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イラン情勢を受けて、3月5日の米国市場でWTI原油先物価格は1バレル81ドル台まで上昇した。原油価格の上昇は、筆者の第1の楽観シナリオの前提である1バレル77ドルを大きく超え、第2のベースシナリオ(メインシナリオ)である1バレル87ドルに近づいてきた。早期の軍事衝突終了を前提とする楽観シナリオは崩れつつある(コラム「原油価格80ドルで、ガソリン価格180円台が視野に:ガソリン補助金が復活か」、2026年3月6日)。
 
原油価格の上昇は、まずはガソリン価格の上昇として我々の生活に直接影響するが、それ以外にも様々な品目、サービスの価格に影響する。その影響の程度や価格上昇までにかかる時間はまちまちだ。しかし、最終的には相当広範囲の品目の価格を押し上げることになる。
 
以下では、ベースシナリオ(メインシナリオ)に沿って、イラン情勢を受けて原油価格が約30%(29.9%)上昇した際に、我々の生活に身近な日用品、食料品の価格がどの程度上昇するかを、過去の実データを統計的に分析した結果で予想した(図表)。
 
図表 原油価格上昇が日用品・食料品の価格に与える影響
原油価格が上昇する場合、原油を精製して作られる国内のガソリンの価格は、様々な価格の中で最も早く、そして最も大きく上昇する。原油価格の上昇は、1週間程度で国内ガソリン価格に一部転嫁され始め、1か月程度で大半が転嫁されると考えられる。つまり、最終的には国内ガソリン価格は30%程度上昇する計算となる。
 
原油価格上昇から3~4か月後に上昇するのが、電気・ガス料金となる。その他の日用品や食料品の価格は、数か月から半年程度を目途に、緩やかに上昇することが予想される(コラム「原油価格上昇の国民生活への影響:ガソリンを起点に価格上昇は広範囲に段階的に進む」、2026年3月3日)。
 
日用品では、原油から直接作られる製品の価格上昇幅は大きくなりやすい。それらは、プラスチック容器、包装材、化学繊維、塗料、接着剤、洗剤などだ。その一つである食品用ラップの価格は、約3.6%と比較的大きく上昇することが予想される。
 
他方、原油を直接原料にしなくても、その製造過程で、乾燥などに多くの電気を使うトイレットペーパーの価格も約1.5%上昇すると予想される。
 
野菜、肉、卵、魚などの食料品は、原油を直接原料としないのは当然であるが、それでも、原油価格上昇の影響を受ける。それは第1に、製造過程で使う電気代の上昇が製品価格に転嫁されるためだ。第2に、原油、LNGから作られる化学肥料の価格上昇が製品価格に転嫁されるためだ。第3に、ガソリン価格上昇による輸送コストの上昇が製品価格に転嫁されるためだ。
 
野菜全般、肉全般はともに約1.8%の価格上昇が予想されるが、これは主に第3の輸送コストの上昇を反映したものと推測される。
 
他方、製造過程で電気を多用する卵、養殖の魚は、その分、価格上昇幅が大きくなると予想される。さらに、ニンジン、キャベツ、トウモロコシの価格上昇が大きめとなるのは、利用する化学肥料の価格上昇の影響があるためと推測される。
 
このように、原油価格上昇は、様々な経路と時間を経て、我々の生活に身近な日用品、食料品に幅広く価格上昇をもたらすことになる。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。