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ベースシナリオ(メインシナリオ)では原油価格は約30%上昇

イラン情勢の緊迫化を受けて、原油価格は大幅に上昇した。WTI原油先物価格は一時1バレル75ドルと、先週末から12%程度の上昇を見せた。原油価格の上昇は、現状では筆者の楽観シナリオの範囲にとどまっているが、情勢はなお流動的だ。筆者のベースシナリオ(メインシナリオ)は、WTI原油先物価格が1バレル87ドルまで20ドル(約30%)上昇するというものだ(コラム「イラン攻撃で高まる原油価格上昇リスクと日本経済への影響試算」、2026年3月2日)。

原油価格の上昇は、ようやく落ち着きを取り戻しつつある国内物価情勢を再び悪化させる可能性がある(図表)。原油価格上昇が物価上昇を通じて国民生活に与える影響は、概ね以下の4つの段階を経て進んでいくことが予想される。
 
(図表)イラン情勢の緊迫化と原油価格上昇の日本経済への影響のシナリオ別試算

ベースシナリオで国内ガソリン価格は204円

第1は、ガソリン価格の上昇だ。ベースシナリオに沿って原油価格が約30%上昇する場合、ガソリン価格はほぼ同じ幅で上昇することが予想される。中東から原油タンカーで日本に輸送するのには3週間程度の時間がかかるが、石油元売りは海外での原油価格をガソリン価格に迅速に反映することから、ガソリンスタンドでのガソリン価格は、海外での原油価格上昇から1週間程度で上昇する。

ベースシナリオのWTI原油先物価格が約30%上昇する場合には、国内ガソリン価格は1週間程度の後には204円と200円を超える計算となる。為替市場で円安が進めば、国内ガソリン価格の上昇幅はさらに大きくなる(コラム「原油価格上昇と金融市場の動揺:国内ガソリン価格は再び上昇し、暫定税率廃止の効果は消失か:ガソリン価格200円超えのリスクも」、2026年3月2日)。

ベースシナリオで電気代の上昇は月額792円、年間9,508円

第2は、電気・ガス料金の上昇だ。電気代は原油価格の上昇率の2割程度、ガス代は2~3割程度上昇する傾向がある。ただし、海外での原油価格上昇が家庭用の電気代、ガス代の上昇につながるまでには3~4か月の時間を要する。

家庭に供給されるガスのうち、都市ガスは天然ガス、LP(プロパン)ガスは原油から作られる。イラン情勢を受けて天然ガスの価格も上昇しているが、日本はLNG(液化天然ガス)を主に長期契約で調達しているため、輸入価格の上昇幅はわずかだ。そのため、都市ガスの価格への影響も小さい。

他方、LP(プロパン)ガスは原油から作られるため、原油価格上昇の影響を大きく受ける。両者を平均すると、家庭のガス代は平均2~3割程度上昇することが予想される。ベースシナリオに沿って原油価格が約30%上昇する場合には、ガス代は6%~9%の上昇が見込まれる。

ベースシナリオに沿って原油価格が約30%上昇する場合、電気代は6%程度上昇することが見込まれる。現在、世帯当たりの電気代は平均で月額1万3, 206円、年間15万8,472円であることから(2025年、総務省「家計調査」)、電気代の上昇は月額792円、年間9,508円となる。

幅広い品目で価格上昇:1パックの卵の価格は10円~20円上昇

第3は、半年程度を目途にゆっくりと進む価格上昇だ。ガソリン価格の上昇は輸送コストの上昇をもたらす。それが、小売店での日用品や食料品価格にも転嫁される。タクシー代、交通費などにも上乗せされてくる。航空運賃についてはもっと迅速に燃料費の価格上昇分が転嫁されるだろう。

例えば、輸送コストの上昇を映して、卵の価格も上昇する。原油価格上昇分の1割~2割程度が最終的に卵の価格に転嫁されると見込まれる。ベースシナリオに沿って原油価格が約30%上昇する場合には、10個入り1パック平均313円の卵の価格は、10円~20円上昇する計算となる。

第4も、半年程度を目途に見込まれる、石油関連製品の価格上昇だ。原油を原材料とする製品には以下のようなものがある。プラスチック容器・包装材、合成樹脂製品、化学繊維(ナイロン、ポリエステルなど)、塗料・接着剤・洗剤。原油価格が上昇すれば、これらの商品の価格も段階的に上昇する。

原油を直接的に原料としない製品でも、製造工程で多くの燃料・電力を使う業種では原油価格上昇によって製造コストは上昇し、それが製品価格に転嫁されやすい。それは、鉄鋼・アルミ・非鉄金属製品、セメント・ガラス、化学品・肥料などだ。

物価はベースシナリオで0.31%、悲観シナリオで1.14%押し上げられる

原油価格の上昇は、まずはガソリン価格の上昇を通じて国民生活に迅速に影響を与える。その後に電気・ガス代の上昇としてあらわれる。さらには、時間をかけて幅広い物価上昇に波及することが予想される。物価は1年間で0.31%押し上げられると考えられる。

原油価格の上昇は、ようやく落ち着きを取り戻しつつある国内物価情勢を再び悪化させ、国民生活に逆風となる可能性がある。上記の計算は、筆者のベースシナリオ(メインシナリオ)である、WTI原油先物価格が1バレル87ドルまで、20ドル(約30%)上昇することを前提にしている。

仮に悲観シナリオのWTI原油先物価格が1バレル140ドルまで約109%上昇する場合には、価格の上昇幅は3.6倍程度に拡大し、物価は1年間で1.14%押し上げられると考えられる。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。