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上昇するPTSの取引シェア

最近、上場株式の私設電子取引システム(PTS)を通じた売買が活発化している。PTSとは、金融商品取引所(証券取引所)と同じような売買注文付け合わせ機能を持ったシステムで、金融庁の認可を受けた第一種金融商品取引業者(証券会社)が運営する。
 
2026年6月のPTSにおける上場株式売買金額は過去最高の76.2兆円となり、上場株式売買全体に占める取引シェアも19.5%と過去最高を記録した(図表)。6月は、日経225平均株価が一時7万円台に達するなど株高が顕著であったことを考えれば、PTSにおける売買金額の増加は当然とも言える。しかし、同時にPTSの取引シェアも上昇していることは注目に値する。
 
図表 PTSにおける上場株式売買金額と取引シェアの推移


現在、日本で上場株式の売買を取り扱うPTSは、ジャパンネクスト証券株式会社のジャパンネクストPTS、Japan Alternative Market株式会社のJAXPTS、大阪デジタルエクスチェンジ株式会社のODX株式PTSの三つである。ジャパンネクストPTSとODX株式PTSは、SBI証券を傘下に置くSBIグループが主導して設立され、JAXPTSは楽天証券が主導して設立されたという経緯があり、いずれも個人投資家の株式取引で大きなシェアを占めるネット証券会社との関係が深い。 
 
上場株式の取引は、東京証券取引所(東証)の市場に集中する傾向が強いが、多くのネット証券会社は、顧客にとっての最良執行を確保しつつPTSへの注文回送も積極的に行っている。
 
最近、株価の上昇、NISAなど非課税投資制度の拡充、インフレの到来に伴う現預金保有のデメリットに対する認識の広まり等、様々な要因から国内の個人が株式投資に対する関心を強め、株式市場における個人投資家の存在感が大きくなっている。上場株式売買代金の90%以上を占める委託取引のうち、個人投資家の売買シェアは2020年には23%程度だったが、2026年6月には30%を超えた。
 

PTSの取引高規制

PTSは、金融システム改革(金融ビッグバン)に伴う1998年の法改正で開設が可能となった。その狙いは、証券取引所間または証券取引所とそれ以外の取引システムとの市場間競争を促すことで、日本の有価証券市場全体の機能を向上させようとするものであった(注1)。最近の上場株式取引におけるPTSの取引シェア上昇は、東証とPTSとの市場間競争が活発化し、PTS制度が所期の狙い通りに機能していることを示すものと受け止められるが、同時に、法規制上の大きな課題にもつながっている。

現行法令上、PTSについては、①取引所市場と同じ価格決定方法である競売買の方法を用いる場合には、取引高が上場株式全体の一日平均取引高の1%未満、個別銘柄の取引高の10%未満という基準を上回った場合、②競売買の方法以外の価格決定方法を用いる場合には、取引高が上場株式全体の一日平均取引高の10%超、個別銘柄の取引高の20%超となった場合には、金融商品市場開設の免許の取得を行うこと、すなわち取引所化が求められることとされているのである(金融商品取引法施行令施行令1条の10、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針IV-4-2-1③)。三つのPTSは、いずれも価格決定方法として競売買ではなく顧客注文対当方式を採用しているが、取引高の増加に伴い、②の要件への抵触が現実の課題となるPTSが現れたのである。
 
取引シェアが高く、取引所市場と同じように公益性の高い株式流通の場として機能するようになったPTSに対して、取引所化を求める規制自体は不合理なものとは言えない。米国にも日本のPTSと同様に、規制上は証券ブローカー・ディーラー(証券会社)として位置づけられながら取引所市場と同じような売買注文マッチング機能を担う代替取引システム(Alternative Trading System:ATS)が存在する。日本のように、一定の取引高以上となったATSに対して直ちに取引所化を求めるルールはないが、一定の取引高以上になると、自市場の取引参加者以外の者による注文回送を認めることを求められるなど、取引所市場と同等の規制を課す仕組みがとられている。
 
こうした規制のあり方を前提としながら、米国では取引所化したATSも少なくない(注2)。しかし、日本では、取引所に対する大口出資規制(20%)が存在することや非上場取引特権(Unlisted Trading Privilege:UTP)が存在しないことから、既存のPTSが取引高要件に抵触するようになったことで、すぐに取引所化することは決して現実的とは言えないのである。とりわけ後者の問題は深刻である。

