香港が来年初めにもステーブルコイン発行へ
米議会では、ドルなどの法定通貨や商品(コモディティ)と価値が連動するように設計された暗号資産(仮想通貨)「ステーブルコイン」の規制整備に関するGENIUS法案が上下両院で可決され、7月18日にトランプ大統領が署名して成立した(コラム「米国で進むステーブルコインの規制整備(3):GENIUS法が成立:ドル覇権の維持を狙うトランプ政権」、2025年7月23日)。
香港でも、ステーブルコインを解禁する条例が8月1日に施行された。香港金融管理局(HKMA)は、2024年からステーブルコインの実証実験を進めてきた。債券やファンド、温暖化ガスの排出権取引や貿易金融など多岐にわたる資産に基づくトークン(財産的価値)をブロックチェーン(分散型台帳)技術で発行するものだ。こうした現実世界に存在する資産の価値や所有権を権利化したものは、RWA(Real World Asset)トークンと呼ばれる。英HSBC、スタンダードチャータード銀行、中国銀行などの主要銀行のほか、アリババ系のアント・デジタルなどの企業も実証実験に参加した。
同条例では、HKMAから免許を受けた業者だけがステーブルコインを発行できると定められた。発行を希望する企業は9月末までに申請書を提出する必要がある。HKMAが審査を行い、2026年初旬にも業者が選定される。現時点では50程度の業者が申請しているというが、来年初めに発行が認められるのは少数とみられる。HKMAの余偉文総裁は「初期段階では数件しか許可しない」としている。
業者は十分な資本準備や、発行額と同額の裏付け資産を保有することが求められる。また適切な情報開示やマネーロンダリング(資金洗浄)の防止措置なども条件となる。実名登録(KYC)ルールにより発行者にすべてのステーブルコイン保有者の身元確認が義務付けられる。それが、ステーブルコインの普及と世界のデジタル金融市場における香港の競争力を阻害する可能性があるとの指摘もある。
香港でも、ステーブルコインを解禁する条例が8月1日に施行された。香港金融管理局(HKMA)は、2024年からステーブルコインの実証実験を進めてきた。債券やファンド、温暖化ガスの排出権取引や貿易金融など多岐にわたる資産に基づくトークン(財産的価値)をブロックチェーン(分散型台帳)技術で発行するものだ。こうした現実世界に存在する資産の価値や所有権を権利化したものは、RWA(Real World Asset)トークンと呼ばれる。英HSBC、スタンダードチャータード銀行、中国銀行などの主要銀行のほか、アリババ系のアント・デジタルなどの企業も実証実験に参加した。
同条例では、HKMAから免許を受けた業者だけがステーブルコインを発行できると定められた。発行を希望する企業は9月末までに申請書を提出する必要がある。HKMAが審査を行い、2026年初旬にも業者が選定される。現時点では50程度の業者が申請しているというが、来年初めに発行が認められるのは少数とみられる。HKMAの余偉文総裁は「初期段階では数件しか許可しない」としている。
業者は十分な資本準備や、発行額と同額の裏付け資産を保有することが求められる。また適切な情報開示やマネーロンダリング(資金洗浄)の防止措置なども条件となる。実名登録(KYC)ルールにより発行者にすべてのステーブルコイン保有者の身元確認が義務付けられる。それが、ステーブルコインの普及と世界のデジタル金融市場における香港の競争力を阻害する可能性があるとの指摘もある。
ステーブルコインを舞台に米中間で通貨覇権を巡る争いが本格化
香港でステーブルコインを解禁する条例が施行された背景には、香港の金融センターとしての競争力を高め、また、中国がドルの覇権に対抗する狙いがある。
米国でGENIUS法が成立したことで、世界でドル建てのステーブルコインの発行、取引が一段と拡大する可能性が出てきた。ステーブルコインの大半が米ドルに連動しており、今後は、ドル支配の傾向が一段と強まる可能性がある。中国人民銀行(中央銀行)の元総裁の周小川氏は6月に、ステーブルコインの普及は「『ドル化』を促進するリスクがある」「様々な副作用が出かねない」と指摘していた。
実際、トランプ政権は、ドル建てのステーブルコインの発行、取引をグローバルに拡大することを通じて、事実上の基軸通貨としてのドルの地位を維持する戦略だ(コラム「米国で進むステーブルコインの規制整備(4):国際決済の拡大でドル覇権の維持を狙う」、2025年7月25日)。
中国は、資金の海外流出などを警戒して、本土での暗号資産の取引を禁止している。他方、「一国二制度」の香港では暗号資産の振興策を進め、香港を「暗号資産の実験場」として利用してきた経緯がある。
ステーブルコインに関する香港の条例では、裏付けとなる法定通貨を特定していない。当面はドル建てと香港ドル建てになるだろうが、いずれはオフショア人民元建てのステーブルコインが発行されるとみられている。
このように、米国のGENIUS法成立の直後に香港がステーブルコインを解禁する条例を施行したことは、ステーブルコインを舞台に米中間で通貨覇権を巡る争いが本格化し始めたことを意味している。
(参考資料)
「香港のステーブルコイン規則、実名登録に懸念 「普及に逆風」」、2025年8月8日、ロイター通信ニュース
「ドルvs元の代理戦争? 香港ステーブルコイン解禁の青写真」、2025年7月24日、日本経済新聞電子版
「中国、香港ステーブルコイン解禁で富裕層繫ぎ止め」、2025年8月1日、NIKKEI Financial
米国でGENIUS法が成立したことで、世界でドル建てのステーブルコインの発行、取引が一段と拡大する可能性が出てきた。ステーブルコインの大半が米ドルに連動しており、今後は、ドル支配の傾向が一段と強まる可能性がある。中国人民銀行(中央銀行)の元総裁の周小川氏は6月に、ステーブルコインの普及は「『ドル化』を促進するリスクがある」「様々な副作用が出かねない」と指摘していた。
実際、トランプ政権は、ドル建てのステーブルコインの発行、取引をグローバルに拡大することを通じて、事実上の基軸通貨としてのドルの地位を維持する戦略だ(コラム「米国で進むステーブルコインの規制整備(4):国際決済の拡大でドル覇権の維持を狙う」、2025年7月25日)。
中国は、資金の海外流出などを警戒して、本土での暗号資産の取引を禁止している。他方、「一国二制度」の香港では暗号資産の振興策を進め、香港を「暗号資産の実験場」として利用してきた経緯がある。
ステーブルコインに関する香港の条例では、裏付けとなる法定通貨を特定していない。当面はドル建てと香港ドル建てになるだろうが、いずれはオフショア人民元建てのステーブルコインが発行されるとみられている。
このように、米国のGENIUS法成立の直後に香港がステーブルコインを解禁する条例を施行したことは、ステーブルコインを舞台に米中間で通貨覇権を巡る争いが本格化し始めたことを意味している。
(参考資料)
「香港のステーブルコイン規則、実名登録に懸念 「普及に逆風」」、2025年8月8日、ロイター通信ニュース
「ドルvs元の代理戦争? 香港ステーブルコイン解禁の青写真」、2025年7月24日、日本経済新聞電子版
「中国、香港ステーブルコイン解禁で富裕層繫ぎ止め」、2025年8月1日、NIKKEI Financial
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。