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5Gを巡る米中の覇権争いと米国の課題

2018/09/18

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5Gで主導権を握ることを目指す米国

次世代通信規格「5G」の主導権を巡って、米国と中国の対立が激しさを増している。現在の規格「4G」では、米国が主導権を握ってきた。それがなければ、モバイル技術やプラットフォームで、現在のような米国の優位はなかっただろうと多くの人は考えている。仮に、米国が4Gを主導していなかったら、米企業は約1,250億ドルの収入を失っていたと、レコン・アナリティクスのアナリスト、ロジャー・エントナー氏は推定している(注1)。

第2世代の2Gでは音声伝達が可能となり、3Gはアプリ革命をけん引し、4Gで通信速度は劇的に速くなった。日本は3Gを当初主導したものの、SNS(ソーシャルネットワーキング)や音楽配信サービスを十分に活用できず、主導権は欧米に奪われた。

5Gのもとでは、自動運転車、仮想現実(VR)、遠隔手術などの応用技術が飛躍的に発展することが期待されているが、それにはなお見通し難い部分も多く残されている。各国は、とりあえず通信基盤部分での開発を進めている。

中国では、通信会社が大規模な5Gネットワークを2020年までに導入するとしている。韓国は今年の冬季五輪で5Gをすでに試した。国内通信会社が19年3月に5Gを一斉に導入すると、今年7月に政府が発表した。それは、競争による販売コスト上昇を避けるためだという。

米国では、年内に5Gネットワークが稼働し始める見通しだが、それは数都市のみだ。AT&Tはダラスやアトランタなど、ベライゾンはカリフォルニア州サクラメントなどをその場所に選んでいる。

米国が中国に対して不利な3つの点

現状では、5Gの開発で米国が完全に主導権を握っているとは言い難い。全体的な評価では、中国の方が先を行っているとの指摘もある。少なくとも現状で、中国が米国に対して優位である点が3つある。

第1は、5Gネットワークの2020年までに導入に向けて、中国政府が通信会社を強力にサポートしていることだ。2013年以来、政府が率いる委員会が中国の通信業者や通信機器メーカーと連携して実験や開発を進めてきた。

他方、米国政府は、民間セクターの取り組みに直接指示することは避け、個々の企業の努力によってもたらされた結果を普及させることに注力する伝統がある。

第2は、巨大な国内市場だ。人口で米国に大きく勝る中国は、巨大な国内市場を利用できることで、ファーウェイをはじめとする中国企業が大量の5G機器を国内で販売し、その過程で利用者から貴重な情報を得ることができ、さらにそれを、技術開発を助けることにつなげることができる。

第3は、基地局の数だ。5Gの最大の課題は、周波が互いに接近しているため、あまり遠くまで到達できないことだ。米国で、4Gの基地局は現在、最大10マイル(約16キロ)先まで電波を送れるが、高い帯域幅の5Gの基地局が送れるのは最大1,000フィート(約300メートル)だ。そのため、5Gの広範囲での普及には数千基の基地局を新設する必要がある。これほど多くの基地局の設置には多額の費用がかかってしまう。

コンサルティング会社デロイトが2018年8月に実施した調査によると、2015年以降、中国が新たに建設した基地局数は約35万基であるのに対し、米国は3万基にも満たないという。また、1万人当たりの基地局数も中国が14.1基であるのに対し、米国は4.7基と大きく出遅れている。既に見たように、米国では年内に5Gネットワークが稼働し始める見通しだが、それは数都市のみだ。広範囲に5Gが利用できるめどはまだ立っていない。

5Gを巡りトランプ政権と米企業の間に対立も

米国政府は、5Gの競争で中国に後れをとることは、国家安全保障の観点からも大きな脅威になると考えている。米当局者は中国の通信機器大手、ファーウェイが中国政府に代わってスパイ活動をしかねないと考えている。こうしたリスクは、ネットに接続する機械や物が急激に増える5G時代にはさらに高まるとしている。

また、中国が広く普及する5Gを最初に開発した場合には、自動運転車などの新興技術の実験で中国が米国に先行し、その結果、米国は、先端技術と頭脳の中心地というシリコンバレーの地位を奪いかねないことも懸念されている。

今後は、5G競争で中国に対して優位に立つため、米国政府が従来の姿勢を転換して、5Gの開発により直接的に関与、それを強く支援していくかどうかが一つの注目点だ。国家安全保障会議の上級高官は、今年1月に、中国に対抗するために、政府主導で国営無線ネットワークを構築する取り組みを提案したという。

ただし、米半導体大手インテルや米通信機器大手シスコシステムズをはじめとするIT企業は、トランプ政権による対中追加関税が、5Gネットワーク構築に必要なルーターやスイッチなどの製品コストを引き上げ、5Gでの米国のリードを脅かしかねない、と政府に訴えている。5Gを巡る米政府と米企業との協力体制は、米中貿易戦争のなかでむしろ弱まっているのが現状だ。

(注1)"Why Being First in 5G Matters"Stu Woo, Wall Street Journal, September 13, 2018

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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