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FRBの政策枠組みの見直し討議が開始

2019/06/05

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FRBに平易な言葉でのコミュニケーションを提言

米連邦準備制度理事会(FRB)は、6月4日に2日間の予定で、金融政策の枠組みの見直しを討議する会合を開いた。利下げの可能性を示唆したパウエル議長のスピーチが注目されているが、ここで主に議論されるのは、短期的な金融政策のスタンスではなく、金融政策の枠組みを見直す必要があるかどうかという、やや中期的な課題だ。仮に見直すとしても、年内の政策に直接反映されることはない。会議には、ケネス・ロゴフ米ハーバード大教授、モーリス・オブストフェルド前国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストら、金融政策に詳しい経済学者、また、労働組合や中小企業向け融資団体の代表らも出席し、公聴会形式で進められる。

その会合に向けて、有識者らが提言書をまとめた。提言書は元財務次官補でノースウエスタン大学教授のジャニス・エバリー氏ら3人が共同執筆した。そこには、規制の抜け穴によって将来の金融危機回避が困難になるといった指摘、さらには労働市場指標に関する新たな提案などが盛り込まれている。

さらに注目されるのは、「FRBは平易な言葉遣いを心掛けるべき」という、コミュニケーションの改善策が提案されたことだ。具体的には、FRBの声明には専門用語が多いため、高校教科書レベルの平易な文章を心掛けるべきだ、との意見が示されている。

この見直しの最大の焦点は、予想物価上昇率(インフレ期待)を高めることを通じて、次の景気後退時にも金融政策の有効性を維持することにあると考えられる。現在の景気回復局面で物価上昇率(PCEコア)は、平均1.6%とFRBの物価目標である2.0%を下回っている。予想物価上昇率もそれとともに2.0%を下回っている、と考えられている。これがさらに下振れすれば、景気後退時にFRBが政策金利をゼロまで引下げても、実質政策金利(名目政策金利-予想物価上昇率)が十分に低下せず、金融政策の景気浮揚効果が限られてしまう。また、ゼロ金利の状態が長期化し、いわば「日本化」のリスクも生じるのである。

平均的な物価目標の採用が有力か

見直しの具体策として、FRB内でもより多くの支持が得られそうなのは、2%の物価目標を平均的に達成することを目指す、というものではないか。

景気悪化局面で物価上昇率が2%を下回ることは避けがたいとすれば、景気回復局面で物価上昇率が2%を明確に上回ることを容認し、平均で2%程度になるように目指す、という主張だ。それによって、中長期の予想物価上昇率が2%まで高まり、その水準でアンカー(安定)されることが期待されている。

これは、物価上昇率が目標の2%を明確に超えるまでマネタリーベースの増加を約束する、日本銀行の「オーバーシュート型コミットメント」に通じるところもある。

また、ボストン地区連銀のローゼングレン総裁は、2%のインフ目標を、その目標値を中心としたレンジを目指すほうが好ましいとの見方を示している。このレンジ方式には、景気悪化時に物価上昇率が2%を下回っても政策への信認が低下しない一方、景気回復時には2%を上回る物価上昇率を容認しやすくなり、平均して物価上昇率が2%程度になるように誘導できる、という利点がある。このようなレンジ設定と平均インフレ率目標政策が、FRBの政策枠組み見直しの最終的な着地点になるのではないか。

ただし、こうした案についても、FRB内には依然懐疑的な見方もあり、議論が収斂するには至っていない。2%を大幅に上回る物価上昇率をFRBが認めることに、市場は懐疑的になるのではないか、とシカゴ地区連銀のエバンズ総裁は指摘している。インフレリスクを警戒するFRBは、実際に物価上昇率が高まれば、高いインフレ率を容認しない、と市場が考えた場合には、中長期の予想物価上昇率はそれほど高まらなくなるだろう。

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