株式会社野村総合研究所では、2003年より毎年、売上高上位の国内企業約3000社を対象に「ユーザ企業のIT活用実態調査」を実施しています。この連載では、最新の調査から、いくつかの設問をピックアップして集計結果をご紹介します。日本企業のIT活用動向を知るとともに、自社のデジタル化および情報化の戦略を考える一助としてご活用ください。
生成AIの活用が本格化し、政府が「AI事業者ガイドライン」を制定するなど、企業価値や生産性の向上にAIを適用することに関心が高まっています。一方、具体的に活用を推進する上で、リスク管理や技術的な課題など複数の壁に直面する企業も多いでしょう。
調査では、自社で生成AIを活用し、効果を得る上で解決すべきと考える課題を複数選択式で尋ねています。その結果、最も多くの企業が選択したのは「リテラシーやスキルが不足している」で64.6%でした。生成AIについての基本知識が不足している事に対し、多くの企業が課題感を持っている事が分かります(図1)。
生成AI活用に関わる課題は、生成AI技術の導入が進む事で解決するものもあれば、より具体的に表れてくるものもあるなど、取り組み状況により異なると考えられます。そこで、生成AIを導入済みの企業(以下、導入企業)と、未導入の企業(以下、未導入企業)に分け、先ほどの課題認識に関する回答割合を比較したところ、図2のような結果が得られました。
未導入企業に比べて導入企業で認識の割合が低いものとして、「自社が活用する具体的なメリット、効果が分からない」という課題が挙げられます。これについては、未導入企業では課題として挙げた割合が47.1%であったのに対し、導入企業では17.3%と、約30ポイント低い割合でした。生成AIを既に導入している企業では、実際の活用を通じて具体的な使用場面や効果を実感できており、活用イメージが明確になっていると見受けられます。生成AIの導入初期においては、まず実際に試してみることから始め、その過程で自社に適した活用ユースケースを探索しながら、具体的な効果やメリットを実感していくことが重要なアクションであると言えるでしょう。
一方で、未導入企業に比べて導入企業で認識の割合が高いものとして、「自社のデータを活用したいが、データの質や量が伴わない」「活用が個別に進むことで、システムや基盤が乱立する恐れがある」という課題が挙げられます。これらについては、課題として挙げた割合が未導入企業では25.6%、16.7%だったのに対し、導入企業では40.0%、30.0%と、約15ポイント高い割合でした(図2)。
利用するデータの品質やシステム乱立への懸念など、生成AI活用の環境整備に関する課題は、既に導入している企業でより強く認識されています。これらは、生成AIの活用が進む先でより表面化してくる課題と捉えることができます。
筆者が実際に生成AIの活用支援に携わってきた経験を踏まえると、活用の実績作りを優先して、準備が不十分なままプロジェクトをスタートしてしまった結果、データの品質管理やガバナンス整備が後手に回り、より踏み込んだ活用を進める上で壁に直面するケースが多いと言えます。
生成AI活用を進めていく際には、常にデータを最新化し鮮度を保つ事や、社内のデータ形式や定義を統一し一貫性のあるデータ管理を実現するといった、データの品質を確保する取り組みが求められます。また、活用する生成AI技術や開発基盤等のリソースを集約して検討・管理するといった生成AIガバナンスの整備が重要だと考えられます。
図1 生成AIの活用に関わる課題
図2 生成AIの導入・未導入企業における生成AI活用の課題
- 注)導入企業:生成AI(GPTなどの大規模言語モデルや画像生成技術など)を導入しているかどうかという質問に対し、「導入済み(または導入推進中)」と回答した企業
未導入企業:生成AI(GPTなどの大規模言語モデルや画像生成技術など)を導入しているかどうかという質問に対し、「導入を検討中」、「今後検討したい」、もしくは「導入・検討予定はない」と答えた企業
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