国債市場の財政悪化懸念は山を越えたか
自民党が歴史的な勝利を収めた衆院選の翌日の9日に、高市首相は記者会見に臨んだ。衆院選では、責任ある積極財政、安全保障政策の強化、インテリジェンス機能の強化といった国論を2分する新たな政策について、日本維新の会との連立という枠組みで進めてよいのかを国民に問い信認を得たと説明した。
9日の東京市場では、国債市場は予想外の安定感を見せた。財政リスクを反映しやすい超長期の30年債、40年債の利回りはともに低下したのである。
自民党が歴史的な勝利を収めたことで、高市政権が国民の強い支持を背景に、消費税減税を含む積極財政姿勢を前進させる、との観測が強まれば、超長期の国債利回りは先行きの財政悪化を懸念して大きく上昇するのが自然だ。
実際にはそうはならなかったのは、衆院選挙後にも高市政権は積極財政政策を加速させない、あるいは修正するとの市場の見方を反映しているだろう。長期・超長期の国債利回りは1月中旬にピークをつけており、財政悪化懸念は山を越えたようにも見える(コラム「衆院選での自民党の歴史的圧勝を受けた金融市場の反応は想定内か:高市トレードは変容を迫られる」、2026年2月9日)。
9日の東京市場では、国債市場は予想外の安定感を見せた。財政リスクを反映しやすい超長期の30年債、40年債の利回りはともに低下したのである。
自民党が歴史的な勝利を収めたことで、高市政権が国民の強い支持を背景に、消費税減税を含む積極財政姿勢を前進させる、との観測が強まれば、超長期の国債利回りは先行きの財政悪化を懸念して大きく上昇するのが自然だ。
実際にはそうはならなかったのは、衆院選挙後にも高市政権は積極財政政策を加速させない、あるいは修正するとの市場の見方を反映しているだろう。長期・超長期の国債利回りは1月中旬にピークをつけており、財政悪化懸念は山を越えたようにも見える(コラム「衆院選での自民党の歴史的圧勝を受けた金融市場の反応は想定内か:高市トレードは変容を迫られる」、2026年2月9日)。
消費税減税実施の多くの課題を示唆
9日の記者会見で高市首相は、選挙公約に掲げた「食料品の消費税率を2年間ゼロにする政策」の実現に意欲を見せた。しかし、消費税減税を巡る発言には曖昧な部分も多くあり、本当に実施されるかどうかについてはなお疑問が残るところだ。
自民党の公約でも消費税減税を実施するとは明言しておらず、高市首相は、与野党からなる国民会議に議論を委ねる姿勢を改めて示した。
さらに、消費税減税実施に向けては小売店のシステム改修の問題があり、金融市場への影響、実質賃金の動向などを見極める必要がある、との意見を紹介している。
また、消費税減税には赤字国債を充てない方針を改めて強調する一方で、財源とする補助金、租税優遇措置の見直し、税外収入については、具体的な財源化の提示はない。そもそも税外収入は既に歳入に充てられている。また、補助金、租税優遇措置の削減を財源とする場合、2年間の時限措置として停止することは難しく、恒久的に5兆円分廃止することが必要となるが、それは規模的に見てかなり難しいだろう。
自民党の公約でも消費税減税を実施するとは明言しておらず、高市首相は、与野党からなる国民会議に議論を委ねる姿勢を改めて示した。
さらに、消費税減税実施に向けては小売店のシステム改修の問題があり、金融市場への影響、実質賃金の動向などを見極める必要がある、との意見を紹介している。
また、消費税減税には赤字国債を充てない方針を改めて強調する一方で、財源とする補助金、租税優遇措置の見直し、税外収入については、具体的な財源化の提示はない。そもそも税外収入は既に歳入に充てられている。また、補助金、租税優遇措置の削減を財源とする場合、2年間の時限措置として停止することは難しく、恒久的に5兆円分廃止することが必要となるが、それは規模的に見てかなり難しいだろう。
給付付き税額控除制度の議論を優先した方が良いのではないか
高市首相は、食料品の消費税率を2年間ゼロにする政策は、給付付き税額控除制度を導入するまでのつなぎ、との位置づけであり、給付付き税額控除制度に賛同する野党を招いた国民会議で議論するとした。
