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FRBはバランスシートの削減を年内にも停止へ

2019/02/22

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保有資産削減の年内停止は既にコンセンサスに

連邦準備制度理事会(FRB)は、1月29・30日の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録を、2月20日に公表した。このFOMCでは、政策金利の変更は当面見送る、という考えが示されていた。今回の議事録では、次の政策金利引き上げの是非や条件について議論がなされたことが明らかになった。しかし、金融市場は、政策金利引き上げではなく引下げの可能性が示されるかどうかに特に注目していたことから、政策金利の議論に関するこうした記述には一部で失望感も生じている。

他方、「FRBが保有資産削減を年内に停止するのが最善」、という点でほぼすべてのFOMC参加者の意見が一致したことが示された。1月30日に公表された声明文では、「フェデラル・ファンドレート(FF金利)の引下げだけでは対応できない経済・金融情勢の悪化が生じた場合、バランスシート政策を修正する」という考えが示されていたが、実際には、保有資産削減の年内停止のコンセンサスが既にできていたことはやや驚きだ。

保有資産削減については年内に終わらせるべき、とブレイナード理事は2月15日のCNBCのインタビューで発言していた。また、20日にはクラリダ副議長もCNNのインタビューで、保有資産削減については年内に終わらせ可能性を示唆した上で、その停止時期やその手続きなどに関する決定を、今後のFOMCで行なう可能性があるとしていた。

短期金融市場の安定と銀行システムの安定に配慮

昨年11月以降、FRBは政策金利の引き上げ姿勢を修正する考えを市場に示し、さらに、年明け以降は、資産買入れ策(バランスシート政策)についても修正する考えを、やや唐突に示し始めていた。こうした政策方針の急変振りには正直驚かされるが、それには、世界経済の変調、昨年末の株価急落など金融市場の変調、トランプ大統領からのFRB批判、などが影響していよう。

それに加えて、「FF金利を概ね中立水準まで引き上げる調整は進んだ」との認識があっただろう。しかし、一方で、FRBのバランスシートの削減についてはまだ始まったばかり、との印象であり、削減幅はなお比較的小さく、「バランスシートの削減も相当進んだ、政策効果はほぼ中立化した」との説明は難しいように思われる。それにも関わらず、FRBが資産買入れ策の修正方針を俄かに固めた背景は、実は明らかではない。

「超過準備を相応の規模で維持するのが、短期金融市場の安定の観点から望ましい」、との判断があると、FRB関係者はその背景を説明している。FRBの所要準備を含めた預金準備額は、1月末で1.7兆ドル(うち所要準備は0.2兆ドル)だが、「短期金融市場の安定の観点から必要な、バッファーとしての預金準備額は1兆ドルから1.2兆ドルの範囲と市場で試算されており、現在の資産削減ペースでは、今年の後半から来年初めにその水準に達する」との見方をクラリダ副議長は示している。

また、超過準備を高水準に維持することは、金融機関が高い流動性を常に保持することを意味するため、銀行システムの安定に寄与する、という狙いもあるのではないか。さらに、超過準備を高水準に維持したもとでは、政策金利の変動に直接影響を受ける銀行の資産の規模が大きくなるため、政策効果が高まりやすいとの見方もあるだろう。

いずれにしても、付利金利とリバースレポの金利を使いながら、高水準の超過準備のもとでもFF金利を円滑に誘導できた、というFRBの自信が、超過準備を大幅に削減しなくても、今後の金利政策を円滑に実施することができる、という判断へと繋がったのだろう。

トランプ政権の財政政策も影響したか

ただし、超過準備を高水準に維持することについて、FRB内でコンセンサスが俄かに成立した背景には、このように、従来から議論されてきた要因ばかりでないのではないか。足もとでのトランプ政権の財政政策も影響しているのではないだろうか。2018年には、前年末に実施した10年間で1.5兆ドルの過去最大規模の減税措置とインフラ投資の拡大などの財政拡張策を背景に財政赤字は拡大し、その結果、2018年に財務省証券の発行額は2兆300億ドルから2兆3,600億ドルへと16%も増加した。

こうした財務省証券の発行増加が、財務省証券市場の需給を悪化させ、2018年には短期証券(Tビル)の金利が顕著に上昇する局面が見られた。FRBは、超過準備を高水準に維持することで、財政拡張政策が財務省証券市場の安定を大きく損ねる事態を回避することを意図している、という面があるのではないか。

他方、FRBが保有する財務省証券の削減を続ければ、その分、民間の投資家によって消化される財務省証券の必要額が拡大する。政府が、財政赤字額に相当する財務省証券のネット発行額(グロスの発行額―償還額)とFRB保有分の削減額の合計だけ、民間の投資家は財務省証券の保有残高を増加させることが求められる。それが円滑に進まず、財務省証券の需給が悪化すれば、金利上昇(価格下落)など、財務省証券市場は不安定になってしまう。これは、実体経済にも悪影響を与えるだろう。

国債管理政策への関与を強いられる

FRBが当初の想定よりもかなり早い時期に、保有する財務省証券の削減を打ち切り、超過準備を高水準に維持する方針を固めつつある背景には、このように、トランプ政権による予期していなかった財政拡張策実施があったのではないか。それが、財務省証券市場に与える悪影響を、バランスシート政策の修正を通じて緩和する意図があるように思われる。これは、本来、中央銀行が関与すべき政策ではない国債管理政策(国債の発行、消化、流通、償還を円滑に進めるための政策)に、FRBが関与を強いられていることを意味するのではないか。

ところで、昨年12月のFOMC議事要旨では、FRB当局者は保有する財務省証券の構成をTビル(短期証券)中心にしたいと考えていることが明らかになった。これは、FRBが保有する財務省証券の平均満期を短期化し、イールドカーブをスティープ化させる圧力を掛ける政策だ。その分、金融緩和効果は減じられることから、これは正常化策の一つと位置付けることができる。

保有する財務省証券の「量」に注目すれば、今までみてきたように、FRBは経済、金融、財政政策の変化などを背景に、バランスシート政策の正常化措置を一巡させようとしている。しかし、平均満期の変化という「質」に注目すれば、正常化策をなお進める意図であると考えることもできるのである。

他方、昨年12月のFOMC議事録では、バランスシートの規模が安定すれば、住宅ローン担保証券を極めて緩やかなペースで売却するプログラムを導入することについても議論されたことが確認された。

こうした点から、今回の資産買入れ策の方針転換は、単純に正常化策の巻き戻しを意味するとは言えないのだろう。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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