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米最高裁は今年2月20日に、国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠とする相互関税を違憲とする判決を下した(コラム「最高裁による違法判決でトランプ関税の不確実性が再び高まる。関税全体の合法性が問われ、関税の行き詰まり感が強まる方向」、2026年2月24日)。
 
最高裁は違憲となった関税の返還については判断を示さなかったが、下級審の米国際貿易裁判所は3月4日に還付を命じ、事前に税返還を求めて訴訟を起こしたか否かに関わらず、相互関税などを支払った企業は還付を受けられるとの判断を示した。
 
これに対して米税関・国境警備局(CBP)は返還には膨大な事務処理が必要だとして、新たなシステムの構築を進めてきた。CBPは3月31日に、輸入企業が申告した約5,300万件のうち、新システムの下で当初は約6割について対応すると表明していた。
 
そしてCBPは4月20日から、段階的に返還申請を受け付けると発表した。CBPは、追加審査が必要な場合を除き、申請の受理から60~90日以内に、利息も含めて返還する。申請は、米政府の通関サイトに新設される専用システムを通じて受け付ける。返還は申請が受理されてから通常でも2~3か月はかかるという。
 
米国では、輸入企業がまず概算の関税を支払い、原則314日以内に正式な関税額が確定する。今回受け付ける返還は、関税額が未確定か、確定から80日以内の輸入申告が対象となる。
 
IEEPAによる関税を支払った輸入業者は約33万社で、総額は約1,660億ドル(約26兆円)に上るという。
 
一方で注目されるのは、トランプ政権の対応だ。トランプ大統領は裁判所の税返還の命令に対して、提訴を行う考えを示唆しており、「今後5年は法廷で争うことになるだろう」と述べていた(コラム「相互関税が失効しても支払った関税が企業に返還されるかどうかは不確実」、2026年2月24日)。
 
米政府は、国際貿易裁判所の返還命令が出された日から60日以内に、控訴(上級審への提訴)ができる。国際貿易裁判所は2026年3月4日に関税の返還を命令したことから、控訴の期限は5月初めとなる。政府は控訴と併せて、返還手続きを止めることを申立てることが可能であり、実際に控訴される場合には両者がセットとなる可能性が高い。
 
5月初めまでに米政府が控訴と返還手続きの停止申し立てを行う可能性は考えられるところだ。ただし、控訴審(CAFC)が執行停止を命じなければ、返還手続きは停止しない。実際には政府の控訴後も返還手続きは続けられ、相互関税を通じた大幅税収増というトランプ政権の国民への約束は、大きく損なわれることになるだろう。
 
(参考資料)
「「違法」判断されたトランプ関税の一部、20日から還付申請の受け付け開始…膨大な申請見込まれ段階的に対応」、2026年4月13日、読売新聞
「米関税 貿易秩序乱す 発動1年 違法判断も見えぬ還付」、2026年4月6日、産経新聞
「トランプ関税1年、世界翻弄 企業が返還求め提訴、2000件超 「違法」判決受け動き加速」、2026年4月3日、朝日新聞
「トランプ関税:「トランプ相互関税」1年 世界の「米国離れ」加速」、2026年4月3日、毎日新聞
「トランプ関税1年 裁判で無効、巨額還付焦点 判決後も日本企業など提訴」、2026年4月2日、神戸新聞

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。