骨太ショックで長期金利上昇
7月に入ってから、長期金利の上昇傾向がより際立っている。7月7日の10年国債の金利は一時2.86%台となり、約30年ぶりの水準を更新した。
足もとでの長期金利上昇のきっかけとなったのは、7月中に公表予定の「骨太の方針」の内容についての報道であり、「骨太ショック」とも呼ばれている(コラム「続く円安と物価高の連鎖:政府の政策が自ら円安リスクを高める:2022年以来の円安で家計負担は年間4.7万円に」、2026年7月6日)。
骨太の方針の原案に、日本銀行の利上げを牽制する趣旨に読める文言が入るとの報道が、日本銀行の利上げ後ずれ観測を高め、円安圧力を生じさせた(コラム「骨太の方針原案で明らかになる政府による日本銀行の利上げ牽制姿勢と円安進行リスク」、2026年7月1日)。また利上げが遅れることで先行きの物価上昇率が上振れる(いわゆるビハンド・ザ・カーブ)リスクが高まるとの観測も、債券安(長期金利上昇)を後押しした。
さらに、政府は食料品の消費税率の引き下げや17分野の官民投資を進める方針を示す一方、その財源についての具体的な説明がなされていないこと、また、17分野の官民投資については政府支出をどの程度増加させるかという見通しも明確に示されないこと、加えて、財政健全化目標を見直し、財政健全化に向けた姿勢を事実上後退させるとの観測を生じさせていることなどを受けて、金融市場では財政悪化懸念が高まり、円安と債券安が同時に進んでいる面がある(コラム「緩められる財政健全化目標と財政規律」、2026年7月3日、「消費税減税の財源問題先送り:金融市場の財政懸念を高めるリスク」、2026年6月29日、「戦略17分野の官民投資:従来の産業政策の枠を超える過剰な国家関与と財政悪化が懸念される」、2026年6月25日)。
足もとでの長期金利上昇のきっかけとなったのは、7月中に公表予定の「骨太の方針」の内容についての報道であり、「骨太ショック」とも呼ばれている(コラム「続く円安と物価高の連鎖:政府の政策が自ら円安リスクを高める:2022年以来の円安で家計負担は年間4.7万円に」、2026年7月6日)。
骨太の方針の原案に、日本銀行の利上げを牽制する趣旨に読める文言が入るとの報道が、日本銀行の利上げ後ずれ観測を高め、円安圧力を生じさせた(コラム「骨太の方針原案で明らかになる政府による日本銀行の利上げ牽制姿勢と円安進行リスク」、2026年7月1日)。また利上げが遅れることで先行きの物価上昇率が上振れる(いわゆるビハンド・ザ・カーブ)リスクが高まるとの観測も、債券安(長期金利上昇)を後押しした。
さらに、政府は食料品の消費税率の引き下げや17分野の官民投資を進める方針を示す一方、その財源についての具体的な説明がなされていないこと、また、17分野の官民投資については政府支出をどの程度増加させるかという見通しも明確に示されないこと、加えて、財政健全化目標を見直し、財政健全化に向けた姿勢を事実上後退させるとの観測を生じさせていることなどを受けて、金融市場では財政悪化懸念が高まり、円安と債券安が同時に進んでいる面がある(コラム「緩められる財政健全化目標と財政規律」、2026年7月3日、「消費税減税の財源問題先送り:金融市場の財政懸念を高めるリスク」、2026年6月29日、「戦略17分野の官民投資:従来の産業政策の枠を超える過剰な国家関与と財政悪化が懸念される」、2026年6月25日)。
実質長期金利の上昇は財政悪化懸念を反映か
10年国債の金利は、5月に2.80%台を付けた後に一時低下していた。7月に入って再び上昇し、7月7日には2.86%台に乗せたのである。
この間、10年物のインフレ連動債から計算した金融市場のインフレ期待は2.32%台から2.02%台まで低下している。これは、原油価格の下落を受けて、債券市場のインフレ懸念がやや和らいだためだろう。この間に10年国債の金利が逆に上昇したのは、インフレ期待の上昇ではなく、実質長期金利(名目長期金利-長期期待インフレ率)の上昇によるものと考えられる。
