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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

ECBの次は日銀との考えは早計

2019/03/08

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追加措置の背景に成長率見通しの大幅下方修正

欧州中央銀行(ECB)は、3月7日に開かれた理事会で、経済成長率の見通しを大きく引き下げ、さらに、年内の利上げ見送りと銀行への新たな資金供給策(TLTRO3)の導入を決めた。具体的には、政策金利に関するフォワードガイダンスを修正し、従来は「2019年夏まで」としていたものを、「少なくとも2019年末まで現行水準にとどまる」とした。さらに、期間2年の長期資金供給(TLTRO)の第3弾を、9月から実施すると発表した。

この2つの政策対応については、それぞれ決定のタイミングは市場の想定よりもやや早かった面はあるとしても、内容的にはいずれ実施されることは十分に予想されていたものだ。TLTROについては、期限を設けない枠組みを導入するとの観測も事前に出ていたことを踏まえると、比較的マイルドな枠組みに落ち着いたとも言えるだろう。

最も予想外だったのは、ECBが四半期ごとに公表している経済予測で、2019年の成長率を前回1.7%から今回1.1%にまで、大幅に下方修正したことだろう。成長率見通しを大幅に下方修正しながら、追加的な政策対応を示さなければ、金融市場の不安を煽ることになってしまう。この成長率見通しの大幅下方修正こそが、2つの政策対応を前倒しで決定させた可能性もある。

ところで、米連邦準備制度理事会(FRB)は、保有国債の削減を年内にも終了させるとともに、将来、景気後退時に、短期金利の引下げで十分に対応できない場合には、国債保有を再拡大させる可能性を示唆している。

それに対してECBは、昨年末で終了した国債買入れ増額(国債保有残高を増加させること)を再開させることは選択肢にはなかっただろう。それは、FRBは、リーマンショック後の国債買入れ策で、大きな技術的な問題に直面しなかったのに対して、ECBは、ドイツ国債を中心に国債買入れの技術的な困難さを痛いほど経験してきたからだ。それは、日本銀行についても同様であり、国債の流動性低下の問題に今も直面している。

そこで、同じバランスシート政策の修正でも、ECBは国債買入れ政策の修正ではなく、長期資金供給(TLTRO)によるバランスシート拡大を選択したのである。TLTROには、イタリアなどの銀行の経営の安定性を助けるという金融システム対策も含まれており、この点は、FRBの政策変更とは目的が異なる点もある。また、民間銀行に長期の資金供給を行えば、民間銀行がその資金で国債買入れを増加させ、それが、長期金利の低下に繋がる面もある。つまり、技術的に問題を抱えるECBに代わって、民間銀行に金融緩和効果を発揮してもらう狙いもあるのではないか。

日本銀行は直ぐには動かない

このように、ECBの政策変更は、FRBの政策方針の転換を単純に後追いしたものではなく、欧州経済の悪化をきかっけに、ユーロ圏の金融情勢などに配慮した独自の判断であった。市場では、FRBの政策方針が突如変更され、それに続いて、ECBが予想外の政策変更を実施したことから、次は、日本銀行の追加緩和策の番だ、との観測が生じているが、これは必ずしも正しくないだろう。

そもそも、政策転換のポテンシャル(のりしろ)について、金融政策の正常化が相対的に最も進んだFRBが主要中銀の中で最大であるが、国債買入れ減額など事実上の正常化を進めてきたとはいえ、正式な正常化には全く踏み出していない日本銀行にとっては、FRB、ECBと比べて小さいのは当然のことだ。

日本銀行が年内にも追加緩和措置を実施する可能性は、50%に近付いているようにも思えるが、3月14・15日の次回金融政策決定会合で、本格的な追加措置が決定される可能性は、なお低いと考えられる。それは、追加緩和が実施される条件はまだ整っていないためだ。

日本銀行が追加緩和に動く条件は、景気情勢の明確な悪化、1ドル100円に接近するような円高進行、政府が財政出動に動くこと(その際に、日本銀行が協調策としての追加緩和の実施を強いられる)、の3つである。昨年末に国内経済は後退局面に陥ったとの観測も出ているが、それは依然として不透明である。少なくとも、ユーロ圏と比べて日本の景気減速の程度はなお緩やかだ。さらに、ドル円は100円の水準までにはなお10円程度の余地がある。3月には、日本銀行は長期国債買入れオペで、買入れ減額をさらに進める姿勢を再び明確化しており、国債買入れ減額は引き続き粛々と進める方針だ。

FRBの政策金利引下げ、円高進行、選挙や消費増税を睨んだ政府の巨額の景気対策など、これから大きなイベントが次々と起こる可能性がある。日本銀行の追加策の余地が限られる中、本格的な追加措置はまだ温存しておくことが必要となる。

上記の3つの条件が満たされた場合には、2016年9月に示した選択肢に従って、日本銀行は短期金利を現行の-0.1%から-0.2%に引き下げること、場合によってはそれとETFの買入れ拡大策を組み合わせること、を現状では想定しているのではないか。

以上が筆者の日本銀行の政策見通しではあるが、「すべての追加策は副作用が効果を上回るため、実施すべきではない」という筆者の考えは、従来から全く変わっていない。

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