3月4日の日本市場で、日経平均株価は一時2,100円を超える大幅下落となった。イラン情勢を受けた株価の大幅下落はこれで3日連続となる。終値でも2,100円を超える株価の下落となれば、2024年8月2日の2,216円下落に次ぐ、過去5番目の下落幅となる。3日の米国市場で、WTI原油先物価格が一時1バレル78ドル直前の水準まで上昇し、米国の株価が大幅に下落した影響が日本市場にも及んでいる。
原油価格は筆者が想定する1バレル77ドルという楽観シナリオの水準を一時的ではあるが上回った。事態は、楽観シナリオから1バレル87ドルを前提とするベースシナリオ(メインシナリオ)へと移ってきているように見える(コラム「イラン攻撃で高まる原油価格上昇リスクと日本経済への影響試算」、2026年3月2日、「原油価格上昇の国民生活への影響:ガソリンを起点に価格上昇は広範囲に段階的に進む」、2026年3月3日)。
原油価格上昇や株価の大幅下落は、イラン情勢の早期安定化が難しいとの見方が広がってきたことを受けたものだ。当初は、軍事力で圧倒的優位に立つ米国、イスラエルが早期にイランの軍事力を制圧し、さらに、トランプ大統領が望んでいるイラン国民による体制転換、親米体制の創設がなされれば、軍事衝突は早期に解消され、イラン及び中東地域での原油・LNGの供給の支障は早期に取り除かれる、との楽観論が比較的強かったと見られる。
しかし、トランプ大統領の場当たり的な言動から、事態が、トランプ大統領が当初予想していなかった泥沼化へ向かっているとの懸念を原油市場、金融市場は強めているのだろう。
トランプ大統領が、ホルムズ海峡を航行するタンカーを米海軍が護衛すること、船舶の保険料を引き下げる考えを打ち出したことは、原油価格の上昇と米国民からの不満の高まりを受けて、トランプ大統領が慌てて対応を始めた、との印象を与えるものだ。
また、トランプ大統領が地上軍の派遣の可能性を示唆したことも、事態が当初の想定通りに進まず、軍事衝突が長期化、泥沼化するとの懸念を金融市場で高めている。
さらに、トランプ大統領は、イランが新たな指導部の体制に代わっても、これまでと同様に米国にとって問題をもたらす可能性があるとの見方を示した。軍事行動が引き起こす体制転換を通じて、イランが米国にとって望ましい国になるという楽観的な見方を事実上修正するものだ。
トランプ大統領が綿密な計画と明確な出口戦略を持たずにイラン攻撃に踏み切ったことが明らかになる中、さらに、トランプ大統領が場当たり的な対応を繰り広げようとする中で、金融市場は事態がトランプ大統領にとって想定外の方向に動いているとの見方を強め、混乱の長期化への懸念を強める構図となっている。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。