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政府の投資割合は事前予想よりも大きい可能性

6月24日に政府は、経済財政諮問会議と日本成長戦略の合同会議で、2040年度までに戦略17分野について官民合計で総額370兆円の投資を行う計画を示した。総額370兆円は事前に報じられていた通りの規模であるが、民間活動への国の関与や財政への影響の観点から注目されたのが、政府投資の規模だった。その数字は明示されなかったものの、機械的な計算の前提として初年度の2027年度の財政支出が10兆円、その後は物価上昇率に見合って増えていく、つまり実質10兆円が続くとの想定が示された。

今後の物価上昇率が年間2%と想定した場合には、2027年度から2040年度までの政府支出合計は約160兆円となり、これは官民合計の投資額370兆円の43%にも達する計算だ。事前予想よりもかなり大きくなる。GX投資計画では官民合計150兆円のうち政府投資は20兆円と約13%であったことと比べて、政府の比率が格段に大きい。

従来の産業政策の枠を超え「国家資本主義」的に

官民投資は、少額の政府投資が呼び水となって民間の投資を最大限引き出すことを目指すべきものだ。政府投資の割合が全体の43%にも達するのであれば、これはもはや「呼び水」とは呼べず、「政府主導」の投資計画と言えるだろう。民間の経済活動に政府がここまで関与するのは、従来の産業政策の枠を超えるものであり、それは「国家資本主義」に近づくと言えるのではないか。

こうした過剰とも言える政府の民間投資活動への関与は、民間活動を歪めることや、そもそも採算が合わない分野に政府と民間が投資資金をつぎ込み、失敗するリスクを高めることにならないだろうか。さらに、財政環境を悪化させてしまう恐れも高まる。

成長力向上で財政健全化が進む想定は「絵に描いた餅」、「とらぬ狸の皮算用」

政府は2040年度までの財政試算も示した。戦略投資の実施後も低成長が続けば、政府債務のGDP比率は2030年度から上昇に転じ、財政の健全化は遠のく。

一方で、成長戦略の効果が十分に実現し、実質GDP成長率が2030年代に1%台後半にまで高まる場合には、政府債務のGDP比率は低下が続き、財政健全化が進むと説明した。

しかし、現在0%台半ばと考えられる潜在成長率が2030年代に1%台後半へと1%以上高まると想定するのは明らかに無理がある。政府が投資を拡大させながらも、成長率の向上が税収を増加させ、同時に財政健全化を進めることができるのであればそれは望ましいことだが、その実現可能性は低い。まさに「絵に描いた餅」であり「とらぬ狸の皮算用」である。

「つなぎ国債」の償還財源は示されていない

また政府は、戦略投資の財源を「つなぎ国債」の発行で賄う考えだ。これは財源問題の先送りにつながるリスクがあるだろう。

「つなぎ国債」は将来の償還財源を決めたうえで発行する国債であるが、現時点でその償還財源の説明はない。政府が毎年、実質10兆円規模の政府投資を行うのであれば、その財源を賄うのはかなり難しい。償還財源に目途が立たないまま「つなぎ国債」を発行すれば、それは「赤字国債」の発行と変わらなくなる。仮に、戦略投資の効果で増加する税収を償還財源とするようなことを政府が検討しているのであれば、そうした杜撰なことはすべきではない。

投資対象を有望で収益性が高い分野に絞り込み、理念ある成長戦略へ見直しを

戦略17分野の官民投資について、その問題点を本稿では指摘してきたが、24日により具体策が打ち出されたことで、問題点はより浮き彫りになった形だ(コラム「政府は17分野の成長戦略投資で官民合計370兆円規模を想定:なお課題も多く慎重な戦略策定が望まれる」、2026年6月19日、「戦略17分野の官民370兆円投資:総花的で見えにくい成長戦略の理念」、2026年6月22日)。

計画はなお模索中であるように見える。今後、総花的な17戦略分野を、政府の少額の投資が呼び水になって民間投資が引き出される、有望で収益性が高い分野に大胆に絞り込んだうえで、財源を確保した上で、成長戦略を進めるべきだ。

さらに、少子化対策や労働市場改革といったサプライサイドのマクロの成長戦略と組み合わせて、目指すべき日本経済の将来像を示す理念のある成長戦略へと組み直していって欲しい。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。