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「IPOを再び偉大に」を目指す二つの規則改正案

2026年5月19日、米国の証券取引委員会(SEC)は、上場会社などSEC登録企業に適用される情報開示制度の見直しに関する二つの規則改正案を公表した。改正案の内容は、かなり技術的だが、5月5日に公表された四半期報告書の開示を選択制とする規則改正案(注1)と同様、ドナルド・トランプ大統領の指名を受けて2025年4月に就任したポール・アトキンス委員長が推進する、より多くの会社が株式を上場し、公開市場に居続けるようインセンティブを与えようとする「新規株式公開(IPO)を再び偉大に(Make IPOs Great Again)」政策の一環を成すものと位置付けられる。

S-3様式の利用適格要件の緩和

規則改正案の一つは、株式等の公募に際して開示を求められる発行開示書類のうち、日本の金融商品取引法(以下「金商法」)における有価証券届出書の参照方式に相当する S-3様式の利用適格要件の緩和を主軸とするものである(注2)。
 
S-3様式は、発行開示と継続開示を統合するために1982年のSEC規則改正で導入された。通常の登録届出書S-1様式(金商法の有価証券届出書に相当する)を利用する場合とは異なり、財務諸表等、発行者に関する情報の開示は、継続開示書類を参照すべき旨を記載することで足りるとする。資本市場で活発に取引が行われ、証券アナリスト等によって良く分析されており、発行者に関する情報が市場価格に反映していると考えられる場合には、新規発行に際して投資家は市場価格を信頼でき、改めて開示情報を分析する必要がないという考え方に基づいて導入された制度である(注3)。
 
現行の規則では、S-3 様式を使用して金額の制限なしに証券の公募を行う場合、発行者は、12ヵ月以上証券取引所法上の継続開示義務を履行していることや浮動株時価総額が7,500万ドル以上であること等の要件を満たす必要がある。
 
これに対して規則改正案は、継続開示義務の12ヵ月以上履行と浮動株時価総額7,500万ドル以上という発行者の適格要件を撤廃し、直近の継続開示書類が適正に開示されているすべての発行者に対して、S-3様式の利用を認めることを提案している。
 
S-3様式の利用が認められる発行者は、発行者に関する情報について参照方式を利用できるほか、投資家に対して交付すべき目論見書の記載内容が簡素化されるといったメリットがある。更に、S-3様式の利用が認められる発行者は、将来発行すべき証券について一括して登録届出書を提出する一括登録制度(shelf registration)の利用も認められる。
 
SECは、今回提案した規則改正が実現すれば、S-3様式と一括登録制度を利用できる発行者の数が60%増加し、情報開示に係る費用の節約と効率的で柔軟な資金調達というメリットを享受できることになるとする。

情報発信規制の柔軟化等

規則改正案では、2005年の情報開示制度改革で、登録届出前の情報発信に係る規制の緩和などの対象とされた適格著名発行者(well-known seasoned issuers: WKSIs)の定義規定を廃止することも提案されている(注4)。
 
現状では、証券公募時の柔軟な情報発信規制の対象となるWKSIsとされるためには、S-3様式の利用適格要件を満たした上で、浮動株時価総額7億ドル以上または公募負債証券(社債等)発行実績10億ドル以上という要件を満たす必要がある。規則改正案は、この要件をすべて撤廃し、目論見書規制に縛られない柔軟な情報発信など、現状ではWKSIsだけが享受しているメリットをS-3様式の利用適格要件を満たし、普通株を証券取引所に上場しているすべての発行者に拡大する。SECは、今回提案した規則改正が実現すれば、現在のWKSIsと同等の柔軟な規制の対象となる発行者の数は3倍以上になるとしている。
 
また、規則改正案では、連邦法上の証券公募に際して州ごとの登録届出が不要となる発行者の範囲が上場証券の発行者のみとされているのを改め、非上場証券の発行者も含むよう拡大することも提案されている。SECは、これにより、例えば非上場の事業開発会社(BDC: business development company)による証券公募などが円滑になるとしている。ちなみに、BDCは、中小企業への融資等を行うクローズド・エンド型の投資会社であり、近年、プライベート・クレジットに対する投資が活発化する中で、注目度を高めるとともに、伝統的な銀行システムに与える影響が一部で懸念されているファンドの形態である(注5)。
 
このほか、規則改正案では、基本的な登録届出書の様式S-1についても、既に証券取引所法上の継続開示書類を提出している場合に、その内容を参照することを可能とする発行者の範囲を拡大するといった見直しが提案されている。
 

開示義務者の区分見直し

今回公表されたもう一つのSEC規則改正案は、法定情報開示書類の提出者をめぐる区分を見直して簡素化することを主軸とするものである(注6)。
 
現状では、証券取引所法に基づく継続情報開示を求められる発行者をめぐって、次の5つの区分が設けられている。
  • 浮動株時価総額7億ドル以上の大規模早期提出会社(large accelerated filer)
  • 浮動株時価総額7,500万ドル以上7億ドル未満の早期提出会社(accelerated filer)
  • 浮動株時価総額7,500万ドル未満の非早期提出会社(non-accelerated filer)
  • 浮動株時価総額2億5,000万ドル未満または売上高1億ドル未満かつ浮動株時価総額7億ドル未満の小規模登録会社(smaller reporting companies)
  • 浮動株時価総額7億ドル未満かつ直近会計年度の売上高が12.35億ドル未満の新興成長企業(emerging growth company)

