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野村総合研究所と
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はじめに

自動車整備は、故障の早期発見・修理を通じて事故を未然に防ぐことによって、社会の安全を支える重要な役割を担っています。

しかし近年、自動車整備業界では、人口減少や若年層のクルマ離れなどの影響により、整備士不足が深刻化しています。さらに、車両の高度化により、点検・修理箇所が増えたり、新たな技術の習得が必要になり、整備士の負担はますます増加しています。

本ブログでは、自動車整備市場及び整備士不足の現状を解説します。そして、下記よりダウンロード可能な「自動車業界レポート2025 自動車整備業界における整備士不足問題と解決の方向性」では、整備士への独自アンケート調査により整備士不足の要因を分析し、自動車整備の持続的発展に向けた提言を行っています。

自動車整備市場の現状

自動車整備市場は長期にわたって安定しており、市場規模は2023年時点で約5.9兆円に達しています。作業内容別では、車検整備が2.5兆円と最も多く、定期点検整備(0.4兆円)を加えると、法律で義務づけられている整備需要が、2.9兆円と市場規模の約半分を占めています。このような確実な需要が自動車整備市場を下支えしているといえます。

 

また、日本国内における自動車保有台数は増加傾向にあり、乗用車の平均使用年数は2000年の10.0年から2024年には13.3年へと伸びています。この2つの傾向は、今後の整備需要の継続を示唆しています。

 

深刻化する整備士不足の実態

このように安定した需要のある自動車整備業界は、現在深刻な整備士不足に直面しています。
2023年度の自動車整備士の有効求人倍率は5.28倍と、求職者1人に対して5.28件の求人がある状況です。他業界の有効求人倍率(2023年)を見てみると、介護サービス職業従事者は3.9倍、接客・給仕職業従事者は2.9倍、自動車運転従事者は2.6倍となっており、人材不足が問題となっている他業界と比較しても、自動車整備業界の人手不足が深刻な状態にあることがわかります。
整備士不足の背景には、「整備士を目指す人の減少」と「他業種への人材の流出」の2つの問題が存在しています。整備士を目指す人の多くが入学する自動車専門学校への入学者数は2014年の9,193人から2023年には6,840人へと、9年間で25.6%も減少しました。この減少傾向は、業界の将来的な人材確保に大きな影を落としています。次に、整備士資格保有者の就業動向を見てみると、一級、二級、三級の整備士資格保有者総数88万人のうち、実際に整備士として働いているのはわずか27万人に留まっています。つまり、有資格者の約7割が他業種に流出している状況です。

車両の高度化に伴う業務負担の増加

整備士不足に加えて、整備業務の負担増加も問題となっています。
近年では、EV(電気自動車)や自動運転/運転支援機能を備えた車両の普及により、新たな点検項目や修理箇所が増え、整備士の業務負担は増加しています。例えば、EVの普及に伴い、2019年10月より対地電圧が50Vを超える蓄電池を持つ電気自動車やハイブリッド自動車の整備では、特別教育の受講が義務付けられました。また、2020年4月からは特定整備制度が施行され、従来の「分解整備」に加えて「電子制御装置整備」が追加されています。
このように、従来型のガソリン車から先進技術を搭載した車両まで、整備士に求められる知識と技能の幅は徐々に広がっており、現場の負担を増加させる要因となっています。

さいごに

このような整備士不足の状況が改善されなければ、今後、消費者ニーズに応えるための適切な整備を行うことができず、消費者の満足度低下や自動車産業に対する信頼低下、さらには自動車の安全性の確保が難しくなる可能性があります。

NRIでは、現場の生の声を把握し整備士不足問題の解決の糸口を探るため、整備士を対象とした独自のアンケート調査を実施しました。 調査結果からは、様々な実態が明らかになっています。調査結果と分析、具体的な解決策については、下記よりダウンロード可能な「自動車業界レポート2025 自動車整備業界における整備士不足問題と解決の方向性」をご参照ください。

プロフィール

  • 橋本 実奈のポートレート

    橋本 実奈

    TMXコンサルティング部

    2022年NRIに入社。自動車業界のITマネジメント支援、システム企画構想支援などのコンサルティング業務に従事。

  • 木下 湧矢のポートレート

    木下 湧矢

    TMXコンサルティング部

    2020年にNRIに入社。入社以来、製造業のデータ連携基盤の構想と効果検証、およびITマネジメント領域の支援業務に従事。現在は主にデジタル・IT戦略の構想支援に取り組む。

  • 上野 哲志のポートレート

    上野 哲志

    システムコンサルティング事業本部 統括部長
    兼 TMXコンサルティング部長

    

    1997年、野村総合研究所に入社。
    テクニカルエンジニアとしてSIフレームワークの企画・設計・開発および大規模プロジェクトへの導入に携わったのち、本社人事業務を経て、2007年よりよりITアーキテクトとして、IT戦略、システム化構想などのコンサルティング業務に従事。2015年からコネクティッド分野を軸にモビリティ産業分野に対するシステムコンサルティングを専門に活動中。
    NRI認定ビジネスアナリスト。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。