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日本銀行の国債保有比率低下の意味

2019/03/19

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金融緩和効果が縮小する正常化局面か

日本銀行が19日に公表した2018年10-12月期の資金循環統計によると、国債発行残高に占める日本銀行の保有比率は12月末に42.99%と、僅かではあるが9月末の43.00%を下回った。同比率の低下は2012年3月末以来のこと、つまり「量的・質的金融緩和」開始以来、初めてのことである。

これについて日本銀行は、日本銀行が保有する国債の構成が市場全体とは異なるもとでの時価変動の影響、あるいは短期国債の保有減少といった、技術的、一時的要因と説明している。しかし、現在の調節方針を続けていけば、早晩、国債発行残高に占める日本銀行の保有比率は、安定的に低下していくことになるだろう。

政府によるグロスの長期国債発行額は、長期国債の償還分と新規発行分の合計で決まる。2019年度の国債発行計画によると、償還分に対応した借換債の発行額は1,031兆円、新規国債発行額は33兆円だ。日本銀行がかつて掲げていた、「長期国債買入れ増加ペースを年間80兆円にする」という目標は、日本銀行が保有する長期国債の年間償還分に、80兆円分を上乗せした額の長期国債を買入れ、保有残高を年間80兆円分増加させるというものだった。

政府による新規国債発行額を上回る額の長期国債積み増しを日本銀行が行えば、民間が保有する長期国債がその分減少する。そして、国債発行残高に占める民間保有分の比率が低下し、日本銀行保有分の比率が上昇する。それが、長期金利(正確にはタームプレミアム)を押し下げて需要刺激効果を発揮する、というのが国債買入れ策の基本的な考え方だ。

ところで、日本銀行は、2016年9月に長期国債買入れ増加ペースを政策操作目標から外して以降、そのペースを着実に縮小させてきた。いわゆるステルス・テーパリングだ。日本銀行が保有する長期国債残高は、最新の2月時点で、前年同月差36兆円まで縮小している。さらに、足もとの傾向を見るために、3か月前比年率換算値で見ると29兆円と、20兆円台まで縮小している。既に、政府の新規国債発行額を下回っているのである。

実際には、より詳細な計算が必要ではあるが、非常に大まかに見れば、国債発行残高に占める日本銀行保有分の比率が低下し、他方で、民間保有分の比率が上昇する局面に入ってきたと言えるだろう。長期金利への影響は、国債発行残高に占める日本銀行保有分の比率で決まるという「ストック・ビュー」に立てば、金融緩和効果が縮小する正常化局面に既に入ってきたと言える。

追加緩和観測が事実上の正常化策を助ける

足もとでは、内外の景気情勢は厳しさを増しているが、その中でも、日本銀行が金融緩和効果を縮小させる事実上の正常化策を推し進めている背景には、国債市場の流動性低下への配慮や、多くの副作用を生む日本銀行のバランシート拡大ペースを抑制する意図があるのだろう。

国債買入れ増加ペースの縮小を続けることで長期金利が上昇に転じ、また、それが円高を引き起こしてしまうことを、日本銀行は警戒しているだろう。しかし、グローバルな景気情勢の悪化や米連邦準備制度理事会(FRB)のハト派方向への政策方針転換を受けて、世界的に長期金利は下振れており、これが日本の長期金利の上昇を妨げている。さらに、国内経済の減速懸念が日本銀行の追加緩和期待を市場で高め、これも国内長期金利の上昇を阻んでいる。他方で、ドル円レートは、110円程度で比較的安定している。追加緩和観測が出ているがゆえに、長期金利上昇や円高の心配をせずに、日本銀行は国債買入れ増加ペースの縮小という事実上の正常化策を粛々と進めることができるという、一種矛盾した状況が生まれているのである。

FRBは、状況次第では国債買入れを再び拡大させる考えを示唆しているが、国債の流動性低下など、国債買入れに伴う多くのリスクを認識している日本銀行は、国債買入れ増加ペースの縮小は、今後も粛々と進めたいという思いが強いのではないか。この点から、金利政策では今後FRBに追随する動きを見せることがあるとしても、資産買入れ策では安易に追随しないのではないか。

追加緩和観測が広がるなか、国債買入れ増加ペースの縮小を進めているということは、日本銀行が仮に追加緩和の実施を強いられる状況に追い込まれるとしても、その手段として現在のところ想定しているのは、国債買入れ増加ペースの再拡大ではなく、短期金利(付利金利)の引き下げを中核とするものであることを示唆しているのではないか。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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