UTPとは

UTPとは、1934年証券取引所法上の登録を受けた取引所に対して、他の登録取引所に上場している株式等を自市場への上場手続きを経ないで取引することを認める制度である。これに対してUTPの存在しない日本では、取引所の市場で取引できる株式等は、自市場に上場している銘柄に限られ、かつ上場に際しては、株式等の発行会社による上場申請とそれを受けた取引所による上場審査手続きが必要だと考えられる。
 
現状では、PTSは原則としてすべての上場銘柄の取引を取り扱っているが、取引所化を求められた場合、すべての上場会社が上場を申請してくれない限り、現状よりも少ない銘柄の取引しか取り扱えなくなるという問題に直面する可能性が高いのである(注3)。
 
制度としてのUTPは、1934年法の制定前から取引所の市場で正規の上場手続きを経ない株式等の取引が行われていたことに由来するとされ、取引所市場で取引される証券は取引所に上場されなければならないとする原則規定の例外として、法律の制定時から認められていた(1934年法12条(f))。
 
当初、UTPに基づいて自市場に上場されていない株式等を取引しようとする取引所は、証券取引委員会(SEC)に対して承認申請を行うという仕組みがとられていた。しかし、既に他の証券取引所に上場されている株式等については、発行者はSECの登録を受けて日本の有価証券報告書にあたる年次報告書などの法定情報開示を行っており、上場審査を行っていない取引所の市場で取引されたとしても投資者保護上大きな問題が生じるとは思えない。そこでUTPに関する取引所による申請とSECによる承認という手続きは実質性を欠いたものとなり、いわば自動的に承認がなされるようになっていった(注4)。
 
そこで1994年に議会が制定した「UTP法」によって1934年法が改正され、新規株式公開(IPO)時に待機期間を設けることを例外として、原則として取引所は、他の取引所に上場している株式等をSECによる承認を待つことなく、直ちに自市場で取引できることになったのである(注5)。
 
UTP法が制定されることとなった背景として、SECによる承認手続きが形骸化していたという事情があったことは確かだが、当時からUTPが対象銘柄の株価や流動性に好ましい影響を及ぼすという研究結果が存在したことを指摘しておきたい。当時の中心的な取引所であったニューヨーク証券取引所とアメリカン証券取引所に上場されていた銘柄でUTPに基づいて地方取引所での取引が始められた銘柄に関する実証研究では、SECへのUTP申請時から当該銘柄に超過リターンが発生し、UTPによる取引が流動性の向上につながったとされるのである(注6)。

UTP導入は喫緊の課題

日本の株式市場では、2013年の東証と大阪証券取引所(当時)の統合による日本取引所グループ(JPX)の発足以降、現物株式の取引が東証市場にほぼ集中する状況が続いてきた。そうした中で、PTSの取引シェア上昇は、市場間競争が活発化していることを示すものとして、基本的には肯定的に評価することができよう。
 
現行制度のままPTSに取引所化を強いれば、取引所化するPTSが直ちに十分な数の上場会社を獲得することは極めて困難であり、少なくとも一定の期間は、実質的に取引機能を停止せざるを得ない状況に追い込まれてしまう。他方、そうした状況に陥ることを回避するために、PTSが売買高を意図的に減らすような対応を講じるのであれば、市場間競争の後退につながる。UTPの導入は喫緊の課題である。
 
UTPが制度化されれば、現在のPTSが取引所化して設立される取引所の市場だけではなく、既存の札幌、名古屋、福岡の三つの取引所の市場でも東証上場銘柄の非上場取引が可能になる。これらの取引所がどのような取引システムを採用するかにもよるが、これまで日本市場ではそれほど顕著でなかった同じ銘柄の注文獲得をめぐる市場間競争が本格的に展開されるきっかけとなる可能性がある。
 
UTPをめぐっては、上場審査や上場会社監理を手掛けない取引所による、いわばただ乗りを認めることになるといった批判もあるかも知れない。しかし、それは端的に言って誤解に基づく批判である。
 
