赤澤大臣が訪米して自動車関税率引き下げの早期実施を求める
赤澤経済再生相は、8月5日から9日の日程で米国を訪問する。これは、8月7日にトランプ政権の新相互関税率が発効するタイミングに合わせたものだろう。
訪米の最大の目的は、日米合意で25%から15%に引き下げることが決まった新たな自動車関税について、大統領令による早期発効をトランプ政権に求めることだ。
日米合意に従って相互関税が現在の10%から15%に引き上げられ、自動車関税が現在の25%から15%に引き下げられる場合、第2次トランプ政権下でのすべての追加関税による実質GDPの押し下げ効果(1年間程度)は-0.55%(相互関税の海外経済を通じた間接効果を含めると-0.95%)と、現在の-0.47%から若干拡大する。
ただし、自動車関税率が引き下げられる時期については未定であり、8月7日に相互関税率が15%となっても、自動車関税は25%のままである間は、実質GDPの押し下げ効果(1年間程度)は-0.60%(相互関税の海外経済を通じた間接効果を含めると-1.00%)となる。日本政府は自動車業界からも、関税率の早期引き下げの実施を求められている。
訪米の最大の目的は、日米合意で25%から15%に引き下げることが決まった新たな自動車関税について、大統領令による早期発効をトランプ政権に求めることだ。
日米合意に従って相互関税が現在の10%から15%に引き上げられ、自動車関税が現在の25%から15%に引き下げられる場合、第2次トランプ政権下でのすべての追加関税による実質GDPの押し下げ効果(1年間程度)は-0.55%(相互関税の海外経済を通じた間接効果を含めると-0.95%)と、現在の-0.47%から若干拡大する。
ただし、自動車関税率が引き下げられる時期については未定であり、8月7日に相互関税率が15%となっても、自動車関税は25%のままである間は、実質GDPの押し下げ効果(1年間程度)は-0.60%(相互関税の海外経済を通じた間接効果を含めると-1.00%)となる。日本政府は自動車業界からも、関税率の早期引き下げの実施を求められている。
半導体、医薬品の関税率はどうなるか
さらに日本政府が合意したと認識している一方、米国政府の公表資料では説明されていない他の点についても、再度確認する必要がある。それは、相互関税15%が課される際に、既存の関税率がどのように調整されるかという点である。日本政府は、特定分野にかかっている関税率が15%以上の場合には、それに新たな相互関税が上乗せされることはなく、15%未満の場合には15%の関税率が適用される、という認識だ。
もう一つが、今後分野別関税が課せられる可能性がある半導体、医薬品の関税について最恵国待遇が適用されることを再確認することだ。日本政府は、半導体、医薬品の関税率について、「日本を他国に劣後する形で扱わない」ことで日米が合意した、と説明している。ただし、米国側の資料にはこの点に関する言及がない。
米国政府が欧州連合(EU)との関税合意時に示したファクトシートには、「EUは自動車や自動車部品、医薬品、半導体を含めて米国に15%の関税率を支払う予定」と記されている。これは、今後医薬品、半導体への分野別関税が新たに課される場合でも、EUについては15%の関税率となることを意味しており、この場合、日米合意に基づき最恵国待遇が適用される日本においても、医薬品、半導体への関税率は15%、あるいはそれよりも低くなる、と言うのが日本政府の解釈だ。赤澤大臣はこの点をトランプ政権に再度確認するはずだ。
ただし、EUとの合意についてのファクトシートの記述は、新たな相互関税率15%が適用される時点での医薬品、半導体の関税率が15%であることを意味しており、将来、15%を超える水準の分野別関税率が新たに適用される可能性を排除していないと解釈することもできるのではないか。
もう一つが、今後分野別関税が課せられる可能性がある半導体、医薬品の関税について最恵国待遇が適用されることを再確認することだ。日本政府は、半導体、医薬品の関税率について、「日本を他国に劣後する形で扱わない」ことで日米が合意した、と説明している。ただし、米国側の資料にはこの点に関する言及がない。
