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金融機関の過度なリスクテイク姿勢に警鐘

2018/10/24

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金融機関のリスクテイクで景気の下振れリスクが高まる

日本銀行は、国内金融システムの安定性を評価する観点などから、年に2回「金融システムレポート」を公表している。10月22日に発表された最新版では、「金融循環の面で過度な過熱感は窺われない」とする従来の判断が維持されている。しかし、金融当局が公表するこの種のレポートでは、金融面でのリスクを直接的に指摘することが、金融面での大きな調整、場合によっては金融危機の引き金(トリガー)となってしまうことを警戒して、金融システムの安定性を脅かしかねない問題点などを控えめなトーンで指摘するのが普通だ。

こうしたレポートの特性、偏りを考慮に入れて読んだ場合、今回の「金融システムレポート」は、金融機関のリスクテイク姿勢にかなりの警戒感を示す内容になっているのではないかと思う。前回4月のレポートでは、日本銀行は、低採算先の上位グループである「ミドルリスク企業」向けの融資拡大に注意を促したが、今回は、金融機関のリスク資産全体の拡大が、将来の景気や金融システムの安定に与える悪影響について、一歩議論を進めた感がある。

今回のレポートで多くの紙面が割かれ、いわば分析の目玉となったのは、足もとでバブル崩壊期以降のピークを更新した金融ギャップ(金融面での偏り)の動きが、先行きの経済にどの程度の変動リスクをもたらすかを計測するGDPatRisk(GaR)という手法を用いた分析だ。それによると、先行き3年間の需給ギャップの変化幅について確率分布を計測すると、従来と比べて、需給ギャップが悪化する方向へと確率分布の形状が変化している、つまり景気の下振れリスクが高まっていることが確認できる。レポートでは、先行き3年間といったやや長い目で見ると、バランスシートの調整圧力を溜め込むことで、それが下方のテールリスクを高める方向に作用していると指摘されている。

リスクアセット拡大で自己資本比率低下

他方、金融機関の財務環境については、自己資本比率が近年緩やかに低下していることが指摘されている。その背景には、金融機関がリスクアセットを拡大させる一方、そこから得られる収益が十分に高くないこと、つまり、リスクアセットの拡大に見合った収益をあげにくくなっていることがある。

金融機関のリスクアセットでは、低採算先向けの融資拡大が、引き続き注目されている。ここでいう低採算先は、財務内容が相対的に悪い企業のうち、景気循環を均してみた信用リスク対比で、金融機関が貸出金利を低めに設定している先、と定義されている。金融機関の低採算先貸出比率は、近年、上昇傾向を辿っている。また、日本銀行が地域金融機関に対して実施したアンケート調査の結果では、「ミドルリスク企業向けの貸出金利は、景気循環を均した信用コストに見合っていない」と回答した金融機関が、5割以上に上っている。こうしたもとでは、景気情勢が悪化に転じた場合、信用コストの増加から、金融機関の収益環境がにわかに厳しくなる可能性がある。

さらに、足もとで改めて注目を集めている不動産業向けの貸出比率は、依然、上昇傾向を辿っている。他方、地域金融機関からは、最近の融資申し込み案件で、利払い能力の低い投資家層の増加、賃貸物件の期待利回りの低下、借入期間の長期化など、質の悪化を指摘する声が増加しているという。

低下する金融機関のストレス耐性

他方、リスクアセットの中で融資でなく証券投資に注目すると、地域金融機関は投資信託を積み増し、リスクテイクを積極化させている。投資対象となる投資信託の種類が多様化するなか、そのリスクを十分に補足できていない先も少なくない。日本銀行が実施したマクロ・ストレステストで、内外の金融経済情勢がリーマンショック時並みに悪化するテールイベントを想定した場合には、金融機関の株式関係損益のマイナス幅は、リーマンショック時よりも大きくなる。これは、地域金融機関を中心に、投資信託のエクスポージャーが拡大しているためだ。

テールイベント・シナリオのもとでのストレステストの結果を過去に遡って比較すると、金融機関の当期純利益や自己資本比率は徐々に下振れる傾向が見られる。これは、低金利の長期化や競争激化から金融機関の利鞘の縮小傾向が続くなか、過剰なリスクテイクを伴うリスクアセットの拡大が、自己資本比率を低下させてきていることが背景にある。

金融機関の過大なリスクテイク姿勢が、先行きの景気の下振れ傾向を大きくするリスクを高める一方、経済・金融面のショックに対する金融機関の抵抗力(ストレス耐性)は低下している。経済・金融環境と金融機関の財務環境との間で、スパイラル的な悪化が生じるリスクは、高まっているのではないか。

金融機関の過大なリスクテイクを抑制する手段として、日本銀行は考査などを通じて個別金融機関への働きかけを進める一方、過大なリスクテイクの誘因となっている収益環境の悪化を、預貸利鞘の拡大、安全資産投資の収益性回復の観点から緩和すべく、長期国債の利回り上昇を促す金融調整を進めていくことになるのではないか。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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