半期報告書の提出を選択肢に
規則改正案では、1934年証券取引所法に基づく継続開示義務を負う会社は、従来通り年次報告書(様式10-K)の提出を義務づけられるほか、従来通りの四半期開示を行うか半期開示を行うかを選択することができるようになる。すなわち、半期報告を行う上場会社は、様式10-Kの表紙において、半期報告を行う旨が記載されたチェックボックス(□)にチェック(✓)を記入することで、半期報告を行う旨を表明することが可能となる(注2)。新規株式公開(IPO)に際して提出される有価証券届出書(様式S-1等)についても同様のチェックボックスが設けられる。つまり、各社がIPO時に開示頻度を自ら決定し、その後も毎年見直すことを可能とするような柔軟な制度が提案されている。
導入が提案された半期報告書の様式10-Sの記載事項は、現行の四半期報告書様式10-Qと同じであり、記載すべき情報のカバーする期間が四半期(3か月)ではなく、半期(6か月)となるだけである。10-Sに掲載される財務諸表については、独立の監査人によるレビューが求められるが、正式な監査までは求められない。この点も現行の10-Qと同じである。また、10-Sの提出期限は、提出会社の上場時価総額等によって半期終了から40日または45日とされるが、この点も現行の10-Qと同じである(注3)。
四半期情報開示を批判したトランプ大統領
発行者と投資者との間の情報格差をできるだけ解消するといった観点から、年1回や2回ではなく、四半期ベースでの定期的な情報開示が必要だという見解がある一方で、四半期情報開示の義務づけに対して否定的な見解もある。すなわち、四半期情報開示が行われることで、市場の関心が四半期業績に集中してしまい、上場会社の経営姿勢が短期志向になるといった見方もなされている。
米国のドナルド・トランプ大統領は、四半期情報開示が経営者の短期志向を助長するという見解を過去に何度か示している。2025年9 月には、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿したメッセージで、四半期開示義務を撤廃して半期開示に改めれば、上場会社にとっての費用の節約になるとともに、経営者を企業の正しい運営に集中させることになると主張し、「中国では企業経営を50年から100年単位で考えているのに対し、我々は四半期ベースで経営しているというではないか?これは良くない。」と述べていた(注4)(注5)。
これに対してSECのポール・アトキンス委員長は、「大統領の提案を歓迎する」と明言するとともに、すべての上場会社に対して一律に四半期情報開示を要求する必要はないという見解を表明するなど、トランプ氏の主張に沿った規則改正手続きを急ぐ方針を明らかにしていた(注6)。
「IPOを再び偉大に」が狙い
アトキンス氏は、年次報告書による毎年の情報開示を補う期中の情報開示の頻度については、会社が自社のビジネス上のニーズや自社の投資家にとって最適な形を自ら選択すべきものだとして、規則改正案はそうした柔軟性を会社に与えるものだと主張する。そして、情報開示の頻度を決定するにあたっては、開示書類の作成に要する費用や時間、投資家の期待、資本コストへの影響、自社のビジネスの成長段階、ビジネスモデルの性質、アナリスト向けの業績発表を含む他の情報開示の道筋、様式8-K(臨時報告書)による情報開示、アナリストによるカバレッジ拡大の可能性といった様々な要素を根本的な投資者保護を損なわないよう勘案すべきだとしている。
規則改正案の中でSECは、提案通りの改正が行われた場合、結果として、上場会社の一部による継続的な情報開示の頻度が低下する可能性を認めつつ、それらの会社についても、半期報告と年次報告との間に発生する投資判断に重要な影響を及ぼすような情報(material information)は引き続き開示されることになると説明している。SECは、臨時報告書様式8-Kに係る2003年の改正で、新たに行われた業績発表が臨時報告書の提出事由とされ、四半期業績に関するプレスリリース文書を臨時報告書の付属文書として提出することが求められていると指摘する。裏を返せば、四半期報告書10-Qによる情報開示が行われなくなっても、実質的に同じような情報が臨時報告書8-Kを通じて開示されるというのである。
規則改正案の意義
個社の事業内容や株主となる投資家の属性に合わせた柔軟な情報開示制度を目指すという規則改正案の基本的な考え方自体は、不必要な規制負担を解消するという観点から肯定的に評価できるだろう。とはいえ、現実の市場で開示情報が果たしている機能を考えれば、情報開示の実務がSECが期待するほど柔軟に変化するかどうかは疑問である。
確かに上場会社の事業内容や株主となる投資家の属性は、個社によって様々である。しかし、開示情報の利用者である投資家は、同じような事業セクターに属する複数の会社を比較しながら投資判断を行う場合が多い。しかも近年は証券投資がグローバル化しており、比較対象となる会社は一国内にとどまらない。仮に米国のすべての上場会社が同じ事業年度を設定したとすると、半期開示を行う会社と四半期開示を行う会社との業績や事業内容を直接比較できるタイミングは年に2回だけとなる。こうした決算期の食い違いは、国際的な投資判断を行う場合には、更に大きな問題を生む。日本の上場会社が四半期開示を行うべきか否かが議論となった際、3月決算が主流の日本企業と12月決算が主流の米国企業の業績を適切に比較するためには四半期開示が不可欠といった指摘もなされた。
四半期開示はなくなるのか?
