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GPIFを通じた政府の市場介入との観測も

7月10日片山財務相は、「積立金‌管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめとする年金基金に、日本の金融資産にさらなる投資をしていただく後押しをする方策を追求したい」と発言した。これは、円安・債券安を止める狙いの市場への口先介入、との見方が出ている(コラム「財務相のGPIF国内投資発言は、債券・為替市場への口先介入との観測も」、2026年7月10日)。

14日には、上野厚労相はGPIFの基本ポートフォリオについて、「運用環境は策定時の想定から大きく乖離していない」と説明しつつも、「必要があれば見直しの検討を進める」と含みのある発言をした。また14日に片山財務相は、GPIFの基本ポートフォリオの見直しについて政府が介入したり強制することはできないことを強調しつつ、「毎年度適時適切に検証し、⁠必要あれば見直しの検討を進める原則に変わりはない」と指摘し、GPIFの判断によって見直しがなされる可能性があることを述べている。

こうした一連の発言を受けて、金融市場では、政府がGPIFの基本ポートフォリオの見直しの可能性を示唆することで市場に口先介入している可能性と、実際GPIFの基本ポートフォリオが見直される可能性が意識されている。

GPIFの「基本ポートフォリオ」は、GPIF法に基づいて設置された、外部有識者を含む経営委員会が、厚生労働省が原則5年ごとに実施する「公的年金の財政検証」に合わせて中期目標を策定して決定する仕組みが2017年から適用されている。通常であれば次の見直しは2030年になる。

他方、毎年、⁠市場動向を踏まえて適切なリスク管理を行い、ポートフォリオ策定時に想定した運用環境が大きく変化する可能性について検証も行われている。ただし、2026年3月の経営委員会では、「見直しの検討は必要ない」と判断された。

政府はGPIFの基本ポートフォリオの見直しに間接的ながらも一定程度の影響力

2017年10月のGPIF改革以降、基本ポートフォリオはGPIFの経営委員会が決定する重要事項となった。そのため、政府にはGPIFの基本ポートフォリオを直接修正する権限はないが、一定程度の影響力を与えることは可能と考えられる。

厚生労働大臣は、GPIFに中期目標を与える、中期計画を認可する、年金財政検証を実施するといった立場にあり、GPIFの運用の大枠に影響を与え得ると考えられる。GPIF改革前ではあるが、安倍政権下の2014年には厚労大臣がGPIFに対して、基本ポートフォリオの見直しを前倒しで行うよう要請したとされる。それを受けて当時の運用委員会が新たな財政検証を踏まえて検討を行い、実際、2014年10月に基本ポートフォリオを変更した。

外国株式と国内株式合わせた株式比率を従来の24%から50%に大幅に引き上げた一方、国内債は60%から35%に引き下げた。アベノミクスに合わせて、国内株の投資比率を引き上げたと解釈された。

現在では2025年度から5年間の基本ポートフォリオは国内外の債券、株式にそれぞれ25%ずつと定められている。

このような経緯を踏まえると、政府は引き続き、GPIFの基本ポートフォリオの見直しに間接的ながらも一定程度の影響力を与えることが可能ではないか。

トランプ政権は公的年金基金の海外投資拡大を円安誘導と批判

政府のGPIFの国内投資拡大に言及した背景には、トランプ政権に対する配慮も考えられるところだ。日本は公的年金基金の海外投資を通じて、事実上円安誘導をしているのではないか、との疑念をトランプ政権は持っており、またドル高円安に不満を持っているとみられる。GPIFの外貨建て資産の比率を下げ、国内資産の比率を高める方向でポートフォリオを見直せば、それはトランプ政権の意向にも沿ったものとなる。

米国財務省が昨年6月に公表した為替報告書には、「大規模な公的年金基金など政府系投資機関は、リスクを加味した収益や分散投資のために海外に投資すべきで、競争力を念頭に為替相場を目的にすべきではない」との文言が盛り込まれていた(コラム「米国為替報告書は日銀の利上げによる円安是正効果を評価:ベッセント財務長官のFRB議長起用でトランプ政権の政策は関税からドル安に軸足を移すか」、2025年6月13日)。

円安・債券安の修正は政府の政策変更で対応すべき

足もとで円安・債券安が進んだ背景には、いわゆる「骨太ショック」がある。政府の積極財政姿勢や日本銀行の利上げの牽制姿勢が読みとれた骨太の方針の原案が、円安・債券安を大きく促したものだ。

円安・債券安は物価高や長期金利上昇を通じて経済・金融市場を不安定化させ、国民生活を圧迫しかねない。それが政府の政策姿勢に根差すのであれば、GPIFの基本ポートフォリオ見直しなどを示唆する口先介入で円安・債券安を修正しようとするのは、それはまさに小手先の対応であり的外れでもある。持続的な効果は期待できないだろう。

政府が円安や債券安の流れを本気で変えようとするのであれば、日本銀行の独立性を最大限尊重することや、財政健全化の観点から市場の信認を得る財政運営を心掛けることがその対応の王道となる。

(参考資料)
「情報BOX:GPIFの現状と運用方針、過去の経緯」、2026年7月16日、ロイター通信
「GPIF、必要ならポートフォリオ見直し検討の原則変わらず=片山財務相」、2026年7月16日、ロイター通信

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。