規則14a-8の廃止提案
2026年9月16日、米国の証券取引委員会(SEC)は、上場会社などSEC登録証券の発行者の株主による株主提案の取扱いを定めた規則14a-8を廃止することを主軸とする規則改正を提案した(注1)。規則14a-8は、上場会社等が作成して株主に送付する委任状説明書(proxy statement)への掲載を拒否できる株主提案の内容を定めており、提案通りの改正が行われれば、米国企業に対する株主提案の取扱いをめぐる実務が大きく変化することとなる。
規則14a-8とは
上場会社による書面投票制度の採用が義務づけられている日本とは異なり、米国の上場会社等(ミューチュアルファンド等の投資会社(会社型投資信託)や事業開発会社(BDC)を含む)は、株主総会の招集の都度、会社が提案する議案の内容を記載した委任状説明書を株主に送付して会社提案に賛成する趣旨の委任状書面の提出を促す委任状勧誘を行っている。委任状勧誘の方法は、1934年証券取引所法14条(a)項の規定とそれを受けてSECが制定したレギュレーション14Aと総称される一連の規則(規則14a-1~14b-2)によって規制されている。
一連の規則のうち規則14a-8は、「時価2,000ドル以上の議決権株式を3年以上継続して保有」等の資格要件を満たす株主から提出された株主提案の内容を上場会社等が作成して株主に送付する委任状説明書に掲載することを義務づけている。ただし、次のいずれかに該当するような提案については、上場会社等は自らが作成・送付する委任状説明書への掲載を拒否することができるものとされる(規則14a-8(i)(1)~(13))。
一連の規則のうち規則14a-8は、「時価2,000ドル以上の議決権株式を3年以上継続して保有」等の資格要件を満たす株主から提出された株主提案の内容を上場会社等が作成して株主に送付する委任状説明書に掲載することを義務づけている。ただし、次のいずれかに該当するような提案については、上場会社等は自らが作成・送付する委任状説明書への掲載を拒否することができるものとされる(規則14a-8(i)(1)~(13))。
- 州法上不適切な内容の提案
- 違法な行為を行わせることとなる提案
- 委任状勧誘規制に違反する内容の提案
- 私的な要求や特殊な利益に関する提案
- 会社の総資産の5%未満に関連する経営意思決定に関するものなど重要性を欠く提案
- 会社の権限外の行為に関する提案
- 会社の日常的な業務運営に関する提案
- 特定の者の取締役への選任や任期途中での解任に関する提案
- 会社の提出議案と直接的に対抗する提案
- 既に会社によって実質的に実施されている内容の提案
- 会社が作成する委任状書面に掲載される他の株主提案と重複する内容の提案
- 過去5年以内に提案され、過去3年以内の株主総会において一定以上の株主の支持を得られなかった提案の再提案
- 現金または株式による配当の額に関する提案
会社側委任状説明書への掲載の意義
上場会社等が作成・送付する委任状説明書への掲載を拒否されたとしても、それだけで株主提案自体が無効になるといったことはない。しかし、会社側の委任状説明書に掲載されていない株主提案について、多くの株主の賛同を求めようとするのであれば、株主が自ら費用を負担して独自の委任状説明書を作成し、株主に送付して自身に議決権行使を委任する委任状書面を提出するよう求める委任状勧誘を行わなければならない。
そうした株主による会社側に対抗するような委任状勧誘は、会社支配権をめぐって経営陣と一部株主が深刻な対立に陥っている場合の取締役選任議案などでは過去に実例があり、委任状合戦(proxy fight)と呼ばれている。しかし、会社支配権の争奪戦にまでは至らない場合、株主提案を行う株主は、多額の費用を要する委任状合戦にまで踏み込むことには消極的であり、自らの提案が会社側の委任状説明書に掲載されることを望むのである。
規則14a-8が規定する会社側委任状説明書への掲載拒否事由には幅広い解釈の余地がある。SECは、過去複数回にわたって許容される掲載拒否の具体的なケースを明らかにするために、スタッフの見解を提示してきた。例えば、2025年2月に公表されたSECスタッフの法律意見書14M(CF)では、いわゆるESGの観点からの株主提案等が上の⑤の『重要性を欠く経営意思決定に関する提案』に該当するとして会社側委任状説明書への掲載を拒否できるかどうかが論じられた。この点について同意見書では、抽象的なレベルでは重要性の高い幅広い社会的または倫理的な問題に関する提案であっても、個々の会社の事業に影響するものかどうかを個別に判断すべきという解釈が示された(注2)。
そうした株主による会社側に対抗するような委任状勧誘は、会社支配権をめぐって経営陣と一部株主が深刻な対立に陥っている場合の取締役選任議案などでは過去に実例があり、委任状合戦(proxy fight)と呼ばれている。しかし、会社支配権の争奪戦にまでは至らない場合、株主提案を行う株主は、多額の費用を要する委任状合戦にまで踏み込むことには消極的であり、自らの提案が会社側の委任状説明書に掲載されることを望むのである。
