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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

官製色が薄れた今年の春闘

2019/02/05

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今年の春闘ではベアが大きな争点ではない

2月5日に経団連の中西会長と連合の神津会長との直接会談が予定されており、2019年の春闘がいよいよ本格化する。しかし、双方の対立姿勢は近年になく弱いように思われる。特に、ベア(ベースアップ)引き上げが大きな争点となっていないのが特徴的だ。

1月28、29日に開かれた、主要企業の労使が意見を交わす「労使フォーラム」で、経団連の中西会長は、「収益が向上した企業は、多様な方法で『年収ベース』の賃上げや総合的な処遇改善という対応をお願いしたい」と語った。中西会長は、「年収ベース」という言葉を使う一方、ベアへの直接的な言及を避けたのである。

経団連はその春闘の指針である「経労委報告」の中で、ベア以外での処遇改善の重要性をことさら強調している。他方で、ベアを引き上げれば、社会保険料負担の増加などを通じて、企業の人件費負担はその1.9倍にまで膨れ上がるとの分析を示し、ベア引き上げが、ベア以外も含む賃上げ全体に対して、企業を慎重にさせてきた面があると指摘している。経団連は、高収益はベアよりもボーナスで労働者に還元する方が良いとしている。

他方、連合はベアを引き続き重視しているとしつつも、神津会長は、「月例賃金だけにこだわるのでなく、子育て手当とか、子育てと仕事の両立支援策など要求は多様化しており、どう紐付けするかだ」と語っている。

ところで、厚生労働省が不適切な調査を行ってきた毎月勤労統計で、適切処理して再集計したデータを基にロイターが試算したところでは、2018年1~11月の実質賃金(定例給与)は、前年比-0.4%となり、同省が昨年まで公表してきた同-0.1%から減少幅が拡大している。しかし、連合は、「今まで統計で確認されていたよりも、実際の賃金上昇率は低かった」として、不適切な統計調査の問題を賃上げ要求の根拠にするような動きは見せていない。

トヨタグループの労組でつくる全トヨタ労働組合連合会は、これまでベアを中心に賃上げを要求してきたが、「物価の上昇にあわせ、ただ一律にベアを要求していくような時代は終わった」として、今年は定期昇給も含めた賃金総額に重きを置く方針に切り替えている。これは、トヨタグループが産業界での賃金交渉のリード役を事実上降りたことも意味するのだろう。

政府の姿勢は一転して不介入

ところで、今年の春闘でベアの議論が盛り上がらない背景には、景気悪化への警戒があると考えられる。米中貿易戦争や消費税率引き上げなどによって、景気情勢が悪化する可能性に配慮すれば、企業側は大幅なベア引き上げにはより慎重になる。一方、労働者側も大幅なベア引き上げで企業の人件費を増加することが、将来の雇用を不安定にさせてしまうことを警戒しているだろう。

しかし、ベアの議論が盛り上がらない理由として、それ以上に決定的なのは、今年は政府がベア引き上げを強く求めていないことだ。安倍政権は、2014年の春闘から、企業側に賃上げを強く要求する、いわば労使交渉への介入を続けてきた。昨年の春闘では、政府自らが「ベア部分だけで2%、賃上げ全体で4%」などと高めの目標を掲げた。適切な所得配分に向けて労使交渉が十分に機能しない場合には、政府が最低限の介入をすることは容認されるとしても、目標値まで掲げるのは、ややその域を出ていた感があった。また、過去には、日本銀行も政府と足並みを揃えて、積極的な賃上げを企業に求めてきたが、中央銀行が分配政策に関与するのはそもそもおかしい。

今年は、10月に消費増税があり、また統一地方選挙や参院選挙を控えていることから、例年以上に政府は高い賃上げを望んでもおかしくないところだ。それにも関わらず、今年は政府が労使交渉に介入することを控えている理由は、実は定かではない。昨年の春闘の後に就任した中西経団連会長が、政府による労使交渉への直接的な関与に否定的ということもあり、選挙での企業側の協力を得るために、政府がそうした意向に配慮した、との指摘もされている。

官製色が薄れることで、今年のベアの平均は昨年の約0.5%を下回る可能性が高いだろう。それは、個人消費や物価に対して、抑制的な影響を与えることになるだろう。しかし、日本経済を取り巻く諸条件を踏まえて、ベア以外の様々な労働者の処遇改善などを、外部からの声に影響を受けずに、労使間でじっくりと話し合う環境が整ったことは、春闘が久しぶりに正常化したといえるのではないか。

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