レアアースと半導体の支配権を争う米中間の対立の構図は続く
ロンドンで2日間にわたって行われていた米中貿易協議は10日に終了し、5月のジュネーブでの合意内容を実行に移し、緊張を緩和する枠組みで両国が合意した。
ジュネーブで行われた米中貿易協議で、中国のレアアース輸出規制の停止と両国がお互いに課している関税率を大幅に引き下げることで合意が成立した。しかしその後、中国政府が表明したレアアース輸出緩和に関する約束が履行されていないとして、米国が批判を強めた。他方、中国はトランプ政権が実施した対中半導体輸出規制などを強く批判するなど、両国間の対立が強まっていた。
そこでトランプ大統領が呼びかける形で、米中首脳電話会談を行い、それが、今回の閣僚間協議につながった(コラム「米中首脳電話会談で両国が新たな協議を行うことを確認:両国の対立の根は深く中国側の強気の姿勢は続く」、2025年6月6日)。今回の合意は、両国の首脳が承認することによって正式に発効する見込みだ。
ジュネーブでの米中合意が崩壊し、両国が貿易面で再び激しく対立する事態はなんとか回避された。しかし、レアアースと半導体の支配権を争う米中間の対立の構図は根深く、簡単には解消されないだろう。今回、中国のレアアース輸出規制が米国の経済・産業に甚大な打撃を与えることが浮き彫りとなり、トランプ政権側の弱点を露呈することになったことから、今後も中国は強気の姿勢でトランプ政権と対峙することになるだろう。
また、中国は米国向けレアアースの輸出規制を実施するとしても、他国へのレアアースの輸出が制限される状況も同時に解消されるかどうかは分からない。
ジュネーブで行われた米中貿易協議で、中国のレアアース輸出規制の停止と両国がお互いに課している関税率を大幅に引き下げることで合意が成立した。しかしその後、中国政府が表明したレアアース輸出緩和に関する約束が履行されていないとして、米国が批判を強めた。他方、中国はトランプ政権が実施した対中半導体輸出規制などを強く批判するなど、両国間の対立が強まっていた。
そこでトランプ大統領が呼びかける形で、米中首脳電話会談を行い、それが、今回の閣僚間協議につながった(コラム「米中首脳電話会談で両国が新たな協議を行うことを確認:両国の対立の根は深く中国側の強気の姿勢は続く」、2025年6月6日)。今回の合意は、両国の首脳が承認することによって正式に発効する見込みだ。
ジュネーブでの米中合意が崩壊し、両国が貿易面で再び激しく対立する事態はなんとか回避された。しかし、レアアースと半導体の支配権を争う米中間の対立の構図は根深く、簡単には解消されないだろう。今回、中国のレアアース輸出規制が米国の経済・産業に甚大な打撃を与えることが浮き彫りとなり、トランプ政権側の弱点を露呈することになったことから、今後も中国は強気の姿勢でトランプ政権と対峙することになるだろう。
また、中国は米国向けレアアースの輸出規制を実施するとしても、他国へのレアアースの輸出が制限される状況も同時に解消されるかどうかは分からない。
中国レアアースへの対応で米国と他のG7各国が連携できるか
読売新聞によると、カナダで15~17日に開催される先進7か国首脳会議(G7サミット)で採択が予定される合意文書のうち、重要鉱物分野では、レアアースの中国への輸入依存度を下げることを念頭に、調達先の分散化に向けて目標期限を示す工程表を年内に策定することが盛り込まれる予定だという。
中国によるレアアース輸出規制の影響は欧州や日本にも及んだことから、それへの対応で米国と他の先進国との間が連携できる余地が図らずも生まれている。トランプ関税の影響で、米国と他の先進国の関係は急速に悪化し、第1次トランプ政権と同様にG7の機能が低下することが懸念されたが、レアアースを巡る中国への対応が、両者の対立を緩和する役目を果たす可能性が出てきた。
先般のG7財務相中央銀行総裁会議では、トランプ関税に対する各国の批判が高まったが、ベッセント財務長官の調整力によって、共同声明が発表されない事態は回避されたとされる。
一方今回のG7サミットにはトランプ大統領が出席するため、第1次トランプ政権時と同様に、トランプ大統領と他の首脳との間で激しい対立が露呈することが懸念された。これを回避するために、対立の主な火種となる共同声明の発表を行わないことを事前に取り決めることが検討されているとされる。
中国のレアアース輸出規制は、米国のみならず他の先進国にとっても大きな問題だ(コラム「中国のレアアース輸出規制が世界の自動車生産に打撃:世界経済の新たなリスクにも」、2025年6月5日)。この点で米国と他の先進国が連携して取り組むことが、関税を巡る両者の対立を一定程度緩和し、二国間の関税協議における合意成立を後押しする可能性も考えられるところだ。
(参考資料)
「G7レアアース調達分散」、2025年6月11日、読売新聞
中国によるレアアース輸出規制の影響は欧州や日本にも及んだことから、それへの対応で米国と他の先進国との間が連携できる余地が図らずも生まれている。トランプ関税の影響で、米国と他の先進国の関係は急速に悪化し、第1次トランプ政権と同様にG7の機能が低下することが懸念されたが、レアアースを巡る中国への対応が、両者の対立を緩和する役目を果たす可能性が出てきた。
先般のG7財務相中央銀行総裁会議では、トランプ関税に対する各国の批判が高まったが、ベッセント財務長官の調整力によって、共同声明が発表されない事態は回避されたとされる。
一方今回のG7サミットにはトランプ大統領が出席するため、第1次トランプ政権時と同様に、トランプ大統領と他の首脳との間で激しい対立が露呈することが懸念された。これを回避するために、対立の主な火種となる共同声明の発表を行わないことを事前に取り決めることが検討されているとされる。
中国のレアアース輸出規制は、米国のみならず他の先進国にとっても大きな問題だ(コラム「中国のレアアース輸出規制が世界の自動車生産に打撃:世界経済の新たなリスクにも」、2025年6月5日)。この点で米国と他の先進国が連携して取り組むことが、関税を巡る両者の対立を一定程度緩和し、二国間の関税協議における合意成立を後押しする可能性も考えられるところだ。
(参考資料)
「G7レアアース調達分散」、2025年6月11日、読売新聞
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。