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執行部と非執行部の金融政策スタンスに差

6月15~16日に開かれる金融政策決定会合では、早期利上げにかなり前向きな非執行部の審議委員の意見に、なお慎重な姿勢の総裁が議長案を合わせる形で歩み寄ることで利上げが決まる可能性が高いとみられる。そのように正式発表されることは決してないが、非執行部の審議委員主導で利上げが決まる、歴史的な金融政策決定会合になるものと考える(コラム「日本銀行・植田総裁の入院と金融政策決定会合」、2026年6月11日)。
 
執行部と非執行部の金融政策スタンスの差は、利上げに慎重な政府から受ける圧力の違いに起因する部分もあるかもしれない。政府との接点を持つのは執行部であり、非執行部はほとんどない。
 
それだけでなく、物価動向を受けた金融政策姿勢が「短期視点」か「中長期視点」かという違いに根差している部分が大きいのではないか。非執行部は、実際の物価上昇率が上振れ、その傾向が原油価格の上昇によってさらに助長されることを懸念する。物価上昇率の上振れや、物価上昇見通し(インフレ期待)の上振れは、実質金利を低下させ金融緩和を強化する。その結果、先行きの物価上昇率の上振れに対して金融政策が後れをとってしまう、いわゆるビハインド・ザ・カーブのリスクを警戒して、早期利上げを志向するのである。
 
他方、執行部は、長らく異例の低水準に維持してきた政策金利を引き上げ、中長期の中立水準でぴたりと止めるという、難度が高いことを目指しているように見える。そして、原油価格上昇による物価上昇は一時的であり、基調的な物価上昇率に与える影響は不確実であることから、利上げを急がないという姿勢となる。非執行部の政策姿勢の方が、通常の中央銀行の姿勢に近いと言えるだろう。

政策金利の中長期の中立水準は1%程度である可能性

過去数年は、円安による輸入物価上昇が食料品などの値上げを通じて、物価上昇率を大きく押し上げてきた。しかし、食料・エネルギーを除くコアコアCPI(消費者物価上昇率)は足もとで下振れており、円安に起因する値上げの動きが弱まってきたことを示唆している(コラム「事前予想を下回った5月東京都区部CPI:円安に促された食料品の値上げの動きは弱まり、基調的な物価上昇率は下振れ」、2026年5月29日)。その水準は前年比で1%程度まで低下してきた(図表)。
 
図表 消費者物価上昇率の推移

今後、年末にかけては、原油価格上昇の影響からナフサ由来製品の価格が上昇し、コアコアCPIの上昇率も再び上振れるが、それは一時的なものとなろう。足もとで1%程度まで低下してきたコアコアCPIの上昇率を中長期の物価上昇率のトレンドとみなした場合、実質政策金利(自然利子率)をゼロと仮定すれば、政策金利の中長期の中立水準は1%程度となる。
 
日本銀行が16日に、政策金利を0.75%から1.0%に引き上げれば、政策金利は中長期の中立水準、均衡水準近傍にまで達する可能性があるのではないか。

政策金利の中長期の中立水準とターミナルレートに乖離

他方、生鮮食品を除いたコアCPIの上昇率が、今後3%近くにまで再び一時的に上昇する可能性があることから、実際の物価上昇率や物価上昇率見通しをより重視する非執行部は、今後も追加利上げを志向するとみられる。
 
その結果、6月の決定会合での利上げの後、今年の12月の決定会合でも追加利上げが行われると見ておきたい。さらに再来年にかけて政策金利は1.75%まで引き上げられると予想する。つまり、ターミナルレート(政策金利の到達点)は1.75%と予想される。仮に政策金利の中長期の中立水準は1%程度であるとすると、政策金利はその水準を大きく超えて引き上げられるものと見ておきたい。
 
その結果、将来的には、物価上昇率が低下していく過程で日本銀行の利下げの余地が生じるだろう。

執行部と非執行部の対立は今後も続くか

このように、実際の物価上昇率の上振れを警戒する非執行部の意見に影響され、なお利上げ余地は残されていると考えられる。ただし今後も、折に触れて、執行部と非執行部の間の意見の対立は表面化することになるだろう。それは、日本銀行内部が金融政策決定で割れていると金融市場でネガティブに受けとめられる可能性がある一方、自由な議論を通じて金融政策が決定されるようになった、とのポジティブに受け止められる可能性もあるのではないか。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。