第2回の為替協議でも続くのではないか。
ベッセント財務長官は、G7財務相・中央銀行総裁会議で、トランプ政権がドル安政策を取ることを否定するかもしれない。しかし、現状はそうであっても、この先、関税政策が行き詰まりを強めていけば、貿易赤字削減手段として政策の軸足を移していく可能性は十分に考えられる。その際には、与しやすい日本に円安修正やドル安政策への協力を求めるのではないか(コラム「トランプ関税の次はドル安政策か:トリフィンの流動性ジレンマとミランの『マールアラーゴ合意』」、2025年5月8日)。
トランプ政権が2国間の関税協議と並行して2国間の為替協議を行うように求めたのは日本だけであり、それには意味があるはずだ。
この場では、ベッセント財務長官は日本に対して上記のG7での合意を遵守することを求め、加藤財務相も同じく米国に対してG7での合意を遵守することを求めるという、異例の形になったとされる。ベッセント財務長官は日本が円安政策を取っており、それは「通貨の競争的な切下げ」を否定するG7の合意に照らして問題である、円安政策は「経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得る」と指摘しているのだろう。
他方で加藤財務相は、「為替レートは市場において決定される」とのG7の合意に焦点を当て、米国が、日本に対してドル売り円買い介入を通じて円安を修正するように求めることがないようにくぎを刺しているように見える。いずれにせよ、両者の睨み合いの構図は第2回の為替協議でも続くのではないか。
ベッセント財務長官は、G7財務相・中央銀行総裁会議で、トランプ政権がドル安政策を取ることを否定するかもしれない。しかし、現状はそうであっても、この先、関税政策が行き詰まりを強めていけば、貿易赤字削減手段として政策の軸足を移していく可能性は十分に考えられる。その際には、与しやすい日本に円安修正やドル安政策への協力を求めるのではないか(コラム「トランプ関税の次はドル安政策か:トリフィンの流動性ジレンマとミランの『マールアラーゴ合意』」、2025年5月8日)。
トランプ政権が2国間の関税協議と並行して2国間の為替協議を行うように求めたのは日本だけであり、それには意味があるはずだ。
トランプ政権は米中合意後も関税策の基本的な枠組みは堅持
米国と中国がお互いに関税率を115%ずつ引き下げる電撃的な合意をしたことは、米国と2国間の関税協議を行う国々にも影響を与えている。米中合意はトランプ政権の関税政策が行き詰っていることの表れであり、またトランプ政権が弱みを見せたとの見方が浮上する中、他国は従来以上に強気で対米協議に臨む可能性がある。
インドは、トランプ政権が鉄鋼・アルミニウム製品にかけた25%の追加関税への対抗措置として、一部の米国製品に報復関税を課す方針を世界貿易機関(WTO)に12日付で通知した。
日本も従来よりも強気の姿勢で、第3回目の関税協議に臨むことになるだろう。日本は米国産のトウモロコシや大豆の輸入拡大、日本の自動車を輸入する際の検査など非関税障壁の見直しに加えて、新たにトランプ政権が再生を目指す造船産業への協力を打ち出すことが見込まれる。
他方、日米関税協議では、日本側は自動車など分野別関税も含めた全ての追加関税を見直しの対象にするよう求めているのに対して、トランプ政権は、協議の対象となるのは相互関税の上乗せ部分のみであるとの姿勢を崩していない。英国や中国との貿易合意後も、トランプ政権は25%の自動車、鉄鋼などの分野別関税、10%の相互関税(一律部分)という関税策の基本的な枠組みは堅持している。日米関税協議は早期に合意できる状況ではないだろう。
インドは、トランプ政権が鉄鋼・アルミニウム製品にかけた25%の追加関税への対抗措置として、一部の米国製品に報復関税を課す方針を世界貿易機関(WTO)に12日付で通知した。
日本も従来よりも強気の姿勢で、第3回目の関税協議に臨むことになるだろう。日本は米国産のトウモロコシや大豆の輸入拡大、日本の自動車を輸入する際の検査など非関税障壁の見直しに加えて、新たにトランプ政権が再生を目指す造船産業への協力を打ち出すことが見込まれる。
他方、日米関税協議では、日本側は自動車など分野別関税も含めた全ての追加関税を見直しの対象にするよう求めているのに対して、トランプ政権は、協議の対象となるのは相互関税の上乗せ部分のみであるとの姿勢を崩していない。英国や中国との貿易合意後も、トランプ政権は25%の自動車、鉄鋼などの分野別関税、10%の相互関税(一律部分)という関税策の基本的な枠組みは堅持している。日米関税協議は早期に合意できる状況ではないだろう。
日本車の逆輸入は奇策の域を出ていない
日米関税協議では、日本の自動車メーカーが米国で製造した自動車を日本に逆輸入することで、米国からの自動車輸入額を増やすことを日本政府がトランプ政権に提案する、との観測が生じている。しかしこれは奇策の域を出ていないのではないか。
同じ日本の自動車メーカーが製造する車であっても、日本よりもかなり人件費が高い米国で製造した車は日本よりも割高であるはずだ。日本から米国に輸出し、25%の関税が課される自動車部品を利用する場合には、それもコストに上乗せされる。さらに大幅なドル高円安は、その割高感をさらに増幅しているだろう。それを日本の消費者が喜んで購入するだろうか。
割高な逆輸入車の日本での販売価格を国内で製造された車の販売価格と合わせるため、日本の自動車メーカーが逆輸入車の販売価格を引き下げれば、その分収益が圧迫される。またそれを政府が補助金などで穴埋めすれば、国民の負担になる。
そもそもトランプ大統領が強い不満を持っているのは、米国の自動車メーカーが製造した米国車が日本でほとんど購入されないことであり、その背景に非関税障壁があると主張している。この点から、日本の自動車メーカーが米国で生産した車の逆輸入を増やすことが、トランプ政権側の関税率引き下げの引き出すカードになることにはならないのではないか。
同じ日本の自動車メーカーが製造する車であっても、日本よりもかなり人件費が高い米国で製造した車は日本よりも割高であるはずだ。日本から米国に輸出し、25%の関税が課される自動車部品を利用する場合には、それもコストに上乗せされる。さらに大幅なドル高円安は、その割高感をさらに増幅しているだろう。それを日本の消費者が喜んで購入するだろうか。
割高な逆輸入車の日本での販売価格を国内で製造された車の販売価格と合わせるため、日本の自動車メーカーが逆輸入車の販売価格を引き下げれば、その分収益が圧迫される。またそれを政府が補助金などで穴埋めすれば、国民の負担になる。
そもそもトランプ大統領が強い不満を持っているのは、米国の自動車メーカーが製造した米国車が日本でほとんど購入されないことであり、その背景に非関税障壁があると主張している。この点から、日本の自動車メーカーが米国で生産した車の逆輸入を増やすことが、トランプ政権側の関税率引き下げの引き出すカードになることにはならないのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。