規則14a-8が規定する会社側委任状説明書への掲載拒否事由には幅広い解釈の余地がある。SECは、過去複数回にわたって許容される掲載拒否の具体的なケースを明らかにするために、スタッフの見解を提示してきた。例えば、2025年2月に公表されたSECスタッフの法律意見書14M(CF)では、いわゆるESGの観点からの株主提案等が上の⑤の『重要性を欠く経営意思決定に関する提案』に該当するとして会社側委任状説明書への掲載を拒否できるかどうかが論じられた。この点について同意見書では、抽象的なレベルでは重要性の高い幅広い社会的または倫理的な問題に関する提案であっても、個々の会社の事業に影響するものかどうかを個別に判断すべきという解釈が示された(注2)。
揺れ動いてきた規則14a-8の運用
もっとも、規則14a-8の適用をめぐるSECの姿勢は、近年、時の政権の考え方を反映して大きく揺れ動いている。例えば、民主党のバイデン政権下の2022年7月、SECは、上の⑩や⑪他の株主提案と重複する内容の提案、⑫過去の株主総会で一定以上の株主の支持を得られなかった提案の再提案、への該当性について、会社側による掲載拒否が可能な範囲を狭める方向での規則改正を提案した(注3)。ところがこの改正案は、共和党の第二期トランプ政権発足後の2025年6月、採択に至らないまま撤回されたのである(注4)。
また、前述の法律意見書14M(CF)は、第二期トランプ政権発足後に公表されたものだが、その内容は、バイデン前政権下で公表され、ESGの観点からの株主提案の掲載を拒否することのハードルを引き上げたものと受け止められていた2021年3月の法律意見書が示した解釈を全面的に否定するものだったのである(注5)。
また、前述の法律意見書14M(CF)は、第二期トランプ政権発足後に公表されたものだが、その内容は、バイデン前政権下で公表され、ESGの観点からの株主提案の掲載を拒否することのハードルを引き上げたものと受け止められていた2021年3月の法律意見書が示した解釈を全面的に否定するものだったのである(注5)。
規則14a-8は州権を侵害?
今回SECが規則14a-8を廃止するという方針を示したことは、会社側の委任状説明書への株主提案掲載拒否のハードルを上げたり下げたりするといった従来の対応から大きく離れ、SECによる株主提案の内容に対する審査そのものを放棄しようとする歴史的な政策転換である。
SECは、その理由について、SECが株主提案の内容に踏み込んだ審査を行うという規則14a-8の趣旨は、連邦法上SECに与えられた権限を逸脱し、州権を侵害するものだからだと説明している。そもそも1934年証券取引所法14条(a)項は、SECに対して州境を越えて行われる委任状勧誘という行為に関して、どのような事項が株主に対して開示されるべきかといった観点からの規制を行える権限を与えてはいるが、どのような議案が株主総会における審議の対象として容認されるのかという問題は各州の会社法に基づいて決められるべきものであり、SECによる規制対象ではないというのである。
なお、SECは、今回の規則改正提案に先立って、2025年11月には、当時の連邦政府機関の一時閉鎖による業務ひっ迫を理由として、州法上不適切であることを理由とする場合を除いて規則14a-8に基づいて申請されたノー・アクション・レター発給要請に対応しないことを明らかにしていた。また、2026年8月には、州法上不適切であることを理由とする場合を含め、ノー・アクション・レターを発給しないという方針を明らかにしていた。
もっとも、SECが会社側の要請に応じたノー・アクション・レターの発給を取りやめたとはいえ、規則14a-8が有効な規則として存在する限り、上場会社等が会社側委任状説明書への株主提案の掲載を拒否しようとする場合にはSECに対して届出を行わなければならず、仮にSECが掲載拒否を規則14a-8が認める範囲を逸脱するものだと判断した場合には、規則違反としてエンフォースメントの対象となることを想定しなければならないということになる。
SECは、その理由について、SECが株主提案の内容に踏み込んだ審査を行うという規則14a-8の趣旨は、連邦法上SECに与えられた権限を逸脱し、州権を侵害するものだからだと説明している。そもそも1934年証券取引所法14条(a)項は、SECに対して州境を越えて行われる委任状勧誘という行為に関して、どのような事項が株主に対して開示されるべきかといった観点からの規制を行える権限を与えてはいるが、どのような議案が株主総会における審議の対象として容認されるのかという問題は各州の会社法に基づいて決められるべきものであり、SECによる規制対象ではないというのである。
なお、SECは、今回の規則改正提案に先立って、2025年11月には、当時の連邦政府機関の一時閉鎖による業務ひっ迫を理由として、州法上不適切であることを理由とする場合を除いて規則14a-8に基づいて申請されたノー・アクション・レター発給要請に対応しないことを明らかにしていた。また、2026年8月には、州法上不適切であることを理由とする場合を含め、ノー・アクション・レターを発給しないという方針を明らかにしていた。
もっとも、SECが会社側の要請に応じたノー・アクション・レターの発給を取りやめたとはいえ、規則14a-8が有効な規則として存在する限り、上場会社等が会社側委任状説明書への株主提案の掲載を拒否しようとする場合にはSECに対して届出を行わなければならず、仮にSECが掲載拒否を規則14a-8が認める範囲を逸脱するものだと判断した場合には、規則違反としてエンフォースメントの対象となることを想定しなければならないということになる。
