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外国人労働者受入れ制度の功罪

2018/11/15

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新たに26.3万人~34.5万人の外国人労働者を受入れ

外国人労働者の受入れ拡大に向けた出入国管理法改正案の審議が、11月13日に衆議院で始まった。日本人の雇用や賃金、そして治安など社会への影響などの観点から、野党は受入れ人数の目安を示すよう、政府に働きかけてきた。これを受けて政府は、法施行が予定される2019年度からの5年間で、26.3万人~34.5万人の外国人労働者を、新たに新設される「特定技能」という在留資格のもとで受入れる考えを示した。他方、同時期には約130万人~約135万人の人手不足が生じると試算されている。この人手不足分の20%~25%程度を、新たな在留資格の外国人労働者で賄うことが目指されている。また、厚生労働省によれば、2017年10月末時点での外国人労働者数は127.9万人であるが、新たな在留資格の外国人労働者数はその20%~27%に相当する計算となる。

新たな制度は、運営上の自由度、柔軟度が高いという点に、そのメリットとデメリットの双方が集約されているように思われる。

この制度は、国内で深刻化する人手不足問題への対応という側面が強い。一定の技能が必要とされる「特定技能1号」については、現状14業種が対象となっているが、将来は、受入れの上限や対象業種を見直すことなどで、受入れ人数を柔軟に調節することが可能だ。また、景気情勢が悪化に転じ、人手不足問題が解消、あるいは人手余り状態となれば、最大5年(資格更新不可)としている在留期間を短期化するという運用を通じて、外国人労働者数を削減することも可能となる。国内経済情勢に応じて、裁量的かつ柔軟な運用ができる枠組みとなっているのである。

他方、外国人にとっては、これは受入れ国の都合だけを反映したかなり身勝手な制度と映ってしまうのではないか。在留資格が突然打ち切られてしまうなどのリスクは、この制度の信頼性と制度を利用するインセンティブを損ねないだろうか。アジア地域で日本とそれ以外の国との間での賃金格差が縮小するなか、この制度のもとで果たして良質な労働力を確保できるかどうか、疑問も残るところだ。

国民的議論とコンセンサス形成が重要

他方、新たに新設される「特定技能」という在留資格には、もう一つ、熟練した技能を要件とされる「特定技能2号」がある。この資格が認められた外国人は、資格更新が可能で、事実上在留期間に制限がなくなる。また、家族帯同も許される。「特定技能1号」は人手不足対策という労働需給の緩衝役を果たすことが期待され、潜在成長率を高めることには貢献しない。しかし、「特定技能2号」は労働力を一時的にではなく恒常的に増加させることを通じて、潜在成長率を高めることが可能となる(外国人労働力の拡大が労働生産性を低下させるとの指摘もあるが)。運用次第では、経済の潜在力を高めることが可能となる仕組みだ。

しかし、単純労働の外国人労働力を本格的に受入れるかどうかは、本来は、その経済的メリットと社会的な課題とを比較衡量し、国の在り方として国民が判断すべきものだ。外国人との共生の是非については、時間をかけて国民的議論を十分に行うことが重要だ。仮に、そこで単純労働の外国人労働力を本格的に受入れることを是とするコンセンサスが得られたならば、その後に正式な法制化へと向かうべきなのではないか。

10月に日本労働組合総連合会(連合)が実施したアンケートと調査によれば、自分の職場に外国人労働力が増えることを「よいことだと思う」の回答は51%で、「よくないことだと思う」の回答25%を大幅に上回っている。外国人労働の拡大を、比較的好意的に捉える向きが多いことが示されている。さらに、自分が暮らしている地域に外国人住民が増えることについて「よいこと」だとする回答は37%で、「よくないことだ」の回答の約1.4倍に達した。その理由として、地域の多様性、活性化に繋がることが上位に挙げられている。外国人との共生についても、比較的好意的な意見が多く見られている。

他方、同じ調査で、外国人労働者の受入れ拡大について、「政府の説明が十分ではない」との回答が、実に69%にも達した。外国人労働者の本格的な受入れを、国民的議論を経ることなく、政府の運用、裁量によって可能としてしまう新制度に対する不信感や批判的な見解も、この回答に一部映し出されているのではないか。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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