東証を初めとする主上場先となる取引所は、上場審査に少なからぬコストを投じる一方で、上場会社から上場審査料と年間上場料から成る上場手数料を徴収している。JPXグループの収益構成を見ると、近年の株高に伴う売買高の著増で取引手数料や清算関連収益の占める割合が高まっているものの、2025年度の上場関連収益は186.8億円で収益合計の9.4%を占めた。東証にとって、上場審査や上場会社監理の負担は、重要な収益源である上場手数料獲得のために不可欠なコスト負担なのである。一方、UTPに基づいて行われる取引は、あくまで非上場取引であり、上場手数料の徴収は想定されない。
2026年7月21日に公表された政府の「成長投資を促進するための金融戦略 -資産運用立国のアップグレード-」には、「私設取引システム(PTS)での取引が増加するなど取引の場の多様化が進展している状況を踏まえ、我が国株式市場構造の在り方について2026年度中に検討を開始する。」と明記されている。UTPの導入を含む市場制度の見直しに向けた検討が本格的に進むことが期待される。
 
最後に今後の検討にあたって留意すべき点を二つ指摘しておきたい。
 
第一に、現在のPTSは、いずれも特定のネット証券会社との関係が深い。この点をめぐっては、2025年8月に米国の3大株式取引所グループの一角を占めるCboe(シーボー)の日本法人であったCboeジャパンがPTS業務を終了したことで、日本のPTSは多数の証券会社の注文を付け合わせるマルチな取引の場というよりも自社注文の内部化(internalization)を行う場となっているとの指摘がある。その結果、マルチな取引の場である東証とPTSとの競争は、いわば「異種格闘技」と呼ぶべきものになっているという(注7)。こうした市場間競争の実態を踏まえつつ、望ましい市場構造のあり方とそこへ向かうために必要な制度設計を進める必要がある。
 
第二に、最近の米国における動きをどう見るかである。米国SECは、2026年6月、株式市場構造に係る規制を定めた規則レギュレーションNMSの改正案を公表した。そこでは、UTPが存在することで、取引所化しさえすれば直ちに全上場銘柄の取引を行い、一定の注文量を獲得できる仕組みとなっているために取引所数が増加して乱立状態になっているという認識が示されている(注8)。こうした米国における議論は注目に値するが、そこで問題視されている実態は、市場間競争が実質的に存在しなかった状況からようやく脱却しつつある日本の実情とはかけ離れているという認識を持ちながら、日本市場のあるべき姿を描くことが重要である。

(注1)PTS制度の意義やこれまでの経緯について詳しくは、大崎貞和「PTS(私設取引システム)の規制」神田秀樹責任編集・資本市場研究会編『企業法制の将来展望-資本市場制度改革への提言2021年度版』財経詳報社(2020)163頁、飯田秀総「PTS規制のあり方の序論的考察」松井秀征・田中亘・加藤貴仁・後藤元編『商法学の再構築-岩原紳作先生・山下友信先生・神田秀樹先生古稀記念』有斐閣(2023)557頁参照。

(注2)NYSEアーカ取引所及びCboeグループ傘下の4取引所は、いずれもかつてはATSだった。

(注3)本文で「問題に直面する」ではなく「問題に直面する可能性が高い」と述べたのは、仮に「東証上場銘柄については、当取引所の判断で、発行会社による申請を経ることなく上場を認めることができる。」といった内容の上場規則が当局によって認可されるのであれば、本文で触れたような問題は生じないことになるからである。もっとも、そのような上場規則が容認される可能性は高くないだろう。

(注4)UTPに基づく申請の不承認は1939年以降1件もない一方で、承認申請は1993年には年間1,600件に上ったという。 See L. Loss, J. Seligman & T. Paredes, Fundamentals of Securities Regulation, 6th edition (2011), p.1057.

(注5)IPO銘柄については、SEC規則12f-2で1日の待機期間が設けられたが、2000年の規則改正で待機期間は撤廃された。

(注6)See W. A. Khan and H. Kent Baker, Unlisted Trading Privileges, Liquidity, and Stock Returns, Journal of Financial Research, vol. 16, issue 3, pp. 221-236 (1993).

(注7)森本学「Cboeジャパン撤退の意味‐日本の株式市場の構造変化」日本証券経済研究所トピックス(内外市場動向の調査分析)(2025年11月)。

(注8)当コラム「米国SECがトレードスルー禁止規制の廃止を提案」(2026年6月15日)参照。

プロフィール

  • 大崎 貞和のポートレート

    大崎 貞和

    未来創発センター

    

    1986年に野村総合研究所入社後、1987年以降、経済調査部資本市場研究室、資本市場研究部等で内外資本市場動向の調査研究に従事。 政府審議会委員等の公職を務めた経験を有し、現在は大学でも教育研究活動にも携わるほか、日本証券業協会の自主規制機関としての活動にも参画している。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。