本コラムでは以前に、11月3日に行われる米国中間選挙について、その結果が財政、予算、債務上限、関税、FRB人事、AI規制、移民、弾劾に与える影響、さらに金融市場への影響についてシナリオ分析を行った(コラム「2026年米国中間選挙展望:シナリオ別の経済政策と金融市場への影響」、2026年10月8日)。主要な経済関連テーマはここでほぼカバーされたと考えられるが、金融市場が見落としがちな5つの論点について、本稿では追加で提示したい。
結果の確定が遅れるリスク
第1の論点は、結果が「いつ」確定するかである。接戦となれば、下院の多数派が投票日の夜に決まらない可能性がある。これは市場にとっては大きな不確実性だ。
郵便投票の扱いは州ごとに異なっており、投票日までの消印があれば後から届いた票も数える州が14ある。受付期限はテキサス州の1日後からワシントン州の21日後(11月24日)までと幅がある。
米シンクタンクR Streetによると、クック・ポリティカル・リポートが「接戦」と判断する下院18選挙区のうち6つが、こうした州(カリフォルニア、ニューヨーク、テキサスなど)にあり、多数派の確定まで数日から数週間かかる可能性もある。開票が長引くほど金融市場のボラティリティは高まりやすい。
また認定が遅らされる可能性を一部の専門家が指摘する。その狙いは、認定を2027年1月3日正午以降まで遅らせ、新議会発足時の院の構成に影響を与えることだ。1月3日までに認定されなければ、議会はその議員抜きで始まる。
郵便投票の扱いは州ごとに異なっており、投票日までの消印があれば後から届いた票も数える州が14ある。受付期限はテキサス州の1日後からワシントン州の21日後(11月24日)までと幅がある。
米シンクタンクR Streetによると、クック・ポリティカル・リポートが「接戦」と判断する下院18選挙区のうち6つが、こうした州(カリフォルニア、ニューヨーク、テキサスなど)にあり、多数派の確定まで数日から数週間かかる可能性もある。開票が長引くほど金融市場のボラティリティは高まりやすい。
また認定が遅らされる可能性を一部の専門家が指摘する。その狙いは、認定を2027年1月3日正午以降まで遅らせ、新議会発足時の院の構成に影響を与えることだ。1月3日までに認定されなければ、議会はその議員抜きで始まる。
区割り見直しが生む「得票と議席のずれ」
第2の論点は、選挙区の区割り見直しの影響だ。通常、区割りは10年ごとの国勢調査に合わせて見直されるが、トランプ大統領の呼びかけでテキサス州が共和党に有利な区割りを決め、ミズーリ州などもそれに続いた。これに対抗して、カリフォルニア州は住民投票で民主党に有利な区割りを採用し、民主党が最大5議席を上積みできるとされている。今回の下院選は、異例の「10年の途中での選挙区見直し」の後で行われる。
無党派の選挙分析機関クック・ポリティカル・リポートは、区割りの見直しは、共和党が下院で約5議席を純増させるとの見通しを示している。一方、共和党に有利な方向に区割りが見直されたノースカロライナ州では、それに対する反発から共和党支持者の離反が生じ、候補者に不利に働いているとの指摘もある(コラム「米中間選挙は民主党優位の展開が続くか」、2026年10月19日)。
この区割りの見直しによって、世論調査の全国の支持率と実際の両党の下院での勝敗との間にずれが生じる可能性がある点には注意が必要だ。
無党派の選挙分析機関クック・ポリティカル・リポートは、区割りの見直しは、共和党が下院で約5議席を純増させるとの見通しを示している。一方、共和党に有利な方向に区割りが見直されたノースカロライナ州では、それに対する反発から共和党支持者の離反が生じ、候補者に不利に働いているとの指摘もある(コラム「米中間選挙は民主党優位の展開が続くか」、2026年10月19日)。
この区割りの見直しによって、世論調査の全国の支持率と実際の両党の下院での勝敗との間にずれが生じる可能性がある点には注意が必要だ。
USMCAの見直し