先行きの日本銀行の利上げ観測が強まる場合にも、この実質長期金利は上昇するが、実際にはこの間、近い将来の日本銀行の利上げ観測は、上記のような骨太の方針の原案での金融政策に関する記述を受けてむしろ後退した。こうした点から、足もとの10年国債の金利の上昇は、財政悪化懸念、あるいは政府の財政政策運営に対する市場の不信感を反映したものと言えるのではないか。
この間、10年物のインフレ連動債から計算した金融市場のインフレ期待は2.32%台から2.02%台まで低下している。これは、原油価格の下落を受けて、債券市場のインフレ懸念がやや和らいだためだろう。この間に10年国債の金利が逆に上昇したのは、インフレ期待の上昇ではなく、実質長期金利(名目長期金利-長期期待インフレ率)の上昇によるものと考えられる。
先行きの日本銀行の利上げ観測が強まる場合にも、この実質長期金利は上昇するが、実際にはこの間、近い将来の日本銀行の利上げ観測は、上記のような骨太の方針の原案での金融政策に関する記述を受けてむしろ後退した。こうした点から、足もとの10年国債の金利の上昇は、財政悪化懸念、あるいは政府の財政政策運営に対する市場の不信感を反映したものと言えるのではないか。
再び世界の金融市場の不安材料にも
2年物のインフレ連動債から計算したインフレ期待も、現在1.60%と高い。これを政策金利の1%から差し引いた実質政策金利は-0.60%と依然マイナスだ。しかし、実質金利である10年物のインフレ連動債は0.84%と既に高水準である。
日本銀行が決める政策金利は、まだ景気抑制的な水準には達していないと思われるが、財政悪化懸念などを映して上昇した長期金利は、企業の設備投資を鈍化させるなど、既に景気抑制的である可能性が考えられる。
政府は景気に配慮して日本銀行の利上げを牽制する前に、財政政策で市場の信認を得ることに努め、それを通じて長期金利の低下をまず促すべきだ。
また、今年1月には、財政悪化懸念などから日本の長期金利が上昇し、それが米国の長期金利を押し上げるなど、日本が世界の金融市場の不安定化の震源地となった。その際に政府は、米国のベッセント財務長官から市場の安定に配慮した政策運営を求められたとみられる。今後、同様の展開となる可能性も考えられる。
日本銀行が決める政策金利は、まだ景気抑制的な水準には達していないと思われるが、財政悪化懸念などを映して上昇した長期金利は、企業の設備投資を鈍化させるなど、既に景気抑制的である可能性が考えられる。
政府は景気に配慮して日本銀行の利上げを牽制する前に、財政政策で市場の信認を得ることに努め、それを通じて長期金利の低下をまず促すべきだ。
また、今年1月には、財政悪化懸念などから日本の長期金利が上昇し、それが米国の長期金利を押し上げるなど、日本が世界の金融市場の不安定化の震源地となった。その際に政府は、米国のベッセント財務長官から市場の安定に配慮した政策運営を求められたとみられる。今後、同様の展開となる可能性も考えられる。
市場の警鐘を受け入れて市場の信認を十分に得る財政運営を
過去数年は、円安と物価高の連鎖が生じ、これが行き過ぎた円安を持続させてきた。円安は輸入物価の上昇を通じて国内物価を押し上げる一方、物価上昇は通貨の価値を薄めることから、円安を生じさせやすい。
他方、財政悪化による財政への信認低下は債券安(長期金利の上昇)をもたらすが、それは通貨の信認低下に結びつき、円安も引き起こす。また円安による物価高は、やはり債券安につながる。
円安と物価高の連鎖がこのような円安、物価高、債券安の連鎖へと発展し、定着してしまう前に、政府は市場の警鐘に耳を傾け、市場の信認を十分に得る財政運営を心掛ける必要があるのではないか。
他方、財政悪化による財政への信認低下は債券安(長期金利の上昇)をもたらすが、それは通貨の信認低下に結びつき、円安も引き起こす。また円安による物価高は、やはり債券安につながる。
円安と物価高の連鎖がこのような円安、物価高、債券安の連鎖へと発展し、定着してしまう前に、政府は市場の警鐘に耳を傾け、市場の信認を十分に得る財政運営を心掛ける必要があるのではないか。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。