11月の中国訪日観光客数の増加ペースは想定以上に鈍化
政府は17日に、11月の訪日外客数を発表した。11月は前年同月比+10.4%と2桁の増加率が維持され、1月以降の累積数は3,906万人と年間で過去最高を記録した2024年年間の3,687万人を超えた。
一方、年初からの累計で国別1位の中国からの訪日観光客数は、11月に前年同月比+3.0%と、プラスはなんとか維持したものの増加率は10月の同+22.8%から大きく鈍化した(図表)。さらに11月には、国別訪日観光客数で、中国は韓国に抜かれて1位から2位に後退した。
中国からの訪日客数の増加には急にブレーキがかかったように見えるが、これは、日中関係の悪化を背景に、11月14日に中国政府(外務省)が自国民に対して日本への渡航を控えるよう呼びかけた、いわゆる渡航自粛要請の影響による可能性が高い。11月15日以降、中国の大手航空会社は日本路線の航空券の無料変更・払い戻し対応を発表し、旅行会社によるツアー中止も相次いだ。
一方、同様に11月15日に日本への渡航の注意喚起を行った香港からの訪日客数も、11月には鈍化した。前年同月比は-8.6%と10月の同-1.4%からマイナス幅を広げている。香港からの今年の訪日観光客数は、日本での自然災害への警戒感から春以降大きく落ち込んだが、8月以降は持ち直してきていた。それが再び渡航の注意喚起の影響で、頭を押さえられているように見える。
一方、年初からの累計で国別1位の中国からの訪日観光客数は、11月に前年同月比+3.0%と、プラスはなんとか維持したものの増加率は10月の同+22.8%から大きく鈍化した(図表)。さらに11月には、国別訪日観光客数で、中国は韓国に抜かれて1位から2位に後退した。
図表 訪日外国人観光客数の推移


中国からの訪日客数の増加には急にブレーキがかかったように見えるが、これは、日中関係の悪化を背景に、11月14日に中国政府(外務省)が自国民に対して日本への渡航を控えるよう呼びかけた、いわゆる渡航自粛要請の影響による可能性が高い。11月15日以降、中国の大手航空会社は日本路線の航空券の無料変更・払い戻し対応を発表し、旅行会社によるツアー中止も相次いだ。
一方、同様に11月15日に日本への渡航の注意喚起を行った香港からの訪日客数も、11月には鈍化した。前年同月比は-8.6%と10月の同-1.4%からマイナス幅を広げている。香港からの今年の訪日観光客数は、日本での自然災害への警戒感から春以降大きく落ち込んだが、8月以降は持ち直してきていた。それが再び渡航の注意喚起の影響で、頭を押さえられているように見える。
12月の数字により明確に反映される見通し
中国からの訪日観光旅行の取りやめ、宿泊先のキャンセルを受けて、韓国など他国からの訪日観光客数が増え、中国からの観光客数の落ち込みを相殺するとの見方もあるが、少なくとも11月の数字からはそうした動きは明確に確認されない。
訪日観光客数全体は、10月の前年同月比+17.6%から11月には+10.4%に低下したが、そのうち、中国からの観光客数の落ち込みの影響は-5%程度とみられる。実際にはそれ以上に増加率は下振れており、中国からの観光客数の落ち込みの影響が、他国からの観光客数の増加によって相殺されている様子は今のところは確認できない。
今回の11月の数字には、中国からの渡航自粛要請の影響はまだ十分に反映されていない。それがより明確に確認できるのは12月分の数字だろう。
訪日観光客数全体は、10月の前年同月比+17.6%から11月には+10.4%に低下したが、そのうち、中国からの観光客数の落ち込みの影響は-5%程度とみられる。実際にはそれ以上に増加率は下振れており、中国からの観光客数の落ち込みの影響が、他国からの観光客数の増加によって相殺されている様子は今のところは確認できない。
今回の11月の数字には、中国からの渡航自粛要請の影響はまだ十分に反映されていない。それがより明確に確認できるのは12月分の数字だろう。
中国・香港の訪日自粛が1年続くと、日本の名目GDPの減少額は1.79兆円に
中国からの観光客の日本での消費額、いわゆるインバウンド需要は7-9月に5,901億円と同期のインバウンド需要全体の2兆1,310億円の27.7%を占めている。香港からの観光客のインバウンド需要と合わせれば、全体の33.0%と3分の1に及ぶ。それが渡航自粛要請、渡航注意喚起の影響で下振れることの経済的な影響は大きい。
2012年の尖閣問題で、中国政府が今回と同様に日本への渡航自粛を要請した際の経験に基づいた試算では、中国及び香港の訪日自粛の影響が1年続くと、日本の名目GDPの減少額、いわゆる経済損失は1.79兆円となり、名目及び実質GDPを0.29%押し下げる(コラム「中国政府の日本への渡航自粛要請で日本の経済損失は1.79兆円、GDPを0.29%押し下げ」、2025年11月18日)。
中国・香港からの訪日観光客の減少分は、他国からの訪日増加や日本人の国内旅行増加によって穴埋めされるとの楽観論も聞く。しかし、仮にそれが生じるとしても相応の時間を要し、当面は、大きな経済損失は避けられないのではないか。
2012年の尖閣問題で、中国政府が今回と同様に日本への渡航自粛を要請した際の経験に基づいた試算では、中国及び香港の訪日自粛の影響が1年続くと、日本の名目GDPの減少額、いわゆる経済損失は1.79兆円となり、名目及び実質GDPを0.29%押し下げる(コラム「中国政府の日本への渡航自粛要請で日本の経済損失は1.79兆円、GDPを0.29%押し下げ」、2025年11月18日)。
中国・香港からの訪日観光客の減少分は、他国からの訪日増加や日本人の国内旅行増加によって穴埋めされるとの楽観論も聞く。しかし、仮にそれが生じるとしても相応の時間を要し、当面は、大きな経済損失は避けられないのではないか。
レアアース輸出規制で名目GDPは6,600億円押し下げられる:日中関係は2026年日本経済を左右
また今後の日中関係次第では、2010年の尖閣問題の際と同様に、中国が対日レアアース輸出規制の実施に踏み切る可能性もあるだろう。2010年の尖閣問題の際の経験を踏まえて、レアアース輸出規制が3か月続く場合には、筆者の試算では日本の名目GDPは6,600億円押し下げられ、名目及び実質GDPは0.11%押し下げられる(コラム「中国が日本にレアアース輸出規制を導入した場合の経済損失」、2025年11月28日)。それを渡航自粛要請の影響と合計すると、日本の名目GDPは2.45兆円押し下げられ、名目及び実質GDPは0.40%押し下げられる計算となる。
仮に、レアアース輸出規制が1年続く場合には、両者の合計で日本の名目GDPは4.43兆円押し下げられ、名目及び実質GDPは0.73%押し下げられる計算となる。
現在の日本経済は、トランプ関税の影響を受けた輸出環境の悪化と、実質賃金の低下が続くもとでの脆弱ながらも安定を維持している個人消費がバランスしている構図だ。そうしたバランスを2026年に下方に崩してしまう可能性があるのが、この日中関係の一段の悪化だろう。
仮に、レアアース輸出規制が1年続く場合には、両者の合計で日本の名目GDPは4.43兆円押し下げられ、名目及び実質GDPは0.73%押し下げられる計算となる。
現在の日本経済は、トランプ関税の影響を受けた輸出環境の悪化と、実質賃金の低下が続くもとでの脆弱ながらも安定を維持している個人消費がバランスしている構図だ。そうしたバランスを2026年に下方に崩してしまう可能性があるのが、この日中関係の一段の悪化だろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。