9月の日銀利上げ観測が強まる
17日に、国内長期金利の指標となる新発10年国債利回りは一時2.93%まで上昇し、1996年10月以来、約30年ぶりの高水準となった。3%の水準が目前に迫っている。
同日朝に発表された4-6月期GDP統計は総じて事前予想を下回る弱めの内容となった(コラム「中東情勢緊迫化の影響で4~6月期GDPは低迷:個人消費への悪影響は7~9月期に本格化し、GDPはマイナス成長も」、2026年8月17日)。しかし、実質GDP成長率が3四半期連続でプラスとなったことや、デフレーターが上振れたこと等から、金融市場では日本銀行が9月の次回会合で利上げを決めることを後押しするとの見方も出ている。それが、同日の長期金利を一段と押し上げる要因になった面もある。
しかし、日本銀行の金融政策と長期金利の関係は複雑だ。早期利上げ観測が10年国債金利を押し上げる局面がある一方、利上げが遅れることで将来の物価上昇リスクが高まる、いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ」への懸念が10年国債金利を押し上げる局面もある。日本銀行は、「ビハインド・ザ・カーブ」によって、基調的な物価上昇率が目標値の2%を超えてしまうリスクを意識している。
植田総裁は先般の記者会見で、長期金利上昇への懸念を示した。これは、長期金利上昇が「ビハインド・ザ・カーブ」懸念を反映している面があるとの認識があるためだろう。
同日朝に発表された4-6月期GDP統計は総じて事前予想を下回る弱めの内容となった(コラム「中東情勢緊迫化の影響で4~6月期GDPは低迷:個人消費への悪影響は7~9月期に本格化し、GDPはマイナス成長も」、2026年8月17日)。しかし、実質GDP成長率が3四半期連続でプラスとなったことや、デフレーターが上振れたこと等から、金融市場では日本銀行が9月の次回会合で利上げを決めることを後押しするとの見方も出ている。それが、同日の長期金利を一段と押し上げる要因になった面もある。
しかし、日本銀行の金融政策と長期金利の関係は複雑だ。早期利上げ観測が10年国債金利を押し上げる局面がある一方、利上げが遅れることで将来の物価上昇リスクが高まる、いわゆる「ビハインド・ザ・カーブ」への懸念が10年国債金利を押し上げる局面もある。日本銀行は、「ビハインド・ザ・カーブ」によって、基調的な物価上昇率が目標値の2%を超えてしまうリスクを意識している。
植田総裁は先般の記者会見で、長期金利上昇への懸念を示した。これは、長期金利上昇が「ビハインド・ザ・カーブ」懸念を反映している面があるとの認識があるためだろう。
長期金利の上昇を食い止めるのは財政悪化懸念の緩和
しかし、長期金利の上昇は、日本銀行が「ビハインド・ザ・カーブ」に陥ることへの懸念のみを反映しているわけではない。17日の10年インフレ連動債と10年国債から計算した市場のインフレ期待(BEI)は、2.07%だった。年初の1.79%から0.3%ポイント程度の上昇にとどまっている。
一方、10年国債金利はこの間に2.04%から2.93%まで0.9%ポイントも上昇している。この間の10年国債金利の上昇は、インフレ期待の上昇よりも、インフレ期待を除いた実質長期金利の上昇をより大きく反映したものであることを意味している。
実質長期金利の上昇は、この間の政策金利見通しの上方修正を反映した面もあるが、それ以外に財政悪化リスクを反映しているのではないか。そして財政悪化懸念が円安傾向をもたらし、それが日本銀行のターミナルレート(政策金利の到達点)の見通し引き上げにつながっているものと考えられる。
こうした点から、債券安に歯止めを掛けることができるのは、財政悪化懸念の緩和と考えられる。
一方、10年国債金利はこの間に2.04%から2.93%まで0.9%ポイントも上昇している。この間の10年国債金利の上昇は、インフレ期待の上昇よりも、インフレ期待を除いた実質長期金利の上昇をより大きく反映したものであることを意味している。
