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アップル・クアルコムの和解に政権の力は働いたか

2019/04/22

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アップルの5Gスマートフォンの出遅れ

米国のアップル社と半導体大手クアルコム社は4月16日、足かけ2年に及んだ特許料を巡る係争を、互いに打ち切ることで合意した。この合意に基づいて、アップルはクアルコムに和解金を支払う。また両社は期間6年間の半導体供給の契約を結んだ。また、2年間の契約延長の選択権や、数年間の半導体供給についての合意も内容に含まれるという。

両社の係争は、2017年に始まる。アップルが、特許使用料の設定が不当であるとしてクアルコムに対し訴訟を起こすと、クアルコムもアップルに対して知的財産侵害の訴えを起こし、両社の関係は悪化していった。そこでアップルは、最新のスマートフォンで採用する半導体を、クアルコム製から米インテル製に切り替えた。ところがインテルは、スマートフォン向け5G(第5世代移動通信システム)技術を得意としていなかったことが、アップルの5G戦略を狂わせたのである。

韓国のサムスン電子が今年4月初めに「ギャラクシーS10の5G」モデルを発売して5G市場に参入するなど、サムスンや中国の通信機器大手の華為(ファーウェイ)を含む携帯電話メーカーは、すでに5G携帯を発売している。この点で、5Gスマートフォンの販売計画も示すことができないアップルは、大きく出遅れてしまったのである。

そうしたなか、アップルに5G用半導体を供給できるのは、2020年以降になるとインテルは説明していた。その場合、アップルが5G版のiPhoneを発売できるのは2021年以降となり、競合相手に決定的に大きな後れをとってしまう。また、アップルは通信半導体の自社開発にも乗り出していたが、製品化には3~4年かかると見られている。

こうした事情から、5Gスマートフォン競争にこれ以上乗り遅れないためには、アップルにとってクアルコムと和解する以外に選択肢はなかったといえる。そこで、アップル側が譲歩する形で、今回の両社の突然の和解に至ったものと見られる。

5G推進を始めたトランプ政権の影響も

ただし、和解の背景には、5Gで中国勢に対する後れを挽回することを目指す、米国政府の影響があったとの見方もある。

そうした見方の背景となる、直前の2つのイベントに注目しよう。第1に、トランプ米大統領は4月12日に、「5Gは米国が勝たなくてはいけない競争だ」、「われわれは5Gのリーダーでありたい」と強調し、米政府が民間企業の投資を後押しする姿勢を打ち出していた。具体的には、5G基地局設置などの政府補助金拡大を想定しているとみられるが、実際、連邦通信委員会(FCC)は、地方の5G整備に補助金を支給するため204億ドルの基金を設置し、民間投資の呼び水とする方針を打ち出した。

第2に、4月16日にファーウェイの胡厚崑(ケン・フー)副会長兼輪番会長は、「我々はオープンだ」と述べ、自社で製造する5G用チップを他社にも販売する方針に転じ、さらに「アップルにも5Gチップを供給する意向がある」とアップルに秋波を送ったのである。5G関連のファーウェイ製品については、トランプ政権は安全保障上の理由から排除を呼びかけており、この発言はそうしたトランプ政権を強く刺激したものとみられる。

こうした点を背景に、米国防総省などの政府省庁が乗り出して、クアルコムとアップルとの合意をアレンジしたのではないか、という推測が出ていると、中国メディア(人民網)は報じている。

また、米政府による直接的な関与はないにしても、トランプ大統領が、5Gの推進を強く訴える中、いわばその意を汲んで、米企業同士がこれ以上戦ってはいけないという判断がなされ、今回の両社の突然の和解に繋がった可能性は否定できない。米政府の国家戦略の影響が、間接的にせよ働いた結果、と考えてよいのではないか。

執筆者情報

  • 木内登英

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部
    エグゼクティブ・エコノミスト

    金融ITイノベーション事業本部 エグゼクティブ・エコノミスト

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