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8月1日には25%の関税が適用か

日本が7月3日に参院選期間に入った直後、トランプ米政権は米国時間7月7日に日本に対して25%の新たな相互関税を書簡で通知した。その発効期限は8月1日と、7月20日の参院選投開票日から2週間足らずである。
 
選挙後の政治情勢は混とんとすることが予想され、政府は米国と協議を行う十分な時間を確保することはできないのではないか。その結果、8月1日には現状10%の日本の相互関税(一律部分)は、25%へ引き上げられる可能性が考えられる。
 
トランプ米大統領は16日に、「日本に関しては恐らく書簡の内容通りになるだろう」と述べ、書簡で示した25%の新相互関税を8月1日に発動するとの認識を示している。
 
赤澤大臣は17日にラトニック商務長官と約45分間、電話協議を行った。米国の関税措置に関する日米の立場を改めて確認したとされるが、合意に近づいたとは思えない。またベッセント財務長官が大阪・関西万博に参加するため18日から日本を訪れる予定であり、石破総理大臣への表敬訪問を行うとされている。その際に関税も議論されるとみられるが、やはり合意に近づくことはないだろう。

選挙後も日米関税協議に臨む政府の強気姿勢は変わらないか

参院選挙では、日米関税協議が大きな争点になっているとまでは言えない。石破首相は日米関税協議を始める前から、野党党首から意見を聞き、与野党一丸となってこの国難に当たる姿勢を明確にしてきた。そのため、日米関税協議が参院選挙で各党間の大きな争点になることは、封じられた感もある。
 
それでも野党からは、日米関税協議に臨む与党・政府の姿勢に対して、一定程度の批判が出されている。
 
まず政府・与党は、米国側が協議の対象としていない自動車関税の撤廃を求め、また、国益を損ねるような安易な譲歩はしない、という強気の姿勢を維持している。こうした姿勢がトランプ大統領の反感を買い、相互関税率は当初の24%から懲罰的な意味を込めて25%に引き上げられたとみられる。その後も石破首相は「(トランプ政権に)なめられてたまるか」などの発言をしており、強気の姿勢を変えていない。
 
トランプ政権の求めに応じて農産物などの輸入拡大を受け入れれば、参院選に悪影響を与えることを警戒して、政府・与党は選挙前にはトランプ政権に大きな譲歩はできないとみられてきた。しかし、参院選が終わっても政府の粘り強く、また強気の交渉姿勢は大きく変わらないだろう。

野党各党の反応は様々

こうした政府・与党の姿勢は、左派色が強い政党からは一定程度の評価を得ている。共産党は、「トランプ関税は許されず、国際協議で全面撤回を求める」としている。さらに、米国と距離を置く外交を主張する。れいわ新選組は「妥結を急がなかったのは戦略的に正しい」と、政府・与党の姿勢を評価している。
 
他方、立憲民主党は「交渉は失敗で、赤澤氏の訪米は成果がなかった」と批判している。そのうえで、トランプ大統領と石破首相による首脳会談での打開を主張する。国民民主党は「(トランプ政権に対する)強気発言は逆効果であり、冷静な交渉が必要」とする。
 
一方、日本維新の会は「交渉の見通しが立たない」と政府の交渉姿勢を批判したうえで、「有志国との経済安全保障体制を構築すべき」と各国が連携してトランプ政権に対峙することを提言している。

今後は他国との連携が重要に

政府が安易な譲歩をしない構えである中、日米関税協議が8月1日までに合意に至る可能性は低く、25%の関税が課されることは覚悟しておく必要があるだろう。その場合、トランプ政権による追加関税全体で、日本のGDPは0.85%押し下げられる計算であり、経済の強い逆風となる(コラム「トランプ米政権は日本に新たな相互関税25%を通知:追加関税全体で日本のGDPを0.85%押し下げ」、2025年7月8日)。
 
参院選が終わっても、トランプ関税は日本経済が抱える大きな問題であることは変わらない。トランプ政権が設定する交渉期限が過ぎても、日本は関税の撤廃・大幅引き下げを求めてトランプ政権と粘り強く交渉を続けることが重要だ。その際に、他国と連携してトランプ政権に対する交渉力を強化することも必要となるのではないか(コラム「トランプ政権はEUとメキシコに30%、カナダに35%の新関税率を示す:各国が連携して米国に対して反撃に転じる転機となるか」、2025年7月14日)。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。