税制改正大綱には減税措置と増税措置とが混在する
12月18日に自民党と国民民主党は、178万円までの年収の壁引き上げで合意した。昨年来続けられてきた年収の壁引き上げ問題が決着した形だ(コラム「178万円までの年収の壁引き上げで合意:追加の減税規模は年間6,500億円程度」、2025年12月19日)。これにより、自民党は2026年度税制改正大綱策定に向けた最後の難所を越え、19日に大綱を取りまとめる。
減税措置としては、年収の壁引き上げ以外に、「つみたてNISA」の18歳未満への解禁、減税対象となる中古住宅購入時のローンの限度額を最大3,000万円から4,500万円に引き上げる措置など、家計に対する減税措置が大綱に盛り込まれる。企業に対しては、投資減税が盛り込まれる。
一方、2027年1月から所得税額の1%に相当する税を設け防衛力強化の財源とする防衛増税、2028年5月から自家用の電気自動車(EV)に新たな税負担を課す措置、上乗せ課税の対象を年収30億円から6億円に引き下げる超富裕者増税、企業に対しては、賃上げ減税の打ち切りといった増税措置が盛り込まれる。
このように、今回の税制改正大綱は、減税措置と増税措置とが混在する形となる。減税規模としてはかなり大きくなる可能性もあった178万円までの年収の壁引き上げが、追加で約6,500億円の減税で国民民主党と合意したことで、全体として大規模な減税とはならなかった。この点は、金融市場の財政悪化懸念をさらに高めることを回避したとして評価できるだろう。
減税措置としては、年収の壁引き上げ以外に、「つみたてNISA」の18歳未満への解禁、減税対象となる中古住宅購入時のローンの限度額を最大3,000万円から4,500万円に引き上げる措置など、家計に対する減税措置が大綱に盛り込まれる。企業に対しては、投資減税が盛り込まれる。
一方、2027年1月から所得税額の1%に相当する税を設け防衛力強化の財源とする防衛増税、2028年5月から自家用の電気自動車(EV)に新たな税負担を課す措置、上乗せ課税の対象を年収30億円から6億円に引き下げる超富裕者増税、企業に対しては、賃上げ減税の打ち切りといった増税措置が盛り込まれる。
このように、今回の税制改正大綱は、減税措置と増税措置とが混在する形となる。減税規模としてはかなり大きくなる可能性もあった178万円までの年収の壁引き上げが、追加で約6,500億円の減税で国民民主党と合意したことで、全体として大規模な減税とはならなかった。この点は、金融市場の財政悪化懸念をさらに高めることを回避したとして評価できるだろう。
今後の大きな焦点は防衛増税:さらなる防衛費増額への布石か
ただし、参院で与党が過半数の議席を確保していない状況では、2026年度税制改正も、この自民党の大綱通りに実現するとは限らない。今後の審議で特に注目されるのが、防衛増税である。これについては、野党から反対意見が少なくないうえ、与党の日本維新の会も難色を示す可能性がある。
2023年度から始められた防衛力増強の3年計画で、その財源の一部は増税策で賄われることが決まった。2026年4月からはたばこ増税と大企業中心の法人増税が既に決まっている。先送りされてきた所得増税について、高市政権が2027年1月実施の方針を示したことで、今回の大綱に盛り込まれる方向となった。高市首相は、家計に新たに負担は生じない、と説明している。実際、2037年まで続けられる復興特別所得税2.1%のうち1%分を防衛増税に充てることで、2027年時点では国民の所得税の負担は高まらない。しかし、復興特別所得税は減額される分、実施期間が2037年からさらに延長される。当面は家計の負担にならないとしても、将来の負担は増えるのであり、1%の恒久増税措置であることは間違いない。
2022年度に当時の岸田政権が防衛増税の実施を表明した際に、高市首相は反対していた。それが今回突然実施の方向を示したことの真意は明らかでない。財政環境の悪化への懸念を強める金融市場への配慮である可能性も考えられる。