野党の消費税減税の主張はそれぞれ異なり、議論は紛糾する可能性が高い点を踏まえ、高市首相は今年夏前に消費税減税の中間とりまとめをする考えを述べている。しかしそれでは、高市首相が従来説明してきた2026年度中の消費税減税実施には間に合わないのではないか。そのスケジュールの下では、2026年度中の消費税減税の法制化は可能でも、減税の実施は2028年までずれ込む可能性が考えられる。その際には、消費税減税を給付付き税額控除制度を導入するまでのつなぎとは言えなくなるだろう。そうであれば、物価高対策としては抜本的な対応となる給付付き税額控除制度の議論を進めた方が良い、という結論になるのではないか。
このように、高市首相は、消費税減税に前向きな姿勢を示しているが、他方で、野党との調整の難しさ、財源確保の難しさ、金融市場の安定維持の難しさなど、様々な課題があることも示している。そもそも、国民は消費税減税の実施を強く望んでいない可能性が考えられる(コラム「衆院選で自民党が歴史的圧勝:高市政権は金融市場の警鐘に耳を傾けるか」、2026年2月9日)。
野党の消費税減税の主張はそれぞれ異なり、議論は紛糾する可能性が高い点を踏まえ、高市首相は今年夏前に消費税減税の中間とりまとめをする考えを述べている。しかしそれでは、高市首相が従来説明してきた2026年度中の消費税減税実施には間に合わないのではないか。そのスケジュールの下では、2026年度中の消費税減税の法制化は可能でも、減税の実施は2028年までずれ込む可能性が考えられる。その際には、消費税減税を給付付き税額控除制度を導入するまでのつなぎとは言えなくなるだろう。そうであれば、物価高対策としては抜本的な対応となる給付付き税額控除制度の議論を進めた方が良い、という結論になるのではないか。
このように、高市首相は、消費税減税に前向きな姿勢を示しているが、他方で、野党との調整の難しさ、財源確保の難しさ、金融市場の安定維持の難しさなど、様々な課題があることも示している。そもそも、国民は消費税減税の実施を強く望んでいない可能性が考えられる(コラム「衆院選で自民党が歴史的圧勝:高市政権は金融市場の警鐘に耳を傾けるか」、2026年2月9日)。
2年間の時限的消費減税は将来の選挙で自民党に不利になる可能性
さらに問題なのは、仮に食料品の消費税率を2年間ゼロにする消費税減税を自民党主導で実現したとしても、2年後に税率を戻すのは簡単でないことだ。国民はそれを増税と感じて反発するからだ。
例えば、食料品の消費税率を2年間ゼロにする消費税減税を実施した後、2028年の次回の参院選で自民党が予定通りに食料品の消費税率を元に戻すことを主張する一方、野党が税率を上げることに反対する場合には、選挙戦は自民党にとってかなり不利になってしまう可能性があるだろう。
このような点も考慮に入れると、自民党が食料品の消費税率を2年間ゼロにする消費税減税を実現させるメリットは大きくないように見える。
国民会議での野党や有識者との議論を経て、消費税減税を実施するのではなく物価高対策としては抜本的な対応となる給付付き税額控除制度の議論を優先させるとの結論を出しても、国民からは強い批判は出ないのではないか。
衆院選挙で大勝した後も、高市政権は消費税減税などの積極財政姿勢を強化しない、あるいは修正するとの金融市場の見方には、一定の合理性が感じられる。
例えば、食料品の消費税率を2年間ゼロにする消費税減税を実施した後、2028年の次回の参院選で自民党が予定通りに食料品の消費税率を元に戻すことを主張する一方、野党が税率を上げることに反対する場合には、選挙戦は自民党にとってかなり不利になってしまう可能性があるだろう。
このような点も考慮に入れると、自民党が食料品の消費税率を2年間ゼロにする消費税減税を実現させるメリットは大きくないように見える。
国民会議での野党や有識者との議論を経て、消費税減税を実施するのではなく物価高対策としては抜本的な対応となる給付付き税額控除制度の議論を優先させるとの結論を出しても、国民からは強い批判は出ないのではないか。
衆院選挙で大勝した後も、高市政権は消費税減税などの積極財政姿勢を強化しない、あるいは修正するとの金融市場の見方には、一定の合理性が感じられる。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。