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原油価格は再び80ドル台が視野に

イランがホルムズ海峡を通過する船舶を攻撃し、さらにホルムズ海峡の再封鎖を宣言したことを受け、トランプ政権は12日にイランに対する報復攻撃を行った(コラム「ホルムズ海峡の再封鎖」、2026年7月13日)。
 
またトランプ大統領は13日に、6月に解除していたイランの港湾に対する封鎖措置を再開すると表明した。戦闘終結に向けた協議を行う覚書の合意は崩壊に近づき、事態は合意前の5月頃の状況に戻りつつある。
 
米国時間13日の原油市場で、WTI原油先物価格は1バレル78ドル台にまで上昇した。戦闘終結やホルムズ海峡再開への期待から7月2日に原油価格は67ドル台と、2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃前の水準まで戻っていた。そこから既に10ドル以上原油価格は上昇している。14日の東京市場では一時1バレル79ドルに達し、80ドル台が視野に入っている。
 
13日・14日の原油価格の上昇は、米国とイランの対立が強まったことを受けただけではない。注目されるのは、トランプ大統領がホルムズ海峡を通過するすべての貨物に20%の通過料を課すと主張したことだ。トランプ政権は、覚書の合意に違反したとイランを強く批判してきたが、攻撃の矛先をイラン以外の国々にまで向けてきた形だ。判断が混乱しているような印象も受ける。

トランプ大統領が主張する20%の通過料は国際法違反

イランはホルムズ海峡の管理を手放そうとしないが、ホルムズ海峡が国際海峡(外国船舶や航空機には一定の自由な通航権が認められている海峡)であることに照らせば国際法違反だ(コラム「ホルムズ海峡封鎖・通航料徴収と国際法上の整理」、2026年4月7日)。ホルムズ海峡を通過する船舶が自発的にサービス料を支払うのであれば国際法違反にならないかもしれないが、通行料を強制するのであれば国際法違反の可能性が高い。米国自らが国際法違反を犯そうとしているのである。
 
イランはホルムズ海峡を通過する石油タンカーに対して、1バレル当たり1ドル程度の通過料を課していたとされる。超大型タンカー1隻あたりの石油積載量を約200万バレル、原油価格1バレル80ドルを前提に計算すると、約200万ドル程度の通過料に相当する。これは、日本のガソリン価格を1リットル当たり1円程度押し上げると見られる。
 
ところが、トランプ大統領が主張する貨物価格の20%の通過料となれば、超大型タンカー1隻あたり3,200万ドル程度の通過料となる計算だ。実際にこの通過料が課されれば、原油価格は20%近く上昇し、日本のガソリン価格は補助金がない場合には12円~14円程度上昇する計算となる。この点を踏まえれば、トランプ大統領の発言に、原油市場が大きく反応したのも当然だろう。
 
原油価格は6月中旬頃の水準まで上昇しており、80ドル台が目前に迫っている。覚書の合意が崩壊に近づきつつある点と、トランプ大統領が法外な通過料を課す可能性に言及していることを踏まえると、当面の原油価格は80ドル前後での推移となる可能性がある。再び60ドル台に下がる可能性はかなり遠のいたのではないか。

年内の物価の落ち着きは見えなくなる

戦闘終結に向けた協議を行う覚書の合意を受けて、国内の企業や個人の景況感は一時改善したとみられる。石油関連の企業が強く警戒していた原油・ナフサの供給不足のリスクは低下したとの見方から、減産の動きが緩み、ごみ袋、ラップ、シンナーなど川下での日用品の深刻な品不足とそれを映した異例の価格高騰は徐々に収まる見通しとなった。
 
しかし、イラン情勢の悪化を受けて、企業は代替ルートの調達を進めてもいずれ原油・ナフサの供給不足が生じるとの警戒を再び強め、減産を再開する可能性があるだろう。
 
また、原油価格の再上昇は、企業のコスト増加と収益悪化への懸念、個人の物価高懸念を生じさせる。今年春先までの原油価格高騰の影響は、10月頃までの値上げにつながるとみられるが、原油価格が安定を取り戻せば、年末にかけては物価の安定が見られると予想された。しかし、原油価格が再び上昇し、高水準が維持されれば、年内の物価の落ち着きは見えなくなる。

金融市場のトリプル安が日本経済への悪影響を増幅する

さらに注目されるのは、金融市場の動きだ。イラン情勢の悪化を受けて13日の東京市場では、円安、株安、債券安の「トリプル安」が進んだ。14日の東京市場でも、この流れがさらに強まる可能性がある。
 
6月以降、原油価格が低下する中でも、円安・債券安は目立って修正されなかった。これは、国内での財政悪化懸念、政府による日本銀行の利上げ牽制観測、米国の利上げ観測などによって、原油価格低下の影響が相殺されてしまったと考えられる。そうしたなかで原油価格が再び上昇すれば、円安・債券安に弾みがついてしまう可能性がある。円安・債券安は、物価高と長期金利の上昇を通じて、個人や企業の経済活動に悪影響を与える。
 
イラン情勢の悪化、原油価格上昇に対して、金融市場が大きく反応する場合には、日本経済への悪影響が増幅されてしまう点に留意したい。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。