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はじめに

2025年12月10日、金融庁の諮問機関である金融審議会に設置された暗号資産制度に関するワーキング・グループが報告書(以下、WG報告)を公表した(注1)。現在は決済手段としての性質に着目して「資金決済に関する法律」(以下、資金決済法)による規制の下に置かれているビットコインなどの暗号資産を、株式や債券等と同じような投資商品として金融商品取引法(以下、金商法)による規制に移行することが提言されており、2026年にも所要の法改正が行われる見通しである。

暗号資産取引の現状と課題

WG報告は、2025年6月に金融担当大臣からの「国内外の投資家において暗号資産が投資対象と位置づけられる状況が生じていることを踏まえ、利用者保護とイノベーション促進の双方に配慮しつつ、暗号資産を巡る制度のあり方について検討を行うこと」との諮問がなされたことを受けて、取りまとめられた。

資金決済法は、暗号資産の売買や他の暗号資産との交換、そうした行為の媒介、取次ぎまたは代理、それらの行為に関して利用者の資金の管理をしたり、他人のために暗号資産の管理をしたりする行為を業として行うことを暗号資産交換業と規定し(資金決済法2条15項)、暗号資産交換業者に対して金融庁の登録を受けることを求めている(資金決済法63条の2)。

2025年10月末時点で、28の業者が暗号資産交換業の登録を受けており、WG報告によれば、それらの業者における口座開設数は延べ1,300万口座を超え、利用者預託金残高は5兆円以上に達しているという。また、暗号資産保有者の約7割が年収700万円未満の所得層であり、個人口座の預かり資産額は8割以上が10万円未満だとされるなど、個人の利用者においても暗号資産の保有が身近なものとなってきている。他方、詐欺的な暗号資産の投資勧誘や取引等に係る当局への苦情相談等も増加しているという。

こうした中で、国民が安心して暗号資産取引を行えるような取引環境の整備と利用者保護の充実を図るために暗号資産規制の見直しに向けた議論がなされた。WG報告は、対処すべき喫緊の課題として、①情報提供の充実、②適正な取引の確保と無登録業者への対応、③暗号資産の投資運用行為(アセットマネジメント)やアドバイス行為についての適正な運営の確保、④価格形成と取引の公正性の確保、⑤セキュリティの確保、の5つを挙げる。

これらの課題に対応するための規制の見直しにあたっては、諮問文にも掲げられていたように、利用者保護の充実と健全な取引環境の整備を図るとともに、健全なイノベーションを後押ししていくことが重要である。検討の結果、WG報告は、以下の七つの柱からなる制度の見直しに向けた提言を行った。

根拠法令の見直し

第一に、従来資金決済法による規制の下に置かれてきた暗号資産の規制を金商法に移行するという根拠法令の見直しが提言された。暗号資産は、株式や債券など金商法上の有価証券のように配当や利息といった形で収益分配等を受ける法的な権利を表章するものではなく、性質が異なることから、有価証券とは別の規制対象として金商法に位置づけることが適当だとする。

金商法の規制対象とすべき暗号資産の範囲について、WG報告は、現行の資金決済法上の暗号資産とすることが適当だとする(注2)。そして、資金決済法上の暗号資産に該当しないトークンであるいわゆるNFT(non fungible token: 非代替性トークン)や法定通貨に価値が連動するいわゆるステーブル・コイン(資金決済法上の電子決済手段にあたる)については、一律に金商法の規制下に置くべきではないとする。

情報提供規制の導入

第二に、WG報告は、暗号資産の利用者に対して、新規販売時の情報提供および継続的な情報提供が適切に行われる必要があるとする。これは、①暗号資産の技術性・専門性の観点から、一般の利用者と専門家との間の情報の非対称性が存在することや、②暗号資産の価値の源泉を実質的にコントロールする中央集権的管理者(発行者)が存在する場合、発行者と利用者との間に情報の非対称性が存在すること、③暗号資産の流通・保有状況について、暗号資産を取引・保有する者と他者との間で情報の非対称性が存在することによる。

