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フェイスブックが大胆にビジネスモデルを転換へ

2019/03/12

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急激なユーザー離れを受けて転換へ

米SNS大手のフェイスブックは、ビジネスモデルを2つの方向に大きく転換させようと、舵を切りつつあるようだ。その第1は、プライバシー保護に配慮し、SNSを公共的なものからプライベートな対話へとシフトさせていくもの、第2は、将来的には、対話サービスに電子商取引、決済など多くのサービスを組み込んでいくことで、ユーザーの利便性を高めていく戦略だ。

第1の点では、フェイスブックは、すべての主要サービスで暗号化メッセージを導入することや、プライベートな会話が長時間残らないようにする方針を示した。これは、公共性のあるプラットフォームとしては、大胆な方針転換である。また、2019年中に、「履歴消去」機能を追加することも明らかにしている。

ケンブリッジ・アナリティカ問題などの個人データ漏洩問題を受けて、ユーザーは、フェイスブックなどSNSの利用に伴うプライバシーの侵害に、非常に敏感になってしまった。その結果、SNSの使用をやめるユーザーが増えている。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが2018年に実施した調査によると、18~29歳の若年ユーザーのうち44%が、2018年9月までの1年間に、スマートフォンからフェイスブックのアプリを削除した、と回答した。また、30歳以上のユーザーの約40%が、数週間以上フェイスブックの利用を中断したと回答している。さらに、調査会社エディソン・リサーチの最近のデータによると、フェイスブックのユーザー数は米国だけで2017年以降、推定で1,500万人減っているという。その大半は、やはり12~34歳の若年ユーザーである。

このような急激なユーザー離れが、フェイスブックにプライバシー保護に向けた大胆な方針転換を促しているのである。

さらに、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は3月6日、事業の軸足を公の場で共有するコンテンツから、プライベートな対話に移していき、すべての主要サービスで暗号化メッセージを提供する計画を明らかにした。「デジタル上の公共スペース」で成功したフェイスブックが、少人数のグループがメッセージをやりとりする「デジタル版リビング」という、いわば正反対の方向へと転換を図るのである。

ザッカーバーグ氏は、「多くのユーザーは、より小さな集団内での交流や1対1の交流を好むようになっており、フェイスブックはそうした好みの変化に見合った商品を積極的に開発していく」と語っている。また、ザッカーバーグ氏は、「自分の発言が共有したい人にだけ見られると分かっている空間を持ちたいという欲求は基本的な価値観の1つだ」と述べている。

こうした暗号化メッセージを導入した対話サービスのプライベート化は、個人のプライバシー保護に貢献する一方で、フェイスブックが、ユーザーが作り出す不適切なコンテンツを監視し、排除するためのコストを節約する狙いもあるのかもしれない。この点も、欧米の議会では今後、批判の対象となることも考えられる。

中国型モデルに接近するフェイスブック

ところで、暗号化メッセージの導入などを通じたプライバシー保護の強化策によって、フェイスブックは一部データを得られなくなり、ユーザーの投稿内容、コンテンツなどをターゲット広告に用いることが、次第に難しくなっていくという側面がある。それは、広告収入が全売上高の約98%を占めているフェイスブックにとっては死活問題である。

そこで第2の点として、フェイスブックは、将来的にはサービスの内容を大きく見直し、メッセージ機能や決済、電子商取引に業務の軸足を移す計画を明らかにしている。その際に、モデルとなっていると見られるのが、10億人余りのユーザーを抱える、中国のソーシャルメディア「微信(ウィーチャット)」だ。テンセントが開発したウィーチャットは、当初はメッセージングサービスとして始まったが、その後、買い物や支払い、出前注文、映画鑑賞券の購入、レストラン予約、診察予約まで、一つのプラットフォームで多くのサービスを提供するアプリへと進化してきた。これは、ユーザーに高い利便性を与えている。

他方、ウィーチャットは、SNS上での広告掲載から得られる収入だけでなく、ゲームの取り扱いやタクシーの配車サービスなどの機能を追加することで、収入源を拡大しているのである。

個人データ漏洩を受けた企業イメージの低下や、世界規模での規制強化の流れを受けて、従来型のビジネスモデルが行き詰まりつつあるフェイスブックは、このように新たなビジネスモデル、新たな収入源の獲得に向けて、大きく動き出している。その際、強く意識しているのは中国のプラットフォーマーだ。

プラットフォーマーが提供するネット・サービスは、利便性が高いがプライバシー侵害への不安が強い中国型モデルと、プライバシー保護への信頼感が相対的には高いものの、利便性に劣る米国型モデルで、世界がまさに2分されている状態だ。こうした中、プライバシー保護強化という点では、中国型モデルからはさらに距離をとる一方、利便性向上や収入源の多様化という点では、中国型モデルに接近していくという、いわば「いいとこどり」の戦略にフェイスブックが活路を見出そうとしていることは、非常に興味深い動きだ。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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