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焦点がずれる消費税率引き上げ措置

2018/10/15

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政府が消費税率引き上げを正式表明

政府は15日の夕刻に開かれる臨時閣議で、来年10月に消費税率を引き上げることを正式に決める。また、首相は、景気への悪影響に配慮して減税策、予算措置を講じる準備を進めるよう、関係閣僚に指示する見込みだ。消費税率の引上げは、2014年4月に実施された後、今まで2回見送られてきた。特に2回目の見送りの際には、経済情勢がリーマン・ショック直前に似ており、相応にリスクが高まっていることを理由とされたが、そうした政府の説明は、ほとんどの人にとって納得できるものではなかった。目前に控えていた選挙への悪影響を意識した措置、との印象が強かっただろう。

リーマン・ショック級の出来事があれば、消費税率引き上げは延期する、との政府の方針は今でも変わっていない。従って、向こう1年のうちにそうした事態が生じれば、消費税率の引上げが再度延期される可能性はまだ残されている。しかし、前回の先送り時のように、経済状況が安定した状況のもとで、延期を無理やり選挙の争点とするなどの政治的な戦略に基づいて、再度、消費税率引上げを延期する可能性はほぼなくなったといえるだろう。

また、従来までと大きく異なるのは、幼児教育無償化など、社会保障関連支出拡大の財源として消費税率引き上げを充てることを既に政府が決めていることだ。仮に、消費税率引き上げを再度先送りすれば、財源を確保することができずに、そうした措置が講じられないことにもなろう。それは、国民からの強い批判を受けるなど、政治的ダメージが非常に大きい。

消費増税の景気への悪影響対策は過剰

消費税率引き上げに関する政府の説明は、それが景気に与える悪影響への対策と、社会保障制度の拡充の2点に焦点が当てられている感が強い。その中で、財政環境を改善させ、将来世代に過大な負担を強いる、いわば、つけ回しの状況から脱するという最も重要な消費税率引き上げの本来の目的が希薄化してしまってはいないか。

政府は、消費税率の引上げが景気に与える悪影響に配慮し、減税策、予算措置を講じる考えだ。しかし、その結果、消費税率引き上げによる税収増効果、財政健全化効果は着実に縮小してしまうだろう。2014年の消費税率引き上げは家計所得を8兆円強程度減少させたと考えられる。それに対して、来年の消費税率引き上げは、税率の引き上げ幅が2%と前回の3%よりも小さいうえに、軽減税率が適用されていること、幼児教育無償化先が同時に講じられることから、家計所得の減少効果は2兆円強と、前回よりもその影響はかなり小さい。さらに追加措置を講じれば、家計所得への悪影響は一段と小さくなると共に、財政健全化効果も相当減じられてしまう。政府が、消費税率引き上げの経済への悪影響を懸念し、その対策を拡大させるほど、消費税率引き上げは景気を悪化させる、やっかいなイベントとの印象が国民の間に広がってしまうだろう。また、その結果、本来何のために消費税率引き上げが実施されるのかが分からなくなってしまうのではないか。

「大きな政府」の政策に

また、政府は、消費税率引き上げは、新たな社会保障充実の財源として重要である、との側面を強調している。しかし、その政策は、歳出と歳入を共に拡大させる、「大きな政府」の政策に他ならない。消費税率引き上げがかつて3党間で合意された際には、「社会保障と税の一体改革」が強調されていた。財政再建を進めるために、拡大する社会保障関連費の支出抑制と増収策とをバランス良く実施していくことがその主な狙いであった。

しかし、現状では、社会保障費の抑制はむしろ後回しにされ、教育関連を中心に拡充方向が志向されるなか、その財源としての消費税率引き上げが議論されているのである。当初議論されていた「社会保障と税の一体改革」は、このように大きく変容し、国民受けの良いバラマキ的な政策に比重が移っている感がある。これは、財政健全化の観点からは、懸念されるところだ。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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