米国政府が欧州連合(EU)との関税合意時に示したファクトシートには、「EUは自動車や自動車部品、医薬品、半導体を含めて米国に15%の関税率を支払う予定」と記されている。これは、今後医薬品、半導体への分野別関税が新たに課される場合でも、EUについては15%の関税率となることを意味しており、この場合、日米合意に基づき最恵国待遇が適用される日本においても、医薬品、半導体への関税率は15%、あるいはそれよりも低くなる、と言うのが日本政府の解釈だ。赤澤大臣はこの点をトランプ政権に再度確認するはずだ。
ただし、EUとの合意についてのファクトシートの記述は、新たな相互関税率15%が適用される時点での医薬品、半導体の関税率が15%であることを意味しており、将来、15%を超える水準の分野別関税率が新たに適用される可能性を排除していないと解釈することもできるのではないか。
対米投資計画で日米の説明は大きく食い違う
日米合意を巡り、両国間で最も認識の違いが大きいのは、5,500億ドルの対米投資計画だ。米国政府が示す資料や高官の説明では、日本は銀行として米国に金を出し、米国政府が主導してそのお金を使って米国の中核産業を再建、拡大する枠組みとなっている。さらに、利益の9割は米国に帰属するとしている(コラム「『対米投資5500億ドルで米国が9割の利益を得る』の意味は未だ不透明:正式な合意文書の作成が求められる」、2025年7月28日、コラム「日米で大きな認識のずれを残す日米関税合意と5500億ドルの対米投資計画」、2025年7月30日)。
日本政府は、日本の政府系金融機関が出資、融資、融資保証を通じて日本企業の対米投資を支援するが、その出資は全体の1~2%にとどまり、さらにその出資に対する利益のうち9割を米国に譲渡する、という枠組みと説明している。日本の政府系金融機関は、日本企業の発展のために設立され、その剰余金の一部は国庫に納付されている。そうした政府系金融機関の利益の9割を米国に渡すという合意自体、大きな問題を抱えている。
いずれにしても、対米投資計画を巡る日米の説明には著しく大きな乖離があり、このような状況では、合意が成立したとは言い難い。
日本政府は、日本の政府系金融機関が出資、融資、融資保証を通じて日本企業の対米投資を支援するが、その出資は全体の1~2%にとどまり、さらにその出資に対する利益のうち9割を米国に譲渡する、という枠組みと説明している。日本の政府系金融機関は、日本企業の発展のために設立され、その剰余金の一部は国庫に納付されている。そうした政府系金融機関の利益の9割を米国に渡すという合意自体、大きな問題を抱えている。
いずれにしても、対米投資計画を巡る日米の説明には著しく大きな乖離があり、このような状況では、合意が成立したとは言い難い。
両国間での認識のずれは将来に大きな禍根を残しかねない
石破首相は5日の参院予算委員会集中審議で、トランプ政権が公表している日米関税合意に関するファクトシートについて、日本版ファクトシートの公表を求められた。石破首相は、「国民の不安を解消するためにもその方向で検討する」と前向きの姿勢を示した。
しかし、合意内容に対する日本政府の認識を改めて示すのであるとすれば、日本版ファクトシートを公表する意味はないだろう。重要なのは、対米投資計画の枠組みを中心に、日米間の認識のずれを埋め、そのうえで、両国が共同で合意文書を公表することではないか。赤澤大臣には、訪米中にそこまでの役割を果たして欲しい。
両国間で大きな認識のずれがあることを黙認すれば、それは将来に大きな禍根を残すことになりかねないのではないか。日本側の合意内容に履行について、米国側の認識と違ったとして、トランプ政権が合意を破棄して、再び高い関税を日本に課す事態もあり得るだろう。
しかし、合意内容に対する日本政府の認識を改めて示すのであるとすれば、日本版ファクトシートを公表する意味はないだろう。重要なのは、対米投資計画の枠組みを中心に、日米間の認識のずれを埋め、そのうえで、両国が共同で合意文書を公表することではないか。赤澤大臣には、訪米中にそこまでの役割を果たして欲しい。
両国間で大きな認識のずれがあることを黙認すれば、それは将来に大きな禍根を残すことになりかねないのではないか。日本側の合意内容に履行について、米国側の認識と違ったとして、トランプ政権が合意を破棄して、再び高い関税を日本に課す事態もあり得るだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。