中国のレアアース輸出規制によって米中対立が再燃
中国のレアアース輸出規制が世界の自動車生産の大きな障害となり始めており、世界経済の新たなリスクとして浮上してきた。
トランプ政権による関税策への対抗として、中国は4月にレアアース(希土類)などの重要鉱物の輸出を規制し始めた。レアアースを輸出する際に、政府の許可を義務づけた。輸出の申請には数百ページに及ぶ書類が求められ、許可の可否も不透明で、レアアースの輸出量は従来と比べて半分程度にまで減少しているという。
米中は5月12日に、互いに関税率を大幅に引き下げる合意を成立させた。米国では、レアアースの輸出規制で自動車などの生産活動に大きな支障が生じたことから、中国のレアアースの輸出再開を条件に、米国が関税率の大幅引き下げに応じたことで合意が成立したとみられる。
しかしそれ以降もレアアースの輸出規制が続いているとして、トランプ政権は中国政府を強く批判し、追加的な報復措置を打ち出した。その結果、米中間の対立は再び激しさを増し、合意は崩壊の危機に瀕している(コラム「米中貿易合意は崩壊の危機か:半導体とレアアースを巡る覇権争い」、2025年6月4日)。
トランプ政権による関税策への対抗として、中国は4月にレアアース(希土類)などの重要鉱物の輸出を規制し始めた。レアアースを輸出する際に、政府の許可を義務づけた。輸出の申請には数百ページに及ぶ書類が求められ、許可の可否も不透明で、レアアースの輸出量は従来と比べて半分程度にまで減少しているという。
米中は5月12日に、互いに関税率を大幅に引き下げる合意を成立させた。米国では、レアアースの輸出規制で自動車などの生産活動に大きな支障が生じたことから、中国のレアアースの輸出再開を条件に、米国が関税率の大幅引き下げに応じたことで合意が成立したとみられる。
しかしそれ以降もレアアースの輸出規制が続いているとして、トランプ政権は中国政府を強く批判し、追加的な報復措置を打ち出した。その結果、米中間の対立は再び激しさを増し、合意は崩壊の危機に瀕している(コラム「米中貿易合意は崩壊の危機か:半導体とレアアースを巡る覇権争い」、2025年6月4日)。
自動車を中心に幅広い分野で米国企業に影響が及ぶ
中国のレアアース輸出規制措置は、米国の自動車を中心に、航空宇宙、半導体、防衛産業など、主要メーカーのサプライチェーンに幅広く影響を与えている。自動車メーカーは、電気自動車(EV)のモーターに使われるテルビウムなどのレアアースを必要とするほか、内燃機関車でもセンサーや電子機器系統などにもレアアースが使われている。これらレアアースの精製加工で、中国は市場を支配している。
特に問題視されているのが「レアアース磁石」だ。これはワイパーモーターからABS(アンチロック・ブレーキ・システム)センサーに至るまで、ほとんどの自動車の主要部品に使われている。
ゼネラル・モーターズ(GM)は5月に、トランプ政権に非公開の書簡を送り、中国のレアアース輸出規制がもたらす苦境を訴えたという。フォード・モーターは、中国のレアアース輸出承認手続きの遅れにより部品の輸送が滞るケースが発生しており、輸送コストも一部で上昇していると明らかにした。さらに5月には、レアアースの不足を受けて、シカゴ工場でスポーツタイプ多目的車(SUV)「エクスプローラー」の生産を1週間停止せざるを得なかったことを明らかにしている。
特に問題視されているのが「レアアース磁石」だ。これはワイパーモーターからABS(アンチロック・ブレーキ・システム)センサーに至るまで、ほとんどの自動車の主要部品に使われている。
ゼネラル・モーターズ(GM)は5月に、トランプ政権に非公開の書簡を送り、中国のレアアース輸出規制がもたらす苦境を訴えたという。フォード・モーターは、中国のレアアース輸出承認手続きの遅れにより部品の輸送が滞るケースが発生しており、輸送コストも一部で上昇していると明らかにした。さらに5月には、レアアースの不足を受けて、シカゴ工場でスポーツタイプ多目的車(SUV)「エクスプローラー」の生産を1週間停止せざるを得なかったことを明らかにしている。
中国のレアアース規制の影響は欧州、日本にも
中国のレアアース規制の影響を受けているのは、米国企業だけではない。中国の輸出規制の影響は、米国にとどまらず多くの輸出先国に同時に及んでいる。