これらの区分は、制度創設の経緯から、①から③の区分には、主として継続開示書類の提出期限の違いが設けられており、④と⑤の区分は、主として内部統制報告書に監査証明を受けることを免除される範囲を画するといった狙いがある。しかしながら、その他の様々な規制上の取扱いの違いにも適用されるものとなり、発行者にとっても、投資家にとっても複雑で分かりにくい制度となっている。例えば売上高基準によって小規模登録会社とされる発行者は、浮動株時価総額にかかわらず早期提出会社とはされないなど、区分相互間の関係も複雑である。

そこでSECは、今回の規則改正案では、法定情報開示書類の提出者の区分を次のように簡素化し、適用される規制柔軟化の内容も整理することを提案している。

  • 継続開示を60ヵ月以上行っており、浮動株時価総額20億ドル以上の大規模早期提出会社(large accelerated filer)
  • 浮動株時価総額20億ドル未満または継続開示を60ヵ月未満しか行っていない非早期提出会社(non-accelerated filer)
  • 非早期提出会社であって直近2年度の総資産が3,500万ドル以下の小規模非早期提出会社(small non-accelerated filer)

規則改正案は、非早期提出会社に対しては、内部統制報告書に監査証明を受けることを求めないとする。また、非早期提出会社は、現在の小規模登録会社または新興成長企業と同様に、役員報酬をめぐる株主総会での投票範囲の縮減や継続開示書類に掲載する財務諸表の年数の短縮といった規制柔軟化措置の対象とされる。
 
継続開示書類の提出期限については、現状では、年次報告書様式10-Kは、大規模早期提出会社が年度末から60日以内、非早期提出会社が90日以内、四半期報告書様式10-Qは、大規模早期提出会社が40日以内、非早期提出会社が45日以内とされており、これらの変更は提案されていない。一方、新たに設けられる区分である小規模非早期提出会社については、10-Kの提出期限は120日以内、10-Qは50日以内とすることが提案されている。
 
SECによれば、新たな区分を現在の市場に当てはめれば、上場会社の19%(浮動株時価総額の93.5%)が大規模早期提出会社、上場会社の81%(浮動株時価総額の6.5%)が非早期提出会社に該当することになるという。また、上場会社の18%が小規模非早期提出会社に該当することになるという。

改正案の意義と展望

SECは、今回の規則改正提案は、投資家の保護をおろそかにすることなく、上場会社などSEC登録を受けている発行者の規制遵守に要するコスト負担を和らげ、株式の新規上場を積極化するインセンティブを与えるものだとしている。
 
確かに、例えば大規模早期提出会社の範囲を画する浮動株時価総額基準が7億ドルから一挙に20億ドルに引き上げられるといった変更点は、投資家保護の観点から疑問を生じさせかねない急激な規制緩和のようにも思えるが、上場企業の規模拡大を反映して市場全体の90%以上をカバーするものだと説明されれば、決して過激な規制緩和というわけではないようにも思える。
 
とはいえ、S-3様式の利用適格要件をほぼすべての継続開示会社にまで拡張する提案などは、従来のSECの考え方を根底から見直す大胆な政策転換である。前述のように、従来、S-3様式を利用できる発行者は、大規模な上場会社など、発行する証券が証券アナリストによって分析されていて、発行者に関する情報が市場価格に反映されていると考えられるものに限定されてきた。
 
SECは、こうした伝統的な考え方を大きく転換する理由として、継続開示書類が電子情報開示システムEDGAR(日本のEDINETに相当する)を通じて一般に公開されていることに加え、テクノロジーの進歩を背景に、ブロードバンドでのインターネット接続の普及率が79%、スマートフォンの普及率が91%となっているといった数字を挙げた上で、一般投資家が低コストでかつリアルタイムに継続開示書類にアクセスできる環境が確保されている今日では、証券アナリストによる分析が行われているかどうかといった観点からS-3様式の利用適格者を限定する必要はないと説明している。
 
このように、今回の規則改正案には、従来のSECの政策を大きく変える内容も含まれているだけに、提案通りに制度改革が円滑に進められるかどうかが注目される。また、SECは、情報開示規制の遵守コストが発行者を公開市場から遠ざけているという強い問題意識を抱いているが、新規株式公開(IPO)数の減少や非上場株式の取引活発化といった米国株式市場の構造的な変化の要因は、必ずしも上場に伴う情報開示のコスト負担だけではない。仮に提案通りの規則改正が行われたとしても、所期の効果が発揮されるのかどうか、今後の展開が注目される。

(注1)当コラム「四半期開示義務を撤廃する米国SECの規則改正案」(2026年5月8日)参照。

(注2)SEC, "Registered Offering Reform," Release Nos. 33-11418; 34-105513; IC-36160; File No. S7-2026-17

(注3)黒沼悦郎『金融商品取引法』【第2版】有斐閣(2020)101頁参照。

(注4)2005年の情報開示制度改革について詳しくは、大崎貞和「米国SECのディスクロージャー制度改革提案」資本市場クォータリー8巻3号26頁(2005)参照。

(注5)大久保友博ほか「米国ダイレクト・レンディング市場におけるBDC(Business Development Company)の動向について」日銀レビュー2026-J-1(2026)参照。

(注6)SEC, "Enhancement of Emerging Growth Company Accommodations and Simplification of Filer Status for Reporting Companies," Release Nos. 33-11419; 34-105515; File No. S7-2026-18

(注7)浮動株時価総額要件は、会計年度の第2四半期における過去10日間の平均株価で算定し、かつ2年連続で該当して初めて大規模早期提出会社とされる。

プロフィール

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    大崎 貞和

    未来創発センター

    

    1986年に野村総合研究所入社後、1987年以降、経済調査部資本市場研究室、資本市場研究部等で内外資本市場動向の調査研究に従事。 政府審議会委員等の公職を務めた経験を有し、現在は大学でも教育研究活動にも携わるほか、日本証券業協会の自主規制機関としての活動にも参画している。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。