なお、本実験開始前の2023年8月に、全国の10代から60代の男女個人3,981名に対して、金融サービスにおけるメタバースの活用をテーマとしたインターネット調査（以下「事前アンケート調査」、【ご参考】を参照）を実施し、その結果を実験の企画等に活用しました。

取り組みの背景

メタバースの国内市場は、2022年度の8千億円規模から、2028年度には4兆円規模にまで拡大する見込みです²。ガートナーが毎年発表している「ハイプ・サイクル」では、メタバースはいま「『過度な期待』のピーク期」を越えた「幻滅期」にあり、今後数年をかけて広まっていくとされています³。
NRIと第一生命では、メタバースの利用がこれまでのような「世間の注目を集める」段階から、「実際のビジネスにおける活用と展開を追求する」段階へと移行しつつあると捉えています。それに向けて、メタバース空間での体験が、個人のライフデザインに対する意識の変化に影響を与え、保険会社への相談意向の向上につながるかどうかを、本実験で検証したいと考えました。

事前アンケート調査から得られた示唆

実証実験に先んじて行った事前アンケート調査から、以下の結果が得られました。メタバース利用者は相談意向が高い一方で、相談のための面談に至っているケースは少ないことが分かりました。つまり、メタバースを利用し（またはメタバースを利用する意向が高く）、現在保険未加入である層は、メタバースを通じて保険会社が新たに接点を創出できる可能性がある層（以下「潜在顧客層」）であると考えました。

本実験の概要

第一生命とNRIは、潜在顧客層への効果を検証するため、メタバース空間上に「バーチャル人生設計ワールド」（以下「本ワールド」）を構築し、事前アンケートの参加者の一部（後述）に体験してもらいました。構築にはプラットフォーム「cluster」⁷を利用し、NRIネットコム株式会社がUI/UX⁸デザインを担当しました。
本ワールド内では、株式会社第一生命経済研究所が開発した、人生を疑似体験できるすごろくゲーム「ライフデザイン3.0ゲーム」のメタバース版を操作できます。参加者は、ゲームを通じて、「健康」「お金」「つながり」という人生における3つの資産について考え、働き方や生き方を自ら選択し、やり直しや方向転換をしながら、さまざまな人生を疑似体験していきます。参加者は、それぞれのアバターを介して、本ワールド内で相互にコミュニケーションをとることもできます。

図：「バーチャル人生設計ワールド」の画面イメージ

本実験から得られた成果

事前アンケートの参加者の中から、ライフデザインへの積極性、性、年代等の属性が多様となるように選んだ参加者24名（潜在顧客層14名を含む）に、開発した本ワールドを体験してもらい、本ワールドの満足度や体験前後での意識変化を問うアンケートを実施しました。その結果、ライフデザイン意識や、保険会社への相談意向について、以下のことが確認できました。

また、以下のことが追加で確認できました。

• 18名が保険やライフデザインに関する情報に関心を持ち、そのうちの12名がワールド内のリンクから、関連情報を紹介する外部サイトを実際に訪問した。
• 14名が「メタバース上のアバターは話しかけやすい」、12名は「メタバース上では、対面では言いづらい話題も話せる」と感じた。

本実験により、メタバースによる体験を通じて、新たな顧客層に対する教育・啓蒙効果が確認できました。本実験参加者におけるメタバース上の相談意向も高く、事前アンケートで見出した潜在顧客層に対して保険会社がメタバース上でアプローチすることで、保険加入や資産形成に対する相談への展開が期待できることが明らかとなりました。

今後の展望

第一生命とNRIでは、今後、メタバース空間におけるライフイベント体験などの人生シミュレーション環境の提供、参加者の行動変化分析、アバターや生成系AIを活用した金融に関連するコンサルティングサービスや金融商品の販売などを行うことも視野に入れています。
NRIグループでは、金融分野及びデジタル技術に関する豊富な経験・蓄積と、UI/UXデザインについての深い知見をもとに、金融機関等のメタバース空間を活用したビジネスの拡大を支援し、生活者へより良い金融サービスを届けることに、これからも貢献していきます。

• ¹  

  インターネット上の仮想空間です。現実世界を超える体験とコミュニケーションを通して経済活動が生み出されます。ユーザーは、3次元で構成された仮想空間の中で、自分自身の分身であるアバターを介して自由に動き回り、他者と交流し、商品やサービスの売買などさまざまなことを体験できます。

• ²  

  NRI ICTメディアコンサルティング部「ITナビゲーター2023年版」、東洋経済新報社、2022年12月、67ページ

• ³  

  詳細は、ガートナージャパン株式会社による以下のプレスリリースを参照ください。
  「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル：2023年」
  https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20230817

• ⁴  

  事前アンケート調査において、何らかのメタバースサービスを数か月に1度以上利用していると回答した層を指します。

• ⁵  

  事前アンケート調査において、生命保険会社の営業担当者と直接会って、自分の将来や保険商品について相談したいと回答した層を指します。

• ⁶  

  事前アンケート調査において、生命保険会社の営業担当者から説明を受けた・相談をしたと回答した層を指します。

• ⁷  

  クラスター株式会社が運営するメタバースプラットフォームです。詳細は以下のURLをご参照ください。
  https://corp.cluster.mu/

• ⁸  

  UIはUser Interface（ユーザーインターフェース）の略称、UXはUser eXperience（利用体験）の略称です。

【ご参考】事前アンケート調査の概要