第3の論点は米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しだ。選挙と並行して進む見落とされがちな通商テーマが、このUSMCAの見直しだ。2026年7月1日の初の合同見直しで、メキシコとカナダが16年延長を支持したのに対し、米国は現行のままでの延長に同意しなかった。協定は2036年まで有効だが、これ以降は毎年見直しが行われる「常時交渉」の状態に入っている。
中間選挙の結果との関係は2点ある。1つは、協定が大きく改定されれば議会がその承認に関与する可能性がでてくることだ。民主党が下院を制する、あるいは両院を制すれば、その承認は難航するだろう。
もう1つは、カナダとの貿易が多いミシガン州やメイン州、農業州アイオワ州の上院選の結果が、議会の通商姿勢を左右し得ることだ。北米に生産拠点を持つ日本の自動車・部品メーカーにとっては、関税率そのものに加えて、原産地規則の見直しが中長期の投資判断に直結する。
中間選挙の結果との関係は2点ある。1つは、協定が大きく改定されれば議会がその承認に関与する可能性がでてくることだ。民主党が下院を制する、あるいは両院を制すれば、その承認は難航するだろう。
もう1つは、カナダとの貿易が多いミシガン州やメイン州、農業州アイオワ州の上院選の結果が、議会の通商姿勢を左右し得ることだ。北米に生産拠点を持つ日本の自動車・部品メーカーにとっては、関税率そのものに加えて、原産地規則の見直しが中長期の投資判断に直結する。
予測市場の存在感の高まり
第4の論点は予測市場だ。今回は、金融市場で選挙結果を予想する予測市場が、本格的に普及してから初めての中間選挙となる。カルシやポリマーケットといったプラットフォームで選挙の勝敗を売買する取引が急拡大し、CNNによれば2026年選挙関連の取引額は7億5,000万ドルを超えた。調査団体ACDCは、最終的に16億ドル規模に達する可能性があると試算している。報道や金融機関のレポートでも、この予測市場の確率が世論調査と並んで引用されるようになっている。
ACDCの分析では、ポリマーケットの議会選市場の取引の68%が上位1%の参加者に集中し、市場の87%は取引額が少ないか参加者がごく少数である。つまり、一部の大口参加者の売買で確率が大きく動き得る。
ロイター/イプソスの世論調査では選挙を賭けの対象にすることに米国民の多くが反対している。選挙後に予測市場の規制論議が進む可能性もあるだろう。投資家は、予測市場を世論調査や専門家の議席予想と並ぶ参考情報の1つとして慎重に扱うべきだ。
ACDCの分析では、ポリマーケットの議会選市場の取引の68%が上位1%の参加者に集中し、市場の87%は取引額が少ないか参加者がごく少数である。つまり、一部の大口参加者の売買で確率が大きく動き得る。
ロイター/イプソスの世論調査では選挙を賭けの対象にすることに米国民の多くが反対している。選挙後に予測市場の規制論議が進む可能性もあるだろう。投資家は、予測市場を世論調査や専門家の議席予想と並ぶ参考情報の1つとして慎重に扱うべきだ。
2028年大統領選レース
第5の論点は2028年の大統領選挙だ。トランプ大統領は憲法上3選できないため、中間選挙が終われば事実上、2028年大統領選の候補者争いが始まる。共和党ではバンス副大統領が最有力の後継候補と目されているが、出馬は正式に表明しておらず、選挙後にトランプ氏と話し合う考えを示している。民主党側でも、複数の知事や議員が早期予備選州を回るなど動きが出ている。
共和党の大統領候補者としては、現時点ではバンス副大統領が最有力と見られている。10月5~7日のセンター・スクエアの調査で支持率44%と、同社の過去5回の調査で最高を記録した。ニューハンプシャー大学の調査でも、同州の共和党予備選の投票予定者の51%がバンス氏を支持している。マルコ・ルビオ国務長官が2番手の候補だ。エマーソン大学の調査では、バンス氏36%、ルビオ氏35%とほぼ並んだ。その他では、デサンティス・フロリダ州知事、ヘイリー元国連大使、トランプ・ジュニア氏、ギャバード国家情報長官らの名前が挙がっている。
民主党の大統領候補者としては、現時点ではカマラ・ハリス前副大統領が知名度の高さから首位に立つ調査が多くなっている。10月初旬のFocalDataの調査でも、民主党予備選の投票予定者の間で首位だった。
