フリーワード検索


タグ検索

注目キーワード
業種
目的・課題
専門家
国・地域

NRI トップ コラム コラム一覧 企業の組織ナレッジを高める仕組み

コラム 小粥研究理事の視点

企業の組織ナレッジを高める仕組み

2018/10/23

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

米国の大手投資銀行モルガン・スタンレーでは、2017年の夏にウェルスマネジメント(以下WM)事業において金融アドバイザー(以下FA)の活動を機械学習やデータ分析でサポートするNBA(NEXT BEST ACTION)システムを開発したと発表した。WMというと大衆向けバンキングとは異なり、FAという「人」による富裕層向け対応が中心で、デジタル化という観点では遅れていた分野である。そのWMにおいてAI等の最新技術を活用してFAを強化するという発想は市場では斬新に映り、大いに注目を浴びたのである。

モルガン・スタンレーは2017年に一部の支店でパイロット運用を開始し、その成果を見て2018年5月には全店展開している。このシステムは顧客属性や保有資産だけでなく、過去のFAとのメールや電話でのやりとりの履歴を分析した結果に基づいて、顧客毎にアドバイスの推奨リストを作成したり、市場イベントの影響度合の大きな顧客を瞬時にリストアップしたりしてFAをサポートする。また、社内の専門家によって作成された様々な企業業績や環境分析に関するレポートを整理して顧客ニーズに応じて適切に選び出したりすることもできる。

と言っても、サービスの中心はあくまでも人のFAである。FAがより付加価値の高いサービスを提供できるようにシステムで強化(augment)しているのである。FAの業務を機械でバックアップするという観点からすれば、FAをサイボーグ化しているという表現が似合うかもしれないが、FAが困った時に何でも相談できるGoogleの検索エンジンのようなものを提供していると思えば、FAにとってのナレッジベースを構築したという見方もできる。いずれにしても、FAによるサービスが顧客から見た付加価値の中心にあることを思えば、このシステムは金融機関がFAを活用して付加価値を作り出すためのナレッジ・プラットフォーム(PF)であるとみなすことができる。

このNBAシステムの担当者であるジェフ・マクミラン氏(WM事業のチーフ・データ・アンド・アナリティックス・オフィサー)は昨年来、様々な機会にNBAについての講演を実施しているが、彼の話の中で印象的なのは、NBAプロジェクトというのは終わりのないプロジェクトであるということである。6年前からNBAプロジェクトをスタートさせ、社内文書の整理とか通話内容のテキスト化とか地道な準備を行い、機械学習機能を実装して一定の成果ができ上がるようになったものの、まだほんの始まりに過ぎないとのこと。機械学習の精度を高めたいと思えば、WM事業に関する辞書をすべて作り直すくらいの覚悟が必要であり、ブリタニカ百科事典を作る作業にも似た地味なタスクにじっくりと取り組まなければならない。モルガン・スタンレーの発表以来、WM事業におけるNBAは一つの流行のようになっているが、他のシステム開発のように一定期間開発して終わりというようなものでは決してないことを肝に銘じるべきだと主張する。

このマクミラン氏の言葉は深い。組織ナレッジを高めようとする試みの難しさを象徴しているからである。組織ナレッジ力を向上させる仕組みとして、ナレッジマネジメントの重要性が言われたのはもう20年も前になる。その当時も顧客提案力を強化するために文書共有システムを導入しようという話があったが、効果がほとんど見られないままにブームは終焉した。その当時、どうしてうまくいかなかったのかと改めて思うに、マクミラン氏が指摘するような単なるシステム導入プロジェクトとして位置付けられたものが多かったからではないかと想像する。

NBAがかつてのナレッジマネジメントと同様の一時的なブームに終わるのか否か、その予想は難しいところであるが、モルガン・スタンレーの事例を見ていると、思い立ったら誰でも直ぐにできる類のものではないようだ。その意味ではブーム自体は直ぐに終わりを見せるだろう。ブーム終焉の影で地道に努力できるかどうか、そのことが成否を分ける鍵になりそうだ。

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