米大統領選挙で暗号資産業界は総額2億5,000万ドル近くをトランプ氏に献金
米議会では、ドルなどの法定通貨や商品(コモディティ)と価値が連動するように設計された暗号資産(仮想通貨)「ステーブルコイン」の規制整備に関するGENIUS法が上下両院で可決され、7月18日にトランプ大統領が署名して成立した(コラム「米国で進むステーブルコインの規制整備(3):GENIUS法が成立:ドル覇権の維持を狙うトランプ政権」、2025年7月23日)。
2024年の米大統領選挙で、トランプ陣営は暗号資産を支援する方針を突如打ち出した。暗号資産業界からの選挙活動資金の提供に期待したからだ。
最終的に、政治献金の受け皿となる政治活動委員会(PAC)や献金額に上限がないスーパーPACを通じた暗号資産業界によるトランプ陣営への献金額は、2億5,000万ドル(約376億円)近くに達した。
その後、トランプ大統領自身がミームコインを立ち上げ、また長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏と次男のエリック・トランプ氏が、ステーブルコインを展開するWorld Liberty Financialをはじめとする複数の暗号資産プロジェクトに関与している。暗号資産の支援策が、トランプ一族の私財を増やすことになり、深刻な利益相反を生んでいるとの批判も高まっている(コラム「米国で進むステーブルコインの規制整備(5):トランプ政権の暗号資産支援と深刻な利益相反の問題」、2025年8月8日)。
2024年の米大統領選挙で、トランプ陣営は暗号資産を支援する方針を突如打ち出した。暗号資産業界からの選挙活動資金の提供に期待したからだ。
最終的に、政治献金の受け皿となる政治活動委員会(PAC)や献金額に上限がないスーパーPACを通じた暗号資産業界によるトランプ陣営への献金額は、2億5,000万ドル(約376億円)近くに達した。
その後、トランプ大統領自身がミームコインを立ち上げ、また長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏と次男のエリック・トランプ氏が、ステーブルコインを展開するWorld Liberty Financialをはじめとする複数の暗号資産プロジェクトに関与している。暗号資産の支援策が、トランプ一族の私財を増やすことになり、深刻な利益相反を生んでいるとの批判も高まっている(コラム「米国で進むステーブルコインの規制整備(5):トランプ政権の暗号資産支援と深刻な利益相反の問題」、2025年8月8日)。
暗号資産業界規制の2つの流れ
そうした中、暗号資産業界はトランプ政権に対して、大統領選挙時の献金に見合った恩恵を受けていない、との不満を現在募らせているとされる。
ステーブルコインの規制整備を進めたGENIUS法の成立は、暗号資産業界にとって利益となるが、他方で業界が本来求めているのは、暗号資産業界全体の規制環境を整備することだ。それを進めるのが、現在議会で審議されている「CLARITY法」だ。
米国では、暗号資産の規制を巡って2つの主張が対立してきた。第1は、暗号資産(の一部)を証券とみなし、証券取引委員会(SEC)が証券関連法に基づき、暗号資産や暗号資産取引所を厳しく規制していくものだ。第2は、商品先物取引委員会(CFTC)が暗号資産(の一部)を商品とみなし、暗号資産や暗号資産取引所を比較的緩やかに規制していくものだ。
暗号資産業界は、CFTCが主導する形での緩やかな規制を望んできた。そのためのロビー活動も盛んに行ってきた。その代表的な人物が、2022年に顧客資産の不正流用や杜撰な経営が明らかになり破綻に至った、FTXのバンクマン=フリードCEO(最高経営責任者)だった。
FTXの破綻をきっかけに、暗号資産業界への規制強化を求める声が強まり、CFTCが主導する緩やかな規制環境を整備するという流れは後退した。そして、SECのゲンスラー委員長は、暗号資産業界への法規制がいまだ整備されないもと、コインベースやクラーケンなどの取引所に対して、運営の一部として提供する商品が、実質的に証券に該当するとして訴訟を起こしてきた。
ステーブルコインの規制整備を進めたGENIUS法の成立は、暗号資産業界にとって利益となるが、他方で業界が本来求めているのは、暗号資産業界全体の規制環境を整備することだ。それを進めるのが、現在議会で審議されている「CLARITY法」だ。
米国では、暗号資産の規制を巡って2つの主張が対立してきた。第1は、暗号資産(の一部)を証券とみなし、証券取引委員会(SEC)が証券関連法に基づき、暗号資産や暗号資産取引所を厳しく規制していくものだ。第2は、商品先物取引委員会(CFTC)が暗号資産(の一部)を商品とみなし、暗号資産や暗号資産取引所を比較的緩やかに規制していくものだ。
暗号資産業界は、CFTCが主導する形での緩やかな規制を望んできた。そのためのロビー活動も盛んに行ってきた。その代表的な人物が、2022年に顧客資産の不正流用や杜撰な経営が明らかになり破綻に至った、FTXのバンクマン=フリードCEO(最高経営責任者)だった。
FTXの破綻をきっかけに、暗号資産業界への規制強化を求める声が強まり、CFTCが主導する緩やかな規制環境を整備するという流れは後退した。そして、SECのゲンスラー委員長は、暗号資産業界への法規制がいまだ整備されないもと、コインベースやクラーケンなどの取引所に対して、運営の一部として提供する商品が、実質的に証券に該当するとして訴訟を起こしてきた。
トランプ政権と暗号資産業界の蜜月関係に溝
民主党政権の下、SECのゲンスラー委員長が進める規制強化に反発して、暗号資産業界は、共和党により接近し、大統領選挙でトランプ候補の支持に回った。
暗号資産業界は、GENIUS法とCLARITY法を統合して、より包括的な暗号資産業界への規制体系を作り、さらに、CFTCが主導する緩やかな規制環境の確立をトランプ政権に求めたという。しかしそれをトランプ政権は受け入れず、GENIUS法の成立を優先させた。業界がより重視するCLARITY法については、別途成立させるとしてトランプ政権は暗号資産側の要求を退けた。
トランプ政権は、将来の政権交代を睨んで、暗号資産業界が民主党との関係も維持していることに強い不満を抱いているともされる。
このように、トランプ政権と暗号資産業界の蜜月関係には溝が生じているようだ。
(参考資料)
「トランプと暗号資産業界の蜜月関係に亀裂。“見返りの乏しさ”に不満募る」、2025年8月6日、WIRED.jp
暗号資産業界は、GENIUS法とCLARITY法を統合して、より包括的な暗号資産業界への規制体系を作り、さらに、CFTCが主導する緩やかな規制環境の確立をトランプ政権に求めたという。しかしそれをトランプ政権は受け入れず、GENIUS法の成立を優先させた。業界がより重視するCLARITY法については、別途成立させるとしてトランプ政権は暗号資産側の要求を退けた。
トランプ政権は、将来の政権交代を睨んで、暗号資産業界が民主党との関係も維持していることに強い不満を抱いているともされる。
このように、トランプ政権と暗号資産業界の蜜月関係には溝が生じているようだ。
(参考資料)
「トランプと暗号資産業界の蜜月関係に亀裂。“見返りの乏しさ”に不満募る」、2025年8月6日、WIRED.jp
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。