株主提案の取扱いをめぐる規制の歴史
規則14a-8の淵源は、1942年に制定された規則X-14A-7にまで遡る。もっとも当該規則は、経営者に対して「証券保有者(株主)による行為の正当な対象となる」株主提案を会社側委任状説明書に掲載することを義務づけるものに過ぎなかった。つまり、SECはどのような議案が株主による議決権行使の「正当な対象となる」のかを規則で示すようなことはしなかったのである。
その後、数次の規則改正や上場会社等の問い合わせに対するSECスタッフの回答等を通じて、会社側が委任状説明書への掲載を拒否できる株主提案がどのようなものであるかが、次第に明らかにされていった。例えば、1954年の規則改正では、「会社の日常的な業務運営に関する提案」の掲載を拒否できるものとされた。ちなみに、SECは、この1954年の規則改正で、「正当な対象となる」提案の掲載を義務づけるという規則の形式が、正当な対象とは言えない提案の掲載を拒否できるという形に変化したという認識を示している。また、現行の13項目にわたる掲載拒否事由が確立したのは、1976年の規則改正による。
その後、数次の規則改正や上場会社等の問い合わせに対するSECスタッフの回答等を通じて、会社側が委任状説明書への掲載を拒否できる株主提案がどのようなものであるかが、次第に明らかにされていった。例えば、1954年の規則改正では、「会社の日常的な業務運営に関する提案」の掲載を拒否できるものとされた。ちなみに、SECは、この1954年の規則改正で、「正当な対象となる」提案の掲載を義務づけるという規則の形式が、正当な対象とは言えない提案の掲載を拒否できるという形に変化したという認識を示している。また、現行の13項目にわたる掲載拒否事由が確立したのは、1976年の規則改正による。
規則改正の見通しと影響
短く見ても1976年以来50年にわたって上場会社等の実務として定着してきた株主提案の取扱いを大きく変える今回の規則改正案に対しては、パブリック・コメント募集の過程で様々な意見が寄せられるものと思われ、最終的に規則14a-8が廃止されるかどうかを見通すことは現時点では難しい。
仮にSECの提案通り、規則14a-8が廃止された場合、株主提案の取扱いをめぐる実務はどうなるのだろうか。上場会社等は、自社の登記上の所在地である州の会社法や自社の定款の内容に照らして個別の株主提案を会社側の委任状説明書に掲載するかどうかを判断することとなろう。不当な掲載拒否に対するSECのエンフォースメントという道筋が想定されなくなる以上、自らの提案の掲載を拒否された株主は、各州法で認められる救済手段に訴えるということになるだろう。規則14a-8の文言にも曖昧さが残るとされてきたわけだが、そうした指針すらない状態ということになれば、どちらかと言えば、会社側が株主提案の委任状説明書への掲載を拒否しやすい環境が生まれるものと予想されるだろう。
なお、SECは、今回の規則14a-8の廃止という提案に合わせて、委任状勧誘に際する年次報告書交付義務の廃止や委任状勧誘プロセスの電子化などに係る規則改正も提案しているが、本稿ではそれらの詳細については割愛することとしたい。
仮にSECの提案通り、規則14a-8が廃止された場合、株主提案の取扱いをめぐる実務はどうなるのだろうか。上場会社等は、自社の登記上の所在地である州の会社法や自社の定款の内容に照らして個別の株主提案を会社側の委任状説明書に掲載するかどうかを判断することとなろう。不当な掲載拒否に対するSECのエンフォースメントという道筋が想定されなくなる以上、自らの提案の掲載を拒否された株主は、各州法で認められる救済手段に訴えるということになるだろう。規則14a-8の文言にも曖昧さが残るとされてきたわけだが、そうした指針すらない状態ということになれば、どちらかと言えば、会社側が株主提案の委任状説明書への掲載を拒否しやすい環境が生まれるものと予想されるだろう。
なお、SECは、今回の規則14a-8の廃止という提案に合わせて、委任状勧誘に際する年次報告書交付義務の廃止や委任状勧誘プロセスの電子化などに係る規則改正も提案しているが、本稿ではそれらの詳細については割愛することとしたい。
(注2)SEC, "Shareholder Proposals: Staff Legal Bulletin No. 14M (CF)," February 12, 2025
(注5)当コラム「第二期トランプ政権で逆風が吹き始めた米国のESG投資」(2025年2月25日)参照
プロフィール
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大崎 貞和のポートレート 大崎 貞和
未来創発センター
1986年に野村総合研究所入社後、1987年以降、経済調査部資本市場研究室、資本市場研究部等で内外資本市場動向の調査研究に従事。 政府審議会委員等の公職を務めた経験を有し、現在は大学でも教育研究活動にも携わるほか、日本証券業協会の自主規制機関としての活動にも参画している。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。