提供されるべき情報の内容についてWG報告は、暗号資産の性質・機能や供給量、基盤技術、付随する権利義務、内在するリスク等の取引判断に重要な情報を一般の利用者にとって分かりやすい形で提供すること、発行者が存在する中央集権型暗号資産については、それらに加えて発行者に関する情報を提供することなどが必要だとする。また、個別の暗号資産銘柄について、リスクと商品性に関する情報が利用者にわかりやすく提供されることが重要だとも指摘する。こうした情報の提供義務を課される者は、基本的には、暗号資産の取扱いに当たって各種リスクや適法性、事業の実現可能性等の審査を行う立場にある暗号資産交換業者である。

WG報告は、発行者が存在する中央集権型暗号資産の類型として、①特定の者のみが発行権限を有する暗号資産、②パーミッション型ブロックチェーン(注3)による暗号資産、③イーサリアムにおける代替性トークンを扱うための標準規格であるERC-20等、基盤となるトークン規格に基づき発行される暗号資産、の三つを掲げ、これらに該当するかどうかは、暗号資産交換業者が審査し、自主規制機関においてチェックする過程で判断されることになるとする。

発行者が暗号資産の販売によって資金調達を行う場合には、新規に生成・発行した暗号資産の販売であるか、既に生成・発行した暗号資産の販売であるかを問わず、情報提供規制の対象とすべきだと考えられる。但し、従来の金商法上の有価証券規制における少人数私募やプロ私募に該当するような場合については、発行者が自ら勧誘を行う場合、暗号資産交換業者が勧誘を代行する場合、のいずれについても、情報提供義務を免除することが適当であるとする(注4)。

WG報告は、情報提供義務が課される場合、発行者が作成する情報、暗号資産交換業者が作成する情報のいずれについても、顧客への勧誘前のタイミングで、ウェブサイト等での公表と顧客への情報提供を義務づけるべきだとする。また、継続的な情報提供として、暗号資産の取引判断に重大な影響を及ぼす事象が発生した場合には、発行者または暗号資産交換業者に対して適時の情報提供を行うことを義務づけるべきだとする。適時の情報提供を補完するものとして、年1回の定期的な情報提供を求めることが考えられるとも述べる。発行者または暗号資産交換業者によって作成される情報の虚偽記載や不提供について罰則や損害賠償に係る民事責任の特則を設けることも提言している。

また、発行者が広く一般投資家から資金調達する場合には、本来、監査法人による監査が行われることが望ましいとし、監査法人による財務監査が義務付けられていない株式投資型クラウドファンディングに係る現行規制を参考に(注5)、暗号資産発行者に対する監査法人による財務監査が行われていない暗号資産の販売については、利用者の投資上限を設けるべきだとする。

業規制のあり方

第三に、WG報告は、暗号資産の売買等を業として行う場合、基本的に第一種金融商品取引業(いわゆる証券会社が行う業等が該当する)に適用される規制と同様の規制を適用すべきだとする。一方、暗号資産の安全管理措置等、現行の第一種金融商品取引業の規制に含まれない特別な規制については、金商法に新たに規制を設けることが適当だとする。その上で、①兼業規制、②業務管理体制の整備、③利用者財産の管理、④責任準備金の積立て、⑤退出時における顧客財産の適切かつ円滑な返還、⑥仲介業規制、⑦暗号資産の借り入れといった個別の論点について、詳細な提言を行っている。

銀行・保険会社やそのグループにおける暗号資産の取扱いについても検討がなされた。その上で、銀行・保険会社本体による暗号資産の発行・売買等を認めることについては、引き続き慎重な検討が必要だとする。本体による暗号資産の仲介についても慎重な検討が必要だとし、暗号資産を運用対象とする投資運用業を行うことは、本体による投資運用業が一律に禁止されていることを踏まえ、禁止とすることが適当だとする。但し、銀行・保険会社本体による投資目的での暗号資産の保有については、分散投資の手段を提供する観点等から、十分なリスク管理・態勢整備等が行われていることを前提に、認めることが考えられるとする。

