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コラム 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight

トランプ大統領は8月の日米貿易合意を想定か

2019/05/27

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貿易協議で米国は日本の選挙に配慮

27日に日米首脳会談が開かれた。その冒頭でトランプ大統領は、「貿易に関して、8月に両国にとって非常に好ましい発表をすることになると思う」と記者団に語ったことが注目される。これは、トランプ大統領が8月の日米貿易合意を想定していることを示唆している。さらにトランプ大統領は、「日米貿易交渉では大きな進展が起きつつある」、「貿易収支は早急に是正されることになるだろう」とも語っている。

トランプ大統領は、26日にはツイッターで、「多く(の成果)は7月の選挙後まで待つ」と投稿していた。こうした一連の発言は、トランプ大統領は、日本の政権にとって大きな政治的打撃となるような日米貿易の合意発表を、7月の選挙後に先送りする、との日本政府側の要請を受け入れたこと、しかし、そうした貸しを作ることで、最終的には日本側からかなりの譲歩を引き出す形での合意を見込んでいる、ことを示唆しているようにも見える。事実は不透明ながら、少なくともそうした観測が今後は国内で広がることになるのではないか。

「選挙結果への悪影響を懸念する日本政府に配慮して、日米貿易協議の合意発表を7月の選挙後に先送りする、との日本側の要請をトランプ大統領が受け入れた」との報道は以前にも出ていた。他方、今月半ばにはトランプ大統領は、自動車・自動車部品に25%の追加関税をかけるかどうかの判断を半年先送りするとともに、いわばそれを交渉材料に使うことで、日本と欧州連合(EU)から対米自動車輸出の削減措置を引き出す考えであることを示唆した。さらに、交渉を加速させるよう、関係閣僚などに指示している。

8月の日米合意を示唆した今回のトランプ大統領の発言は、こうした過去の発言とも整合性があると考えられる。

日米貿易不均衡の8割以上は自動車分野

ところで、トランプ大統領の「貿易収支は早急に是正されることになるだろう」という今回の発言は、日本側との合意内容の中で、日米間の貿易不均衡は相当分是正される、との感触を持っているようにも聞こえる。

財務省の「貿易統計」によると、2018年に日本は6兆4,553億円の対米貿易黒字額を記録した。他方、対米自動車・自動車部品の輸出額は5兆4,536億円、対米自動車・自動車部品の輸入額は1,706億円だ。日米貿易不均衡の81.8%は、自動車・自動車部品の分野で生じているのである。他方、米国からの食料品(農産物と肉類)輸入額は、1兆3,743億円だ。

日米貿易協議で、米国側が最も関心が高いのは、自動車・自動車部品での貿易不均衡是正と、農産物と牛肉の日本の関税率引き下げの2点だ。しかし、食料品(農産物と肉類)輸入額は全体でも5.6兆円であり、日本側が米国からの輸入品への関税を引き下げることでその競争力が高まって、仮に米国からの輸入額が倍増するとしても、日米貿易不均衡の是正効果は1兆円程度に過ぎない。

また、日本が米国からの自動車・自動車部品の輸入額を倍増させても、日米貿易不均衡の是正効果は1,700億円程度に過ぎない。ところが、日本が対米自動車・自動車部品の輸出額を何らかの方策を通じて半減させれば、日米貿易不均衡の是正効果は2.7兆円にのぼることになり、貿易黒字額は一気に4割以上減少させる計算だ。

こうした計算を踏まえると、トランプ大統領が、8月の日米貿易合意で「貿易収支は早急に是正される」と考えているのであれば、それは、自動車分野で日本側が輸出抑制でかなり譲歩するとの感触を得ている、とも考えられるのではないか。

輸出の数量規制は世界貿易機関(WTO)のルールに抵触することもあり、日本側は受け入れない姿勢だ。しかし、日本側が自主的に現地生産への代替を行ない、その見通しを数値で示す、というような形であれば、ルールに抵触しないだろう。しかし、仮に日本が自主的に自動車・自動車部品の対米輸出を半減させれば、それは日本のGDPを直接的に0.5%押し下げる計算となり、経済への影響は甚大となる。

日米首脳会談に先駆けて、25日にはライトハイザー米国通商代表部(USTR)代表と茂木大臣との間で閣僚級会議が開かれたが、そうした場で、日本側が密かに譲歩案を示したのではないか、との観測も生じている。真偽のほどは明らかではないが、それらは今国会でも大きな議論となるだろう。

執筆者情報

木内 登英

エグゼクティブ・エコノミスト

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