膠着が続く日米関税協議
第5回目の日米関税協議のために訪米中の赤沢大臣は、米国時間の5日にラトニック商務長官との会談に臨んだ。6日にはベッセント財務長官とも会談する予定、と報じられている。
相互関税の上乗せ分について、米国側が引き下げに柔軟な姿勢を示していると時事通信は報じているが、実際のところはまだよく分からない。米国側は、現在の2国間協議は、7月9日まで90日間停止されている相互関税の上乗せ分(日本に対しては14%)の扱いを議論する場、との位置づけだ。これに対して日本側は、25%の自動車関税を含むすべての追加関税策の見直しをこの協議で要求しており、両者の議論はかみ合っていない。
米中間でレアアースと半導体を巡る覇権争いが高まっていることから(コラム「米中貿易合意は崩壊の危機か:半導体とレアアースを巡る覇権争い」、2025年6月4日、「中国のレアアース輸出規制が世界の自動車生産に打撃:世界経済の新たなリスクにも」、2025年6月5日)、それに関連して、日本が何らかの対中政策を米国に提案するとの観測も出ている。
しかし、5日の米中首脳電話会談で、両国は関係改善に向けて模索している最中であり、情勢はなお流動的であることから、関税の撤廃・引き下げを引き出す日本側のカードとしては現状では有効でないだろう。
相互関税の上乗せ分について、米国側が引き下げに柔軟な姿勢を示していると時事通信は報じているが、実際のところはまだよく分からない。米国側は、現在の2国間協議は、7月9日まで90日間停止されている相互関税の上乗せ分(日本に対しては14%)の扱いを議論する場、との位置づけだ。これに対して日本側は、25%の自動車関税を含むすべての追加関税策の見直しをこの協議で要求しており、両者の議論はかみ合っていない。
米中間でレアアースと半導体を巡る覇権争いが高まっていることから(コラム「米中貿易合意は崩壊の危機か:半導体とレアアースを巡る覇権争い」、2025年6月4日、「中国のレアアース輸出規制が世界の自動車生産に打撃:世界経済の新たなリスクにも」、2025年6月5日)、それに関連して、日本が何らかの対中政策を米国に提案するとの観測も出ている。
しかし、5日の米中首脳電話会談で、両国は関係改善に向けて模索している最中であり、情勢はなお流動的であることから、関税の撤廃・引き下げを引き出す日本側のカードとしては現状では有効でないだろう。
トランプ大統領が望むのは投資拡大よりも対日貿易赤字の解消
日本側は従来から、対米投資の拡大を約束している。日本製鉄のUSスチール買収が決まれば、140億ドル程度の株式取得と140億ドルの設備投資もこれに加わる。しかし協議を通じて、トランプ大統領が最も強く望んでいるのは、日本の対米投資よりも対米赤字の解消であることが明らかになっている。そのため日本は、軍事装備品も含めて輸入の拡大策を米国側に提案することが求められる。しかし、輸入の拡大だけで昨年8.6兆円に及ぶ対日貿易赤字を一気に解消することは実際のところかなり難しい。日本側には、関税協議で合意を得るために有力なカードはない状況だ。
日米首脳会談が大きな山場に
協議を通じて赤沢大臣は、ベッセント財務長官やラトニック商務長官らに、すべての追加関税の見直しを申し入れたが、彼らはそれを受け入れていない。2国間の関税協議は、90日間停止されている相互関税の上乗せ分の扱いを議論する場であると、トランプ大統領から指示されているためだ。
そこで日本側は、すべての追加関税の見直しを協議の対象とするよう、トランプ大統領にその考えを伝えるように両者らに働きかけているが、上手くいっていないようだ。
日本が最大の関心を持っているのが、自動車への25%関税の撤廃あるいは見直しであるが、今月の日米首脳会談は、それを伝える絶好の機会となる。
しかし、石破首相がトランプ大統領と直接会談を行えば、現在分けて議論されている為替政策、安全保障政策と関税政策を絡めて、トランプ大統領が日本に対して強い要求を突き付けてくる可能性がある。
日米首脳会談は日本にとっては膠着している関税協議の事態打開の好機であると同時に大きなリスクともなり得る。
そこで日本側は、すべての追加関税の見直しを協議の対象とするよう、トランプ大統領にその考えを伝えるように両者らに働きかけているが、上手くいっていないようだ。
日本が最大の関心を持っているのが、自動車への25%関税の撤廃あるいは見直しであるが、今月の日米首脳会談は、それを伝える絶好の機会となる。
しかし、石破首相がトランプ大統領と直接会談を行えば、現在分けて議論されている為替政策、安全保障政策と関税政策を絡めて、トランプ大統領が日本に対して強い要求を突き付けてくる可能性がある。
日米首脳会談は日本にとっては膠着している関税協議の事態打開の好機であると同時に大きなリスクともなり得る。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。