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FRBのパウエル議長の議会証言-English speaker

2018/07/19

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はじめに

パウエル議長による今回の議会証言については、2日目の下院の金融サービス委員会でも、トランプ政権による貿易摩擦が各議員の地元経済に与える影響に焦点が当たった。加えて、いつものように、民主党議員を中心に大規模な金融機関に対する規制緩和の方向性への懸念が示された。

そうした中で、ウエイトは高くなかったが、金融政策に関する論点もいくつか提示されたので、これらを中心に内容を検討したい。

FRBのバランスシートの規模について

下院の金融サービス委員会のヘンサーリング委員長(共和党)は、FRBがバランスシートの規模を早期に正常な水準に戻すべきとかねてから主張している。今回の議会証言でも、冒頭説明と自身の質問の2回にわたってこうした主張を繰り返した。

その背景について、同委員長は、バランスシートの規模が大きいことがFRBの独立性を毀損することに繋がるとの懸念を指摘した。具体的には、巨額の資産保有に伴う運用益の使途を巡って政治的な動きに巻き込まれやすい点を指摘するとともに、米国内でも近年にCFPBの運営経費やFAST法に基づくハイウエイの整備費用のために、地区連銀に留保されていた利益を供出させられた事実に言及した。

バランスシート規模と独立性との関係では、取り上げられることの多い財政ファイナンスの観点が必ずしも焦点になっていなかった点は興味深い。ただ、同委員長が適切に言及したように、SNBやECBも近年に同様な問題に直面しているだけに、着眼点自体は適切である。また、バランスシートの削減については、バー議員(共和党)なども取り上げたので、共和党としての「量的緩和」に対する懐疑的な見方も改めて確認された。

これに対しパウエル議長は、ヘンサーリング委員長が強調した懸念について直接に言及することを避けつつ、バランスシート規模の削減を既に開始しており、かつ円滑に進捗していることを説明した。また、注意深く企画した方針であるだけに、そのペースを速めるといった考えはないと回答した。

その上で、パウエル議長は同委員長の質問に回答する形で、FRBとしてバランスシートの最終的な規模について具体的な目標を有している訳ではないとしつつ、現在の枠組みの下では「正常な水準」に達するまで3~4年を要するとの見方を示した。

その一方でパウエル議長は、少なくともこれまでのところは銀行券や当座預金に対する需要が非常に強いことも認め、(もちろんこれだけが唯一の要因ではないが)「正常な水準」が当初の想定よりも大きくなる可能性も示唆した。こうした可能性は、イールドカーブのフラット化との関係で、最近、米国内で提起され始めただけに、今後FRBがどのような議論を行うかが注目される。

実際、今回の議会証言でも、上記のバー議員(共和党)はイールドカーブのフラット化に伴うリスクを質したのだが、他の質問に持ち時間を使いすぎたため、パウエル議長の回答が不十分に終わった点は残念であった。

当座預金への付利と金融政策ルール

FRBのバランスシートの規模が大きいことの意味合いの一つは、当座預金に対する付利によって短期金利を誘導する必要がある点である。そして、この点については金融機関に対する収益補填の面があるとして、議会ではかねて評判が悪い訳である。

今回もこの点は実際に取り上げられ、特にヘンサーリング委員長は金融危機前のように、資金供給オペとdiscount creditの双方による「corridor」の枠組みに回帰するのはいつかと質した。また、バー議員はdiscount creditの適用金利を各地区連銀の申請によって決めるのでなく、FOMCが合議により決定すべきとの問題提起を行った。

これに対してパウエル議長は、短期金利の誘導方法を元に戻すタイミングについて具体的に念頭に置いているわけではないとしつつも、近い将来に検討を行うと説明した。また、FOMCは現在でも短期金利の誘導目標をレンジとして決定しているだけに、バー議員の提案は必ずしも適切でないことを示唆した。

なお、議会証言における金融政策ネタのもう一つの定番としては、金融政策ルールの適否がある。ただ今回は、少なくとも筆者が視聴した範囲では、ハイゼンガ議員(共和党)がバランスアプローチの技術的な特徴点を質したのみに終わった。

今回の下院の金融サービス委員会での議会証言では、このようにIOERも金融政策ルールも注目を集めなかった理由としては、冒頭に述べたように、別なテーマに関心が集まったことが考えられる。それらには、貿易摩擦や金融規制のほか、トランプ政権による税制改革の効果や副作用も含まれていた。

一方で、パウエル議長の作戦も功を奏した面もあるように思う。つまり、冒頭説明(前日の上院での議会証言と同じテキスト)で、IOERの必要性や意味合いを説明したほか、金融政策ルールについても有用であることを認めつつ、注意深い判断が必要であることを説明している(後者については、今回のMonetary Policy Reportでも、従来と同じく大きな「Box」を設けて、いくつかの案の比較も含めた検討を行っている)。つまり、パウエル議長としては、議員による議論を想定した布石をきちんと打っていたと言える。

コミュニケーション・ポリシー

就任当初は、メディアから「Mr.Ordinary」と揶揄されたパウエル議長であるが、金融政策については、少なくとも当面は前任者の決定した「正常化路線」を粛々と進めることになるだけに地味さは仕方ない点である。

そうした中でも、徐々にパウエル議長のカラーが明確になりつつあるのは、コミュニケーションの面であろう。実際、今回の議会証言の冒頭説明では平易な用語や表現が努めて使用されている(個人的には「a good deal(とても)」という口語表現が印象に残った)。その姿勢は、既に多くのメディアが取り上げている「Monetary policy affects everyone and should be a mystery to no one」という文章(第2パラグラフ)に象徴されている。

実際、クリーバー議員(民主党)は自らの持ち時間の最後に、パウエル議長に対して「英語で話してくれてありがとう」と例を述べ、ヘンサーリング委員長が「FRB議長は(常に)英語を話す」とコメントする一幕もあった。この点においても、パウエル議長の意図は相応に達成されたようだ。

執筆者情報

  • 井上哲也

    井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部
    シニアチーフリサーチャー

    金融デジタルビジネスリサーチ部 シニアチーフリサーチャー

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