ドイツのメルセデス・ベンツグループとBMWは、レアアースを含む自動車部品の不足を回避するために、サプライヤーとの協議を進めているとしている。欧州自動車部品工業会(CLEPA)によると、欧州の一部の自動車部品メーカーではレアアースが不足し、工場や生産ラインの操業が既に停止しており、今後さらに混乱が広がる可能性があるという。
欧州の自動車部品メーカーは4月初旬以降、中国に対して数百件の輸出承認を要請したが、これまでのところ全体の25%しか輸出が認められていないとされる。
さらに、影響はついに日本の自動車メーカーにも及んできた。ロイターは5日、中国によるレアアースの輸出規制の影響で、スズキが5月下旬から小型車「スイフト」の国内生産を停止していることが分かった、と報じた。スズキは5月26~30日、6月2~6日にスイフトの生産を停止すると発表していたが、その理由は公表していなかった。
ドイツのメルセデス・ベンツグループとBMWは、レアアースを含む自動車部品の不足を回避するために、サプライヤーとの協議を進めているとしている。欧州自動車部品工業会(CLEPA)によると、欧州の一部の自動車部品メーカーではレアアースが不足し、工場や生産ラインの操業が既に停止しており、今後さらに混乱が広がる可能性があるという。
欧州の自動車部品メーカーは4月初旬以降、中国に対して数百件の輸出承認を要請したが、これまでのところ全体の25%しか輸出が認められていないとされる。
さらに、影響はついに日本の自動車メーカーにも及んできた。ロイターは5日、中国によるレアアースの輸出規制の影響で、スズキが5月下旬から小型車「スイフト」の国内生産を停止していることが分かった、と報じた。スズキは5月26~30日、6月2~6日にスイフトの生産を停止すると発表していたが、その理由は公表していなかった。
貿易政策を巡る対立は新たな構図に
欧州及び日本は、中国に対してレアアースの輸出規制の見直しを求める一方、トランプ政権に対しても、中国との対立を緩和させ、中国の輸出規制の見直しにつなげるように働きかけている模様だ。これは、日米関税協議でも新たな論点となるだろう(コラム「第4回日米関税協議が終了:経済安全保障政策の連携が新たな焦点に:トランプ政権は米中関税協議の停滞に強い不満」、2025年6月2日)。
米ホワイトハウスのレビット報道官は、「トランプ大統領と中国の習近平国家主席が今週中に電話会談を行う予定であり、レアアース輸出規制措置が主要議題となるだろう」と述べている。この米中首脳電話会談が、レアアース輸出規制の見直しにつながるかどうかが当面の大きな注目点となる。
トランプ政権による関税策は、「米国VS他国」という対立の構図を一気に作り上げたが、レアアースの輸出規制は「中国VS他国」という新たな対立の構図を生んでおり、世界の貿易政策を巡る対立は一段と複雑さを増し始めている。
(参考資料)
「中国レアアース輸出規制、欧州で自動車部品メーカーが操業停止」、2025年6月5日、ロイター
「中国レアアース規制、自動車大手から懸念の声-部品不足で生産停止も」、2025年6月5日、ブルームバーグ
「スズキ、中国レアアース輸出規制で「スイフト」生産停止=関係者」、2025年6月5日、ロイター
米ホワイトハウスのレビット報道官は、「トランプ大統領と中国の習近平国家主席が今週中に電話会談を行う予定であり、レアアース輸出規制措置が主要議題となるだろう」と述べている。この米中首脳電話会談が、レアアース輸出規制の見直しにつながるかどうかが当面の大きな注目点となる。
トランプ政権による関税策は、「米国VS他国」という対立の構図を一気に作り上げたが、レアアースの輸出規制は「中国VS他国」という新たな対立の構図を生んでおり、世界の貿易政策を巡る対立は一段と複雑さを増し始めている。
(参考資料)
「中国レアアース輸出規制、欧州で自動車部品メーカーが操業停止」、2025年6月5日、ロイター
「中国レアアース規制、自動車大手から懸念の声-部品不足で生産停止も」、2025年6月5日、ブルームバーグ
「スズキ、中国レアアース輸出規制で「スイフト」生産停止=関係者」、2025年6月5日、ロイター
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。