他方、今後、米国政府からの防衛費増額要求も踏まえて、実際に防衛費を大幅に増額することへの布石とも考えられる。防衛費増額のうち一定程度は財源を確保する姿勢を見せることで、今後の防衛費増額への支持を幅広く得ることを狙うものだ。高市首相の真意が後者である場合には、防衛増税によって金融市場の財政懸念は緩和されない。
2023年度から始められた防衛力増強の3年計画で、その財源の一部は増税策で賄われることが決まった。2026年4月からはたばこ増税と大企業中心の法人増税が既に決まっている。先送りされてきた所得増税について、高市政権が2027年1月実施の方針を示したことで、今回の大綱に盛り込まれる方向となった。高市首相は、家計に新たに負担は生じない、と説明している。実際、2037年まで続けられる復興特別所得税2.1%のうち1%分を防衛増税に充てることで、2027年時点では国民の所得税の負担は高まらない。しかし、復興特別所得税は減額される分、実施期間が2037年からさらに延長される。当面は家計の負担にならないとしても、将来の負担は増えるのであり、1%の恒久増税措置であることは間違いない。
2022年度に当時の岸田政権が防衛増税の実施を表明した際に、高市首相は反対していた。それが今回突然実施の方向を示したことの真意は明らかでない。財政環境の悪化への懸念を強める金融市場への配慮である可能性も考えられる。
他方、今後、米国政府からの防衛費増額要求も踏まえて、実際に防衛費を大幅に増額することへの布石とも考えられる。防衛費増額のうち一定程度は財源を確保する姿勢を見せることで、今後の防衛費増額への支持を幅広く得ることを狙うものだ。高市首相の真意が後者である場合には、防衛増税によって金融市場の財政懸念は緩和されない。
防衛費のさらなる増額は規模、中身、財源を「三位一体」で同時に決定すべき
高市政権は、2026年度予算では、防衛費(関連費を含む)のGDP比率を現状の2%からさらに引き上げて行くとみられる。しかし、規模ありきの決定は問題だ。まずは、国民の生命と安全を守るために、どのような形で防衛力を強化するかを考える必要がある。防衛力強化は、規模、中身、財源を「三位一体」で同時に決めていくことが望ましい。
防衛力強化は国民に負担をもたらす。そのために、国民が社会保障、教育関連など他の歳出の削減や増税を受け入れる必要がある。仮に国債発行であっても、それは将来にわたる国民への負担であることは変わらない。
国民が負担増加に値すると考える形で、防衛力強化の中身と規模を決めていくというプロセスが必要であり、政府、国会が規模を先に決めるというスタンスは避けるべきだ(コラム「防衛費のさらなる増額と国民負担の増加」、2025年11月5日)。
防衛力増強は国民の負担であり、その実現のためには何らかを犠牲にしなくてはならないことを国民が理解するためにも、今回の防衛増税については、「国民に追加の負担にならない」という説明ではなく、増税策であることを政府は正面から国民に説明すべきだ。
(参考資料)
「家計支援へ減税、年収の壁や住宅ローン・NISAも 与党税制大綱決定へ」、2025年12月19日、日本経済新聞電子版
防衛力強化は国民に負担をもたらす。そのために、国民が社会保障、教育関連など他の歳出の削減や増税を受け入れる必要がある。仮に国債発行であっても、それは将来にわたる国民への負担であることは変わらない。
国民が負担増加に値すると考える形で、防衛力強化の中身と規模を決めていくというプロセスが必要であり、政府、国会が規模を先に決めるというスタンスは避けるべきだ(コラム「防衛費のさらなる増額と国民負担の増加」、2025年11月5日)。
防衛力増強は国民の負担であり、その実現のためには何らかを犠牲にしなくてはならないことを国民が理解するためにも、今回の防衛増税については、「国民に追加の負担にならない」という説明ではなく、増税策であることを政府は正面から国民に説明すべきだ。
(参考資料)
「家計支援へ減税、年収の壁や住宅ローン・NISAも 与党税制大綱決定へ」、2025年12月19日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。