ウォーシュ議長はフォワードガイダンスの問題点を指摘
5月に米連邦準備制度理事会(FRB)議長に就任したウォーシュ氏は、FRBの金融政策について、先行きの政策金利の見通しを示すフォワードガイダンス(先行きの政策方針)を見直す考えを示している。
6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、声明文からフォワードガイダンスに関わる文言が削除され、声明文は、その時点での政策決定と経済認識を簡潔に伝える文書へと変質した。その結果、声明文の長さも、従来の約300~400語から、約130語程度にまで大幅に削減された。
また、FOMCの参加者による先行きの政策金利の見通しの分布を示す、いわゆるドットチャートの作成に、ウォーシュ議長は参加しなかった。ウォーシュ議長は「自身のドット(予測)を提出することは政策運営において有益ではない」と述べ、ドットチャートの将来についてはタスクフォースで検討すると語った。
ウォーシュ議長は、不確実な情報に基づいて将来の金融政策の予測を示すことは、それが修正された際に金融市場を動揺させてしまうリスクがあることや、政策当事者が、自らが示した金融政策の予測に縛られてしまうことなどを問題視しているとみられる。
6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、声明文からフォワードガイダンスに関わる文言が削除され、声明文は、その時点での政策決定と経済認識を簡潔に伝える文書へと変質した。その結果、声明文の長さも、従来の約300~400語から、約130語程度にまで大幅に削減された。
また、FOMCの参加者による先行きの政策金利の見通しの分布を示す、いわゆるドットチャートの作成に、ウォーシュ議長は参加しなかった。ウォーシュ議長は「自身のドット(予測)を提出することは政策運営において有益ではない」と述べ、ドットチャートの将来についてはタスクフォースで検討すると語った。
ウォーシュ議長は、不確実な情報に基づいて将来の金融政策の予測を示すことは、それが修正された際に金融市場を動揺させてしまうリスクがあることや、政策当事者が、自らが示した金融政策の予測に縛られてしまうことなどを問題視しているとみられる。
世界規模で中央銀行のフォワードガイダンス政策を見直す機運が広がる
ウォーシュ議長が示したフォワードガイダンスへの懐疑的な見方は、他の中央銀行の間でも議論を引き起こしている。ウォーシュ氏はポルトガルのシントラで開催された欧州中央銀行(ECB)の年次国際会議で、中央銀行は実体経済で何が起きているかに基づいて判断を下すことが極めて重要だ、と指摘した。それに、ECBのラガルド総裁、イングランド銀行(英中央銀行)のベイリー総裁、カナダ銀行(加中央銀行)のマックレム総裁らは賛成の意を示した。
また、ロイター通信によると、国際通貨基金(IMF)の調査局のペチヤ・コエバ・ブルックス副局長は8日に、金融政策に関するフォワードガイダンスの運用変更について、今後数か月以内に各中央銀行と協議する意向を明らかにした。世界規模で中央銀行のフォワードガイダンス政策に見直しの機運が広がっている。
また、ロイター通信によると、国際通貨基金(IMF)の調査局のペチヤ・コエバ・ブルックス副局長は8日に、金融政策に関するフォワードガイダンスの運用変更について、今後数か月以内に各中央銀行と協議する意向を明らかにした。世界規模で中央銀行のフォワードガイダンス政策に見直しの機運が広がっている。
フォワードガイダンスは長期金利のコントロールと市場との対話の手段
FRBは2004年から明示的にフォワードガイダンスを採用している。それが特に注目されるようになったのは、2008年のリーマンショック以降だろう。当初は、政策金利がゼロ%に達してさらなる引き下げができなくなる中、政策金利を長く低位に据え置くとの見通しを示すことで、長期金利の低下を促し、経済や金融市場を支えようとした。
その後は、経済の安定化を受けて長期金利が上昇した際に、早すぎる長期金利の上昇が経済に悪影響を与えることを懸念したFRBは、長期金利の上昇を抑えるために、政策金利をなおも低位に据え置くとの見通しを示した。こうした手法は、ECBなどにも引き継がれていった。
その後は、長期金利を誘導するというよりも、中央銀行と金融市場の先行きの金融政策の見通しが大きく乖離しないようにするといった、「市場との対話」の手段として、フォワードガイダンスは主に利用されていった。