もちろん、SECが規則改正案の中で指摘するような四半期報告書での四半期業績情報の開示から臨時報告書での開示への移行といった現象は生じ得る。この点をめぐってSECは、かつての半期報告書9-Kの時代には、臨時報告書8-Kの提出期限は報告すべき事象が発生した月の末日から10日以内というものだったが、現在では、事象の発生から4営業日以内にまで短縮されているといった事実を指摘している。SECは、この点を踏まえれば、四半期報告書の提出を取りやめる上場会社についても、四半期業績情報自体は、タイムリーに公表されると言いたいのであろう。
とはいえ、SECも規則改正案の中で認めている通り、規則改正を契機としてプレスリリースやアナリスト向けカンファレンス・コールでの四半期業績の公表そのものを取りやめる上場会社が出てくる可能性も否定できない。もっとも、その場合でも、社内での業績情報の集計自体を取りやめる可能性は低い。
社内で集計された四半期業績情報が公表されない場合、当該業績情報は、投資判断に重要な影響を及ぼす未公表の情報、すなわち当該情報を知った者が株式等を取引すれば違法なインサイダー取引を行ったことになるインサイダー情報ということになる。インサイダー情報が数か月にわたって社内に、いわば滞留することになれば、情報管理や当該情報に触れた関係者の取引監視などのコンプライアンス・コストがかえって増大することにはならないだろうか。こうした点まで考慮に入れれば、四半期開示から半期開示へ移行することが、本当に上場会社にとっての規制対応コストを引き下げることになるのかどうか疑問である。
IPOの活発化につながるのか?
しかし、IPO数の減少と同時に、いわゆるユニコーン企業の増加に象徴されるIPO企業の大型化が進んでおり、その要因として非上場株式の取引システムの活発化やベンチャーキャピタルの保有株式を買い取るセカンダリー・ファンドの増加などによる非上場株式流通市場の拡大等が指摘されていることも踏まえれば、半期報告書の提出という選択肢が認められることが、直ちにIPO意欲の向上につながるのかどうかは疑問である。
そもそもIPOからそれほど時間の経っていないベンチャー企業は、短期的な業績変動が大きく経営戦略も安定しない傾向が強いため、成熟企業よりも頻度の高い情報開示を期待されるという側面もあるのではないだろうか。実際、日本市場では、四半期情報開示が最初に制度化されたのは、東証の新興企業向け市場であったマザーズ市場であった。その後、取引所の制度としての適用対象企業の拡大を経て、2006年の法改正によって法定情報開示としての四半期報告書制度が設けられたのである(注8)。
おわりに
(注1)SEC, "Semiannual Reporting," Release Nos. 33-11414; 34-105368; 39-2563; IC-36140; File No. S7-2026-15
(注2)10-Kの表紙の「半期報告を行う」と記載された箇所にチェックを入れなかった上場会社は、四半期報告書を提出することを選択したものとみなされる。いわばデフォルト・ルールは、四半期報告書の提出であり、半期報告書は例外的な扱いということになる。
(注3)10-Qの提出期限は、上場時価総額7,500万ドル以上7億ドル未満の早期提出会社(accelerated filer)または上場時価総額7億ドル以上の大規模早期提出会社(large accelerated filer)は四半期終了から40日以内、その他の会社は45日以内とされている。なお、早期提出会社と大規模早期提出会社は、10-Qの提出期限は同じだが年次報告書10-Kの提出期限が異なる。早期提出会社は年度末から75日以内、大規模早期提出会社は年度末から60日以内が10-Kの提出期限である。また、直近年度の売上高が1億ドル未満の会社は、上場時価総額にかかわらず、早期提出会社または大規模早期提出会社とはならない。
(注4)当コラム「米国SECが四半期開示制度の見直しへ」(2025年10月3日)参照。
(注5)なお、中国では、上場会社が法律によって求められる定期的な情報開示は、年次報告(年度終了後4か月以内)と半期報告(半期終了後2か月以内)の二つとされている(証券法79条、上場会社情報開示弁法12条、13条)。しかし、取引所規則では第1四半期と第3四半期の業績情報開示が義務づけられており、実際上はすべての上場会社が、四半期除法開示を行っている。
(注6)前掲注4・コラム参照。
(注7)SEC, "Statement on Proposing Release for Semiannual Reporting," May 5, 2026
(注8)日本では2023年の金融商品取引法改正によって四半期報告書の提出義務が撤廃されたが、取引所規則に基づく四半期決算短信での四半期業績情報開示は引き続き行われている。
プロフィール
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大崎 貞和のポートレート 大崎 貞和
未来創発センター
1986年に野村総合研究所入社後、1987年以降、経済調査部資本市場研究室、資本市場研究部等で内外資本市場動向の調査研究に従事。 政府審議会委員等の公職を務めた経験を有し、現在は大学でも教育研究活動にも携わるほか、日本証券業協会の自主規制機関としての活動にも参画している。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。