既に触れたように、暗号資産の取引をめぐっては、詐欺的な投資勧誘などの苦情相談等が増加しているのも現実である。そこでWG報告は、無登録業者による違法な勧誘等を抑止するために、刑事罰を強化するとともに、金商法が無登録業者への対応として設けている裁判所による緊急差止命令等の制度を活用することや無登録業者による暗号資産の売買契約を暴利行為に該当するものと推定して無効とする制度(注6)の導入を提言する。

このほか、①暗号資産の投資セミナーやオンライン・サロン等が出現している現状を踏まえ、暗号資産の投資運用や投資アドバイスを投資運用業及び投資助言業の対象とすること、②暗号資産が詐欺的な投資勧誘の支払手段として利用されることを防ぐために暗号資産交換業者に取引目的の確認やモニタリングを義務づけること、③海外の無登録業者やDEX(分散型取引所)の利用に伴うリスクの周知等やそれらをめぐる国際的な協力や検討についても提言されている。

金融リテラシー強化とサイバーセキュリティ対策

第四に、WG報告は、暗号資産取引に係る金融リテラシーの向上を図ることを提言する。また第五に、サイバーセキュリティ対策の強化を求めている。

市場開設規制適用の是非

第六に、WG報告は、一部の暗号資産交換業者による顧客同士の注文のマッチング(板取引)機能の提供について、金融商品取引所や私設取引システム(PTS)のような規制の導入が必要かどうかについて検討を加えている。この点について、WG報告は、現状ではマッチング機能を通じた価格形成機能は「暗号資産の性質上限定的なものであり」、厳格な市場開設規制を課す必要性は低いと結論付ける。

他方、既存の金融商品取引所が暗号資産現物を上場することについては、取引所がハッキング等による顧客資産流出のリスクを負うことになることを踏まえ、現時点では慎重に考えるべきだとする。

不公正取引規制の見直し

WG報告の提言内容の第七の柱は、不公正取引規制の見直しである。暗号資産の不公正取引規制をめぐっては、既に2019年の金商法改正で、不正行為の禁止に関する一般規制(金商法185条の22)、風説の流布や偽計の禁止(金商法185条の23)、相場操縦行為等の禁止(金商法185条の24)といった規定が整備されている。しかし、インサイダー取引規制については、これらの規定が設けられた改正当時、規制の対象となる「内部者」や「重要事実」を予め特定することは困難だと考えられたことを踏まえ、直接的な規制の導入は見送られていた(注7)。

WG報告は、近年欧州や韓国で暗号資産のインサイダー取引規制が法制化されるといった国際的な動きも踏まえ、この点について改めて検討を加えた結果、インサイダー取引規制の導入を提言している。具体的には、暗号資産のインサイダー取引規制の保護法益を「国内の交換業者の提供する取引の場の公正性・健全性に対する利用者の信頼を確保すること」と整理した上で、規制対象とすべき暗号資産、重要事実、規制対象者、公表措置、禁止行為の範囲と適用除外について詳細に検討している。また、株式等のインサイダー取引規制と同様に、未公表の重要事実の伝達・取引推奨を禁止することも提言する。

このほか、①暗号資産の不公正取引に係る課徴金制度の創設、②証券取引等監視委員会の調査権限の整備と体制拡充、③暗号資産交換業者による売買審査や自主規制機関による市場監視体制の抜本的強化、④相互主義の下での外国規制当局との調査協力、についても提言を行っている。
 

おわりに

ビットコインの組成法を示すサトシ・ナカモト名義の論文が公表されてから17年余り、暗号資産の取引は飛躍的に拡大した。しかし、暗号資産をどのような形で規制すべきかについては、世界各国で試行錯誤が続けられている。

日本では、2014年に当時世界最大級の暗号資産交換業者で、東京渋谷に所在したマウントゴックスがサイバー攻撃によって顧客資産を奪われるという事件が起きたこともあり、2016年6月に公布された改正資金決済法で、世界に先駆けて暗号資産(当時はもっぱら「仮想通貨」と呼ばれた)の規制が導入された。