フォワードガイダンスはFRBが始めた政策手段、との見方が多くなされているが、実際には、1999年に日本銀行がゼロ金利政策の下で導入した「時間軸効果」がその先駆者と言える。
その後は、経済の安定化を受けて長期金利が上昇した際に、早すぎる長期金利の上昇が経済に悪影響を与えることを懸念したFRBは、長期金利の上昇を抑えるために、政策金利をなおも低位に据え置くとの見通しを示した。こうした手法は、ECBなどにも引き継がれていった。
その後は、長期金利を誘導するというよりも、中央銀行と金融市場の先行きの金融政策の見通しが大きく乖離しないようにするといった、「市場との対話」の手段として、フォワードガイダンスは主に利用されていった。
フォワードガイダンスはFRBが始めた政策手段、との見方が多くなされているが、実際には、1999年に日本銀行がゼロ金利政策の下で導入した「時間軸効果」がその先駆者と言える。
足もとの長期金利上昇を日本銀行がフォワードガイダンスで抑え込むことは難しい
日本では、政策金利がゼロ%まで低下してさらなる利下げが難しくなる中、長期金利を下げて金融緩和効果を発揮させる手法として、「時間軸効果」が採用された。しかし、日本銀行は、FRBのように先行きの政策金利の見通しを自ら公表することはしてこなかった。それは、ウォーシュ議長が指摘するような問題点を認識していたからだろう。
金融市場にサプライズを起こさないよう、決定会合前に政策変更の有無を事実上市場に伝えるという現在の日本銀行の手法は、FRBに倣った面もあるように思うが、これはごく短期の見通しを示すものであり、フォワードガイダンスとは異なる(コラム「日銀はマイナス金利政策の導入を決めた決定会合の議事録を公表へ:サプライズ戦略の失敗と賛否が分かれた採決は現在にもつながる」、2026年7月9日)。
そのため、世界的に今後フォワードガイダンスが見直されるようになっても、日本銀行の政策姿勢には大きな影響を与えないだろう。
足もとでは財政悪化懸念やインフレ懸念を映して、長期金利が連日上昇している(コラム「骨太ショックによる長期金利上昇は財政政策への市場の警鐘:国内経済や世界の金融市場にも悪影響」、2026年7月8日)。しかしそれを日本銀行がフォワードガイダンスで抑え込むことは簡単ではない。日本銀行が早期の利上げに慎重な姿勢を示すことで、長期金利の上昇を抑える効果が発揮される可能性はある。しかし一方で、日本銀行が早期の利上げに慎重な姿勢を示せば、利上げが遅れることで先行きの物価上昇率の上昇を抑えることに失敗してしまうという、いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ」のリスクが金融市場で意識される可能性もある。それはインフレ懸念を高め、逆に長期金利をさらに押し上げてしまうだろう。
(参考資料)
「IMF、フォワードガイダンス運用変更を各中銀と協議へ=幹部」、2026年7月8日、ロイター通信ニュース
金融市場にサプライズを起こさないよう、決定会合前に政策変更の有無を事実上市場に伝えるという現在の日本銀行の手法は、FRBに倣った面もあるように思うが、これはごく短期の見通しを示すものであり、フォワードガイダンスとは異なる(コラム「日銀はマイナス金利政策の導入を決めた決定会合の議事録を公表へ:サプライズ戦略の失敗と賛否が分かれた採決は現在にもつながる」、2026年7月9日)。
そのため、世界的に今後フォワードガイダンスが見直されるようになっても、日本銀行の政策姿勢には大きな影響を与えないだろう。
足もとでは財政悪化懸念やインフレ懸念を映して、長期金利が連日上昇している(コラム「骨太ショックによる長期金利上昇は財政政策への市場の警鐘:国内経済や世界の金融市場にも悪影響」、2026年7月8日)。しかしそれを日本銀行がフォワードガイダンスで抑え込むことは簡単ではない。日本銀行が早期の利上げに慎重な姿勢を示すことで、長期金利の上昇を抑える効果が発揮される可能性はある。しかし一方で、日本銀行が早期の利上げに慎重な姿勢を示せば、利上げが遅れることで先行きの物価上昇率の上昇を抑えることに失敗してしまうという、いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ」のリスクが金融市場で意識される可能性もある。それはインフレ懸念を高め、逆に長期金利をさらに押し上げてしまうだろう。
(参考資料)
「IMF、フォワードガイダンス運用変更を各中銀と協議へ=幹部」、2026年7月8日、ロイター通信ニュース
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。