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ねじれ議会でトランプ政権の政策に一定程度の歯止めも

11月3日の米国中間選挙は、民主党が下院あるいは両院を制する「ねじれ議会」となる可能性が高い情勢だ(コラム「2026年米国中間選挙展望:シナリオ別の経済政策と金融市場への影響」、2026年10月8日)。この場合、日本など世界を苦しめてきたトランプ政権が進める政策に一定程度歯止めがかかる可能性が考えられる。
 
例えば、さらなる追加関税策がとられにくくなる可能性がある。もっとも、関税をめぐって議会がとれる手段は限られる。2026年2月に最高裁が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税を違法と判断したことを受け、政権は通商法122条による代替関税(7月に失効)を経て、現在は通商法301条などに基づく関税に軸足を移している。2025年秋には共和党多数の上院でも、関税の根拠となった緊急事態宣言を終了させる決議が可決されたが、この手段は301条や232条に基づく関税には使えない。また、ねじれ議会のもとでも、トランプ関税を制限する法案は、大統領の拒否権によって成立しにくいことには変わりない。
 
ただし民主党が下院を制すれば、公聴会や調査を通じて政権への監視を強め、関税権限を議会に取り戻す立法の議論を主導することが可能となる。新たな関税発動の政治的コストを高めるという点で、一定程度の歯止めとなる可能性がある。
 
また、原油価格高騰を招くイラン戦争に一定程度の歯止めを掛ける可能性も考えられる。共和党多数の現議会でも、共和党議員の一部が同調する形で、6月には上下両院で、イランでの戦闘行為から米軍を撤退させるよう大統領に求める決議が可決された。しかしこれは大統領の署名を要しない「両院一致決議」であり、法的拘束力はないとされる。上院はその翌日、同趣旨の別の決議を前に進めることができず、実質的に姿勢を後退させた。大統領に送付される「共同決議」の形をとっても、大統領は拒否権を行使するとみられ、議会の多数派が入れ替わっても、拒否権を覆す3分の2の賛成が得られない限り、決議だけでは戦争を止められない。
 
ただし、戦費の面では議会の影響力は大きい。政権は今年6月に、大半がイラン戦争関連となる約876億ドルの補正予算を議会に要求した。上院では通常60票の賛成が必要なため、少数党の民主党でも現状で阻止する余地はあるが、予算調整法を用いれば過半数での可決も可能となる。しかし民主党が両院あるいは下院を制する場合には、こうした迂回路も含めて戦費調達のための追加予算を阻むことができ、戦争に一定程度歯止めを掛けることが可能となる。
 
このように、民主党が勝利すれば、トランプ政権を特徴づける関税とイラン戦争に一定程度の歯止めとなり、それは日本経済、世界経済にはプラスとなるだろう。この点をメインシナリオと考えたいが、実際には、後に見るように、民主党が勝利することで、トランプ政権が関税、イラン戦争をさらに進める可能性も残されている。

ねじれ議会で日本には円安・物価高、AI逆風のリスクも

他方、留意しておきたいのは、民主党が上下両院あるいはどちらかを制し、ねじれ議会となる場合には、ドル高円安が進む可能性があることだ。これは物価高を促し、日本経済にマイナスとなる可能性がある。
 
民主党が議会、特に下院を制すれば、トランプ政権・共和党が進める財政拡張策の推進が阻まれる。それは財政リスクを低下させ、長期金利を低下させる。通常、米国の金利低下は日米金利差の縮小を通じてドル安要因となるが、財政リスクに対する上乗せ金利(リスクプレミアム)が縮小し、米国債とドルへの信認が高まる場合には、ドル高につながり得る。
 
さらに、民主党が上院を制すれば、トランプ政権が緩和重視派を米連邦準備制度理事会(FRB)の要職に送り込むことが難しくなる。議長には既に5月にウォーシュ氏が就任しているが、今後の理事などの人事には上院の承認が必要となる。それはFRBとドルの信認を高めて、ドル高要因となる。双方ともに「良いドル高」であるが、日本にとっては対ドルで円安が進み、物価高が助長される。
 
また、民主党が上下両院あるいはどちらかを制し、ねじれ議会となる場合には、トランプ政権が目指すAI推進のための連邦法の成立が阻まれ、州主導でAI規制がさらに進む可能性が高まる。AI規制の強化はやや長い目で見れば正しい施策である可能性もあろうが、短期的には米国でのAIブームを抑制する一因となるだろう。それは、米国向けAI関連投資の輸出に依存する日本経済にとってマイナスとなり、また日本の株式市場にとってもマイナスとなる。
 
さらに、足もとで既にみられるように、AIブームの変調が金融市場で意識されると、金融市場はリスクオフのモードになり、安全通貨として円が買われて円高が進みやすい。これは、ねじれ議会のもとでの財政悪化リスクの低下、FRBの信認回復を通じたドル高・円安傾向を打ち消すものであり、物価の安定という観点からは日本経済にとってプラスだ。
 
しかし、ねじれ議会のもとでAI規制の強化とAIブームの変調が意識され、円高と株安が急速に進む場合には、日本経済にとって逆風となるため、留意しておきたい。

政治・外交:議会と対立する政権と日米関係

さらに留意しておきたいのは、民主党が議会を握れば、トランプ政権は大統領令による単独行動により傾き、日本にとっての予見可能性はむしろ下がるというリスクもあるという点だ。3選が認められないトランプ大統領にとって、今回の中間選挙が国民に審判を仰ぐ最後の機会となる。これを終えれば、トランプ大統領はもはや世論を気にせずに、大統領の権限で極端な政策を推し進めるリスクもあるだろう。
 
この場合、既に述べた関税政策やイラン政策については、民主党の勝利がその歯止めとならないばかりか、加速してしまうリスクもあるだろう。
 
民主党が下院を制する場合には、3度目の大統領の弾劾訴追が現実味を帯びる。予測市場は2028年までの訴追確率を7割近くとみるが、上院で3分の2の賛成が必要な罷免は2割未満にとどまる。ただし、手続きが、2027年春から夏にも到達が見込まれる債務上限をめぐる交渉と重なれば、議会の機能低下が日本を含む海外金融市場の波乱要因となるだろう。
 
外交面では、政権が国内で行き詰まるほど、対外的な成果を急ぐ可能性がある。日本はトランプ政権から対米投資や防衛負担などで追加の要求を受けやすくなる一方、議会の監視が強まれば、合意の持続性や同盟政策の継続性が一定程度担保される面もある。
 
他方、共和党が両院を維持すれば、政権の通商・移民政策は加速し、日米の通商摩擦は再燃しやすい。いずれの結果でも、トランプ政権の後半は2028年の大統領選をにらんだ内向きの政治となり、日本は政権と議会の双方とのパイプを強める必要がでてくるだろう(コラム「米国中間選挙:金融市場が見落としがちな論点5つ」、2026年10月23日)。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。