しかし、資金決済法の暗号資産規制は、モノやサービスの購入、送金に利用される決済手段というイメージが強かったビットコインが、ほぼ唯一の暗号資産であったという立法当時の社会状況を強く反映したものとなり、その後のもっぱら投資商品や資金調達手段として活用されるという暗号資産取引の展開には、必ずしもそぐわない内容となっている。そうした中で、WG報告も述べるような暗号資産投資の拡がりが見られるだけに、今回の提言は時宜を得た意義の大きいものだと言える。提言内容を盛り込んだ法改正が早期に実現することを期待したい。

WG報告では触れられていないが、暗号資産への投資・保有が国民の身近なものとなってきているという事情を踏まえた、税制の見直しに向けた検討も進んでいる。現在、暗号資産取引によって生じる個人所得は、雑所得として総合課税の対象とされているが、株式や債券といった投資商品と同様に、いわゆる金融所得として申告分離課税の対象とすべきではないかとする議論である。

おりから米国では、「米国を暗号資産分野における世界の首都(capital)にする」と宣言したドナルド・トランプ大統領の下、暗号資産規制の急速な転換が進みつつある。株式などの有価証券への投資家が日常的に利用する証券取引所への暗号資産現物ETF(上場投資信託)の新規上場も相次いでいる(注8)。

日本では、暗号資産現物ETFについては、前述の税制上の取り扱いの違いを踏まえれば、暗号資産交換業者を通じた暗号資産の現物取引が不当に不利な状況に置かれるのではないかといった懸念もあり、これまで上場が実現していなかった。WG報告とそれを受けた法改正や税制の見直しの動きは、こうした状況を変化させるきっかけとなる可能性もあるだろう(注9)。

(注1)金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ 報告 」、2025年12月10日
(注2)資金決済法は、①「物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」(1号暗号資産)及び②「不特定の者を相手方として前号(①)に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」(2号暗号資産)を暗号資産と定義する(資金決済法2条5項各号)。
(注3)ネットワークへの参加に管理者による許可を要する分散型台帳を指す。
(注4)暗号資産の発行者が自ら暗号資産を販売する場合には、暗号資産交換業の登録が必要だと考えられており、実務上は、発行者が暗号資産交換業者に販売の取扱いを委託する(IEO: Initial Exchange Offering などと呼ばれる)ことが一般的である。
(注5)株式投資型クラウドファンディングの投資者(特定投資家を除く)の投資上限は、①純資産(居住用不 動産除く)の5%、②収入金額の5%、③50万円のうちいずれか高い額(その額が200万円を超える場合 にあっては、200万円)とされている。
(注6)無登録業者が売付けた未公開株式等の売買契約については、既に規定が設けられている(金商法171条の2)。
(注7)もっとも、暗号資産交換業者の内部情報を知る者が、当該業者が新たに取り扱うことを決定した暗号資産を「上場」前に予め買付けるといった「インサイダー取引」が行われた場合、上記の一般規制(金商法185の22)に基づいて処罰することは可能であるように思われる。実際、米国では、「証券」だとされた暗号資産の「インサイダー取引」が証券法上の一不正行為の禁止に関する一般規制に基づいて処罰された事例がある。詳しくは、当コラム「暗号資産のインサイダー取引をどう規制するのか」(2022年8月1日)参照。
(注8)当コラム「新たな暗号資産現物ETFが米国市場に上場」(2025年11月7日)参照。
(注9)もっとも、WG報告の提言に基づく法改正が実現すれば、暗号資産現物の取引にはインサイダー取引規制が適用されるのに対し、暗号資産現物ETFに対しては、インサイダー取引規制の適用が及ばないという違いが生じることをどう考えるのかという論点もあることは、見逃してはならないだろう。

プロフィール

  • 大崎 貞和のポートレート

    大崎 貞和

    未来創発センター

    

    1986年に野村総合研究所入社後、1987年以降、経済調査部資本市場研究室、資本市場研究部等で内外資本市場動向の調査研究に従事。 政府審議会委員等の公職を務めた経験を有し、現在は大学でも教育研究活動にも携わるほか、日本証券業協会の自主規制機関としての活動にも参画している。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。