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IMF世界経済見通し下方修正とダボス会議

2019/01/23

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IMFが2019年成長率見通しを連続下方修正

1月22日から25日まで、スイスのダボスで世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、通称ダボス会議が開かれる。安倍首相は5年ぶりに出席し、23日に演説を行う。他方、政府閉鎖問題を抱える米国のトランプ大統領、欧州連合(EU)離脱問題を抱える英国のメイ首相、反政府デモで混乱するフランスのマクロン大統領らは欠席する。世界経済が厳しさを増し、米中貿易問題、英国のEU離脱問題、ポピュリズム、ナショナリズムの台頭など、多くの問題が累積するなか、当事国の大統領、首相が相次ぎ参加を見送ることで、こうした問題の解決に向けた建設的な議論がダボス会議の場でなされるとの期待が、当初から低下してしまっている。

国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は21日に、このダボス会議に参加するために訪れているダボスで記者会見を行い、IMFの最新の世界経済見通しを発表した。2019年の世界の成長率見通しは+3.5%と、前回2018年10月時点における見通しから0.2%ポイント下方修正された。2018年7月にも0.2%ポイント下方修正されており、僅か半年の間に2回、合計で0.4%ポイントもの見通し下方修正がなされた。これは、世界経済の状況が足もとで急速に厳しさを増していることの表れといえるだろう。

先進国の中で、とりわけ大きな幅で成長率見通しが下方修正されたのは、ユーロ圏だ。2019年の成長率見通しは、前回から0.3%ポイント下方修正された。ドイツの成長率見通しは、0.6%ポイントの大幅下方修正となった。輸出の不振に加えて、排ガス規制強化の影響で国内自動車販売が低迷したこと等が背景にある。また、イタリアの成長率見通しも、0.4%ポイントの大幅な下方修正となった。他方、日本の成長率見通しは0.2%上方修正されたが、これは消費税対策が実施される見通しとなったことを反映している。

世界の企業経営者の景況感が悪化

ラガルド専務理事は、「世界不況がすぐそこに来ているという訳ではない」としつつも、「大きな景気後退が起きても大丈夫なように備えてほしい」と、各国の政策当局者に呼びかけた。IMFは当面の世界経済の下方リスクとして、一時停戦状態にある米中貿易戦争が再開されること、中国経済の想定以上の減速、英国がEUから「合意なし離脱」に踏み切る可能性、に特に注意を払っている。

英国のEU離脱問題は、EU側が3月末の離脱期限の延期に向けて調整を行っているように見受けられる。さらに、離脱期限の延期が実現された後には、2回目の国民投票を経て、英国側がEU離脱を撤回する可能性も見えてきた状況と思われるが、なお不透明感が強いことは確かである。IMFは、「合意なし離脱」が現実のものとなれば、長期的に英国のGDPを5%~8%押し下げるとの計算を、今回公表している。

ところで、ダボス会議の開始を前に、大手会計事務所PwC(プライスウォーターハウスクーパース)は、世界の主要企業の最高経営責任者(CEO)を対象にした景況調査の結果を発表した。そこでは、向こう1年で世界経済は悪化すると回答したCEOが、全体の30%を占めた。これは、1年前の5%から大幅な上昇である。PwCによれば、貿易摩擦、保護主義の高まりが、CEOの景況感を悪化させているという。地域別に見ると、北米では、経済の先行きに楽観的な見方が、1年前の63%から、今回は37%まで低下した。大型減税、インフラ投資拡大などの政策効果の一巡や貿易環境悪化が背景にあるという。

IMFのラガルド専務理事が指摘するように、世界経済は減速しつつも、まだ景気後退入りに向かう明確な兆候までは見られていない。しかし、金融市場の動揺で金融環境が一気に引き締まる場合や、企業経営者のマインドが一気に悪化する場合には、世界経済の後退局面入りがにわかに現実味を帯びる可能性を考慮しておかねばならないだろう。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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