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日銀の黒田総裁の記者会見-Clarification

2019/04/26

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はじめに

今回(4月)の金融政策決定会合は、フォワードガイダンスの変更をはじめとする政策変更を決定した。少なくとも、国内市場の反応は限定的であったが、決定内容には興味深い意味合いを持つものが含まれる。

景気と物価の見通し

政策変更の詳細を議論する前に、経済見通しの改訂内容について確認したい。

まず、今年度以降の実質GDP成長率に関する見通しは、僅かな下方修正に止まった 。 つまり 、 2019 ~ 21 年度の見通しは+ 0.8%→+0.9%→+1.2%となり、前回(1月)の2019~20年度が+0.9%→+1.0%であったのに比べ、各々0.1pp引き下げられた。

実際、展望レポートは、当面は海外経済の減速の影響を受けるものの、見通し期間を通じてみれば緩やかな景気の拡大が続くとのシナリオを維持しており、上記のような見通しが前回(1月)対比で実質的に据え置きであると説明している。また、海外経済の回復は、各国政策の対応とIT関連財の在庫調整の進捗によって実現するとしている。

景気に関する前向きな見方を背景に、今年度以降のコアCPIインフレ率(消費税率引き上げと教育無償化の影響を除く)の見通しについても、僅かな下方修正に止まった。つまり、2019~21年度の見通しは+0.9%→+1.3%→+1.6%となり、前回(1月)の2019~20年度が+0.9%→+1.4%であったのに比べ、2020年度が0.1ppだけ引き下げられた。

もちろん、先行きに関しては景気と物価ともにリスクは下向きとの評価を維持しており、特に海外経済の先行きに関する不透明性は高く、その変化は国内の企業や家計のマインドに大きな影響を与えるとしている。

フォワードガイダンスの変更

今回(4月)の金融政策決定会合は、このような経済見通しの下でフォワードガイダンスを修正した。具体的には、①海外経済の動向を不確実性の要素として加えたほか、②長短金利の水準を少なくとも2020年春頃まで維持するとして、時期を明記した。このうち①は、従来は消費税率の引上げだけが具体的に言及されていた訳である。また、②は従来は「当分の間」であったのに対して、カレンダー・ベースの要素が明記された訳である。

記者会見では多くの記者がフォワードガイダンスの修正の趣旨を質した。これに対し黒田総裁は、今回(4月)の声明文に記されているように、フォワードガイダンスの明確化を意図したものであることを再三強調した。加えて、従来のフォワードガイダンスの下で、消費税率の引き上げ終了後に市場で利上げの思惑が生ずることを防止したいとの意向を示した。

ファンダメンタルズの面から見れば、新たなフォワードガイダンスは先に見た景気見通しと整合的になっている。つまり、金融政策決定会合として、本年後半以降に海外経済の回復とともに日本経済のモメンタムも徐々に高まることを中心シナリオとしている以上、それが経済指標から確認できるようになる来年の春までは、現状の金融緩和を維持するとの意図を示しているからである。

もっとも、今回(4月)の金融政策決定会合に先立って報道各社が市場関係者やエコノミストを対象に実施したサーベイの結果等を見る限り、従来のフォワードガイダンスの下でも、消費税率の引上げを円滑に通過したら、直ちに「正常化」に着手するといった予想は殆どみられなかった。おそらく、より現実的なリスクは、消費税率引上げの影響が抑制的であった場合に、日銀がYCCの「持続力強化」の第二段に踏み切るのではないかとの思惑が市場で生ずることであろう。

いずれにせよ、新たなフォワードガイダンスは、金融政策の先行きに関して市場に既に存在する予想を、いわばendorseする意味合いを有しており、その意味で3月の政策理事会におけるECBの政策決定と似ている。こうした性格のフォワードガイダンスは、市場の不要なvolatilityを抑制する上で効果を発揮するであろうが、市場での期待の変化によっては、修正を繰り返すことを余儀なくされる可能性もある。

適格担保の拡大

地域経済の活性化における地方銀行の役割について、様々な実務家や専門家の皆様との議論を続けている筆者にとっては、この技術的だが重要な決定が最も興味深かった。しかし、(少なくとも、当方がカバーした16時27分頃までは)記者はだれもこの点を取りあげなかったので、あくまで筆者の理解を記しておきたい。

今回(4月)の声明文によれば、従来はA格までであったのに対し、今後はBBB格までの企業の債務も適格担保として受け入れるほか、そうした外部格付のない企業でも、金融機関の自己査定において「正常先」であれば、その債務を同様に適格担保として受け入れるとした。また、地方公共団体向けの融資債権についても、入札などを要件にしないとした。

さらに、成長基盤強化を支援するための資金供給を利用する金融機関に対して、その実績を踏まえた利用枠を付与することで、資金供給を受けられるようにする方針も示された。

これらの決定は、日銀が予て実施してきた銀行貸出の支援策を強化する性格を有するが、適格担保の拡大に恩恵を受ける官民の債務者の特性から明らかなように、政策効果の焦点は地域金融機関に向けられている。その意味で、適格担保の拡大は、超低金利環境の長期化に伴う金融仲介に対する副作用への懸念に対して、日銀としての対策を講じたものであるように見える。

もちろん、国内の(不動産関連を除く)中小企業の資金需要を考えると、こうした政策によって銀行貸出がどの程度活性化するかには不確実性も残る。それでも、地域金融機関の実務家や専門家からは「正常先」下位の企業こそ、「事業性評価」が有効な先との指摘を受けることも多いだけに、今回の措置を通じてこうした企業にメリットが及ぶこと自体は意味を持つように思う。

資産買入れ

今回(4月)の政策決定の最後の塊は、SLFの強化とETF貸付の導入であった。後者に関して黒田総裁は、マーケットメイクの円滑化に資すると説明したが、いずれにせよ、品貸し制度の強化や導入が必要な事実は、大規模な資産買入れによる市場機能へのストレスの高さも同時に示唆している。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融ITイノベーション研究部

    主席研究員

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