実質長期金利の上昇は、この間の政策金利見通しの上方修正を反映した面もあるが、それ以外に財政悪化リスクを反映しているのではないか。そして財政悪化懸念が円安傾向をもたらし、それが日本銀行のターミナルレート(政策金利の到達点)の見通し引き上げにつながっているものと考えられる。
こうした点から、債券安に歯止めを掛けることができるのは、財政悪化懸念の緩和と考えられる。
円安・債券安がもう一段進めばトランプ政権からの政策修正圧力がさらに高まる
日本での円安と債券安が米国及び世界の経済・金融市場に与える悪影響を警戒したトランプ政権は、自然災害や金融危機・通貨危機ではない平時としては極めて異例の日米協調介入に踏み切ったと考えられる。他方、トランプ政権はその実施に際して日本に密かに条件を付けた可能性が考えられる。いわゆる「密約」だ(コラム「日米協調介入の裏に密約があったか?」、2026年8月5日)。
それは、金融市場の安定に十分に配慮した財政政策を実施することや、日本銀行の独立性を尊重し、利上げを妨げないことを、高市政権がトランプ政権に約束するものと推察される。
日米協調介入後も、高市政権は食料品の消費税率1%への引き下げに向けて邁進している。財源確保の議論は後回しとなり、金融市場の財政悪化懸念への配慮は明確にはみられない。
日本銀行の利上げ牽制については、今年に入ってから高市政権は、日本銀行の利上げを公然と牽制することを控えているが、水面下では日本銀行になお圧力をかけ続けているのではないか。
仮に日米協調介入の裏で密約のようなものがあったとしても、現状ではそれが果たされない可能性がある。それは、為替政策を巡る米国側との調整は主に財務省が担っているのに対して、高市首相自身はそれほど円安や債券安を問題視していないという、政権内での温度差を反映している可能性も考えられるだろう。
しかし、日本で円安と債券安がさらに進んだ場合、金融市場の安定に関するトランプ政権の危機意識は一層高まり、金融市場の安定に向けた取り組みを高市政権により強硬に求める可能性が出てくるだろう。
10年国債金利が3%台に乗せることや、ドル円レートが再び1ドル160円台に乗せる、あるいは協調介入前の水準を超えて1ドル165円に接近するといった事態は、トランプ政権の危機感をさらに高め、高市政権への圧力を強めるきっかけになるのではないか。逆に言えば、円安・債券安がもう一段進み、トランプ政権からの圧力がさらに高まるまでは、国内の政策修正は進まないとも言えるだろう。
それは、金融市場の安定に十分に配慮した財政政策を実施することや、日本銀行の独立性を尊重し、利上げを妨げないことを、高市政権がトランプ政権に約束するものと推察される。
日米協調介入後も、高市政権は食料品の消費税率1%への引き下げに向けて邁進している。財源確保の議論は後回しとなり、金融市場の財政悪化懸念への配慮は明確にはみられない。
日本銀行の利上げ牽制については、今年に入ってから高市政権は、日本銀行の利上げを公然と牽制することを控えているが、水面下では日本銀行になお圧力をかけ続けているのではないか。
仮に日米協調介入の裏で密約のようなものがあったとしても、現状ではそれが果たされない可能性がある。それは、為替政策を巡る米国側との調整は主に財務省が担っているのに対して、高市首相自身はそれほど円安や債券安を問題視していないという、政権内での温度差を反映している可能性も考えられるだろう。
しかし、日本で円安と債券安がさらに進んだ場合、金融市場の安定に関するトランプ政権の危機意識は一層高まり、金融市場の安定に向けた取り組みを高市政権により強硬に求める可能性が出てくるだろう。
10年国債金利が3%台に乗せることや、ドル円レートが再び1ドル160円台に乗せる、あるいは協調介入前の水準を超えて1ドル165円に接近するといった事態は、トランプ政権の危機感をさらに高め、高市政権への圧力を強めるきっかけになるのではないか。逆に言えば、円安・債券安がもう一段進み、トランプ政権からの圧力がさらに高まるまでは、国内の政策修正は進まないとも言えるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。