イラン情勢は日本経済の大きなリスク
日銀は4月1日に3月分短観を発表する。最大の注目点は、2月末以降のイラン情勢が企業の景況感や活動にどのような影響を与えているかを確認することだ。QUICKが27日までにまとめた民間16社の予測によると、大企業製造業の現状判断DIの中心値は+17と、前回2025年12月調査から2ポイントの改善と4四半期連続の改善が見込まれている。ただし、3月の短観の回収基準日は3月12日であり、イラン情勢の影響を十分に反映しているとは言えない。
イラン情勢の悪化は、原油供給の減少や原油価格の高騰を通じて、世界経済の大きなリスクとなっている。中東に原油の調達を依存する傾向が強い、日本を含むアジアの国々にとっては、特に深刻な経済リスクとなっている。
WTI原油先物価格が半年以上の平均で1バレル87ドルの標準ケースでは、日本の実質GDPは1年間で0.31%低下すると見込まれる(図表)。また、1バレル140ドルの悲観ケースでは、日本の実質GDPは1年間で0.65%低下して、スタグフレーションの傾向が強まる。日本経済が景気後退に陥る可能性も相応に高まるだろう(コラム「イラン攻撃で高まる原油価格上昇リスクと日本経済への影響試算」、2026年3月2日)。
イラン情勢の悪化は、原油供給の減少や原油価格の高騰を通じて、世界経済の大きなリスクとなっている。中東に原油の調達を依存する傾向が強い、日本を含むアジアの国々にとっては、特に深刻な経済リスクとなっている。
WTI原油先物価格が半年以上の平均で1バレル87ドルの標準ケースでは、日本の実質GDPは1年間で0.31%低下すると見込まれる(図表)。また、1バレル140ドルの悲観ケースでは、日本の実質GDPは1年間で0.65%低下して、スタグフレーションの傾向が強まる。日本経済が景気後退に陥る可能性も相応に高まるだろう(コラム「イラン攻撃で高まる原油価格上昇リスクと日本経済への影響試算」、2026年3月2日)。
図表 イラン情勢の緊迫化と原油価格上昇の日本経済への影響のシナリオ別試算


原油価格高騰よりも怖い原油不足と電力使用規制
しかし、本当に怖いのは、原油価格の上昇よりも原油不足が深刻化する事態だ。事実上封鎖されているホルムズ海峡の代替ルートを通じた原油の調達を急いで進める必要があるが、ホルムズ海峡からの原油輸入の減少分を補うことは実際にはかなり難しい。政府の石油備蓄も146日程度しかなく、そのうち30日分は既に放出を決めている。
ホルムズ海峡の船舶の運航が正常化しなければ、いずれ日本は原油不足に直面する。そうしたリスクが高まれば、政府は1970年代のオイルショック時と同様に、ガソリンや電力の消費抑制を個人や企業に呼びかけるだろう。
1973年の第1次オイルショック後には、個人に、日曜の自動車利用の自粛、高速道路での低速運転、空調の温度設定調整などが求められた。
経済に特に深刻な影響を与えたのは、電力の大口需要者である大手企業に対して、3か月半程度の間、電力利用の15%削減を求めたことだ。これは、企業の生産活動に甚大な悪影響を与えた。仮に同様の措置が講じられる場合には、以下の計算により、日本の1年間の実質GDPは0.94%も押し下げられる計算となる(コラム「第1次オイルショック時と同様の電力使用規制が行われた場合の影響を試算:実質GDPを0.94%押し下げ」、2026年3月27日)。日本は深刻な景気後退、そしてスタグフレーションに陥るだろう。
1年間の実質GDPへの影響=(企業の生産に占める契約電力 500kW 以上の大口需要者の割合【37.5%】)×(電力供給の削減率【15%】)×(電力供給制限の期間【3.5か月÷12か月】)×(電力供給が1%減少する場合の生産の減少率(弾性値)【0.57】) = 0.94%
ホルムズ海峡の船舶の運航が正常化しなければ、いずれ日本は原油不足に直面する。そうしたリスクが高まれば、政府は1970年代のオイルショック時と同様に、ガソリンや電力の消費抑制を個人や企業に呼びかけるだろう。
1973年の第1次オイルショック後には、個人に、日曜の自動車利用の自粛、高速道路での低速運転、空調の温度設定調整などが求められた。
経済に特に深刻な影響を与えたのは、電力の大口需要者である大手企業に対して、3か月半程度の間、電力利用の15%削減を求めたことだ。これは、企業の生産活動に甚大な悪影響を与えた。仮に同様の措置が講じられる場合には、以下の計算により、日本の1年間の実質GDPは0.94%も押し下げられる計算となる(コラム「第1次オイルショック時と同様の電力使用規制が行われた場合の影響を試算:実質GDPを0.94%押し下げ」、2026年3月27日)。日本は深刻な景気後退、そしてスタグフレーションに陥るだろう。
1年間の実質GDPへの影響=(企業の生産に占める契約電力 500kW 以上の大口需要者の割合【37.5%】)×(電力供給の削減率【15%】)×(電力供給制限の期間【3.5か月÷12か月】)×(電力供給が1%減少する場合の生産の減少率(弾性値)【0.57】) = 0.94%
日本銀行が利上げを一定期間停止することを余儀なくされるリスクも
イランを巡る戦闘状態などに大きな変化はなくても、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続くような膠着状態が維持されれば、日本の原油不足は着実に深刻さを増していく。それは企業や個人の景況感を悪化させ、経済活動を損ねることになるだろう。さらに、上記のような電力利用規制などの措置が講じられる事態となれば、経済の悪化はかなり深刻になる。
そうした極めて大きなリスクがあるなか、日本銀行は、3月分の短観の調査結果や支店長会議での企業のヒアリングの報告から、イラン情勢の企業への影響を判断し、4月に利上げを行うことは実際には難しいのではないか。脆弱な零細企業の活動や賃上げの動向などを見極めるには、こうした情報では十分ではない。
仮にホルムズ海峡の事実上の封鎖が4月あるいは5月に解除されることがあるとしても、日本銀行が企業や個人の活動へのイラン情勢の影響を見極めるためには、その後もしばらく時間を要することになり、年前半の利上げは難しいのではないか。
原油不足の深刻化と原油価格の高騰がそれ以上続き、日本経済への打撃が深刻になる場合には、昨年のトランプ関税の時と同様に、日本銀行は半年程度などの一定期間、利上げの一時停止に追い込まれる可能性もあるだろう。
(参考資料)
「日銀3月短観、イラン情勢の影響は限定的か 4月1日発表-News Forecast」、2026年3月29日、日本経済新聞電子版
そうした極めて大きなリスクがあるなか、日本銀行は、3月分の短観の調査結果や支店長会議での企業のヒアリングの報告から、イラン情勢の企業への影響を判断し、4月に利上げを行うことは実際には難しいのではないか。脆弱な零細企業の活動や賃上げの動向などを見極めるには、こうした情報では十分ではない。
仮にホルムズ海峡の事実上の封鎖が4月あるいは5月に解除されることがあるとしても、日本銀行が企業や個人の活動へのイラン情勢の影響を見極めるためには、その後もしばらく時間を要することになり、年前半の利上げは難しいのではないか。
原油不足の深刻化と原油価格の高騰がそれ以上続き、日本経済への打撃が深刻になる場合には、昨年のトランプ関税の時と同様に、日本銀行は半年程度などの一定期間、利上げの一時停止に追い込まれる可能性もあるだろう。
(参考資料)
「日銀3月短観、イラン情勢の影響は限定的か 4月1日発表-News Forecast」、2026年3月29日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。