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ガソリン補助金の問題点

国民民主党は、イラン情勢を受けて先行き物価高が進む情勢にあることから、中低所得者を念頭に1人あたり5万円程度を配るよう政府に提言するという。対象を低所得者に絞り予算規模を抑えた給付なのであれば、その案は検討に値するだろう。
 
原油価格の高騰がガソリン価格の上昇をもたらしたことを受けて、政府は3月19日にガソリン補助金を開始した。導入自体は妥当であったと考えられるが、長く続けるほど問題点が浮上してくる。
 
第1の問題は、補助金の支出が拡大し財政支出全体を圧迫することだ。筆者の試算によれば、5月8日までの補助金の合計は8,300億円程度に達する。現在のペースで補助金の支給を続けると、6月下旬には現在確保している予算は枯渇してしまう計算となる(コラム「ガソリン補助金の予算枯渇シミュレーション」、2026年5月8日)。
 
第2の問題は、ガソリン消費を節約する意欲を奪ってしまうことだ。石油備蓄の放出によって、企業や個人は従来の原油需要の水準を維持しているが、先行き深刻な原油の供給不足が生じるリスクがある中で、こうした行動は適切ではないだろう。不要な原油・ガソリンの消費を控える節約が求められる。
 
しかし、補助金を通じてガソリン価格の上昇を抑制し続ければ、節約する意欲はそがれてしまう。またガソリン価格の上昇抑制策は、脱炭素に向けた取り組みを阻害することにもなる。
 
このような問題点を踏まえると、ガソリン補助金は次第に縮小し、ガソリン価格の緩やかな上昇を容認することを検討すべきだ。しかし、それでは、低所得層の生活が圧迫されるだろう。そこで、ガソリン補助金の対象を低所得層に限ることも選択肢となる。そうすれば、上記の2つの問題は軽減される。

「給付付き税額控除」導入の議論を急いだうえで低所得層向け給付金を検討すべき

一方、低所得層に限ったガソリン補助金制度が技術的に難しいのであれば、ガソリン補助金を縮小した上で、物価高全体への対応の観点も踏まえ低所得層向けに給付金を配ることも検討されるべきだろう。
 
2025年の参院選では、給付金を掲げた石破政権が大敗したことから、先般の衆院選で高市政権は、物価高対策としての給付金は国民に否定されたとして、食料品の消費税率を2年間ゼロにする減税策を掲げた。
 
しかし、イラン情勢を受けて原油価格が急騰すると、物価高対策としての消費税減税は、実施までに時間がかかるという大きな欠点が浮き彫りとなっている。筆者の推測では、食料品の消費税率を0%に引き下げる場合には、1年から1年半、1%に引き下げる場合でも半年から1年程度の時間を要し、迅速な物価高対策にはならないと考えられる(コラム「浮上する食料品の消費税率1%案:原油価格高騰と消費税減税の家計への影響を比較」、2026年4月27日)。
 
物価の変動に合わせて所得ごとの手取りを柔軟に変更できる設計の「給付付き税額控除」は、抜本的な物価高対策となり得るとみられる。高市政権は食料品の消費税率を2年間ゼロにする減税策を「給付付き税額控除」導入までの「つなぎ」の措置と位置付けるが、その減税策も実施に時間がかかることから、「つなぎ」の措置としては中途半端だ。減税に必要な財源の議論もほぼ進んでいないのが現状だ。
 
政府は、食料品の消費税率を2年間ゼロにする減税策を撤回し、「給付付き税額控除」導入の議論を急ぐべきではないか。そのうえで、当面の物価高に対する対応としては、総額1兆円の今年度予算の予備費で賄える範囲に抑え、低所得層に対象を絞った給付金を再度検討すべきだ。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。