それ以外では、ギャビン・ニューサム・カリフォルニア州知事が有力であり、トランプ政権との対立や区割り変更をめぐる争いで存在感を高めた。ピート・ブティジェッジ元運輸長官はエマーソンの調査で18%と首位、ニューサム氏が16%でそれに続いた。アレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員は若年層に強く、アトラスインテルの調査では26%で首位だった。
両党ともに大統領候補者の本格的な絞り込みは中間選挙後になる。後継候補の顔ぶれと掲げる政策によって、現在の関税や財政、規制の方針が2029年以降も続くのか、転換するのかについての見方が形成され始める。
企業が長期の設備投資や工場立地を判断する際や世界の投資家が米国への投資を判断する際には、トランプ政権の残り2年の政権運営よりも、その先の政策の継続性が重視されるようになる。
その試金石の1つがオハイオ州だ。過去3回の大統領選でトランプ氏が勝った州だが、今回は上院選と知事選がいずれも接戦となっている。ここでの結果は、2028年に向けた共和党の求心力を測る材料として注目される。
このように、今回の中間選挙では、「どちらが勝つか」に加えて「いつ、どの程度の差で決まるか」が金融市場に大きな影響を与える。開票と認定の遅れ、区割り変更による議席のずれは、いずれも議会構成の確定を遅らせたり、予想より僅差の議会を生んだりする要因となり得る。またその先には、USMCAの年次見直しと2028年大統領選という、長期の投資判断に関わる重要テーマが控えている。
共和党の大統領候補者としては、現時点ではバンス副大統領が最有力と見られている。10月5~7日のセンター・スクエアの調査で支持率44%と、同社の過去5回の調査で最高を記録した。ニューハンプシャー大学の調査でも、同州の共和党予備選の投票予定者の51%がバンス氏を支持している。マルコ・ルビオ国務長官が2番手の候補だ。エマーソン大学の調査では、バンス氏36%、ルビオ氏35%とほぼ並んだ。その他では、デサンティス・フロリダ州知事、ヘイリー元国連大使、トランプ・ジュニア氏、ギャバード国家情報長官らの名前が挙がっている。
民主党の大統領候補者としては、現時点ではカマラ・ハリス前副大統領が知名度の高さから首位に立つ調査が多くなっている。10月初旬のFocalDataの調査でも、民主党予備選の投票予定者の間で首位だった。
それ以外では、ギャビン・ニューサム・カリフォルニア州知事が有力であり、トランプ政権との対立や区割り変更をめぐる争いで存在感を高めた。ピート・ブティジェッジ元運輸長官はエマーソンの調査で18%と首位、ニューサム氏が16%でそれに続いた。アレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員は若年層に強く、アトラスインテルの調査では26%で首位だった。
両党ともに大統領候補者の本格的な絞り込みは中間選挙後になる。後継候補の顔ぶれと掲げる政策によって、現在の関税や財政、規制の方針が2029年以降も続くのか、転換するのかについての見方が形成され始める。
企業が長期の設備投資や工場立地を判断する際や世界の投資家が米国への投資を判断する際には、トランプ政権の残り2年の政権運営よりも、その先の政策の継続性が重視されるようになる。
その試金石の1つがオハイオ州だ。過去3回の大統領選でトランプ氏が勝った州だが、今回は上院選と知事選がいずれも接戦となっている。ここでの結果は、2028年に向けた共和党の求心力を測る材料として注目される。
このように、今回の中間選挙では、「どちらが勝つか」に加えて「いつ、どの程度の差で決まるか」が金融市場に大きな影響を与える。開票と認定の遅れ、区割り変更による議席のずれは、いずれも議会構成の確定を遅らせたり、予想より僅差の議会を生んだりする要因となり得る。またその先には、USMCAの年次見直しと2028年大統領選という、長期の投資判断に関わる重要テーマが控えている。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。